【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.85】
「~スパイダーマン」、とても重要である
2012年07月03日
「今年、ある程度あった貯金が、少しずつ減ってきましたね」と私が話し出すと、「確かに。このままだと、また年間で2000億円を切ることもあり得るかもしれない」と、ある映画配給会社の営業責任者がぽつりと言い放った。
「貯金」とは、昨年実績と比較してのその上積み分のことで、それがだんだん目減りしてきたということに続いて、今年年間の興行収入のことに話が進んだのである。2012年も半年が過ぎ、いまだ昨年の低迷から大きく抜け出せない映画興行の現状が、このちょっとした会話からうかがえると思う。
この会話は、実は「アメイジング・スパイダーマン」がスタートしてからかわされたものである点でも、深い意味があると言えようか。まずは、その「アメイジング~」のスタート成績を見てもらおう。
▽先行上映・6月23、24日=全国動員19万4195人・興収3億2050万1300円
▽本興行・6月30、7月1日=42万6604人・5億8096万1300円
▽4日間累計=62万0799人・9億0146万2600円
▽スクリーン数=1092
数字だけを見れば、大ヒットである。今年公開された洋画では、最高の出足であることも付け加えておきたい(土日累計)。ただ、このシリーズは、過去の実績が1作目75億円、2作目67億円、3作目71億円。今回は3D版もあり、当然目標は高い。それからすれば、今後の展開はともかくとして、スタートの段階ではかなり足りない成績だと言えよう。
この時点で、その原因を探るのは酷な気もするが、あえて非情に徹して、ほんの数点だけ挙げてみたい。まず一つに、3D映画という特性が、プラスになっていないのではないかということがある。というより、現時点における3D映画に対する日本人の関心の低さが、そのまま出てしまったと言ったほうが、より近いかもしれない。
これまでの3作品と比べて、どこが新しかったか。これが、曖昧のように見えた。ただ、曖昧さがとれたとして、関心が広がったかどうかは微妙なところもある。俳優の知名度が低いこともあった気がする。邦画、洋画にかかわらず、興行領域における俳優の重要性は言うまでもない。ここに人気がないと、興行面への影響は少なからずあろう。
今後の興行展開を、じっくりと見てみたい。今挙げた点は、1週目、2週目と、今後の展開のなかで、いかなる変化の度合いを見せていくのか。また、海外の興行状況の分析も重要である。とにかく、本作の興行はとても重要である。
(大高宏雄)