【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.81】
「テルマエ~」、笑いと肯定的な日本
2012年06月05日
「テルマエ・ロマエ」の興行に、各方面から改めて驚きの声が上がっている。6月3日現在で、全国動員366万7233人・興収46億4573万0050円を記録。最終では、50億円突破がほぼ確実な情勢になったからである。
この成績は、現段階で昨年の邦画興収トップであった「コクリコ坂から」(44億6千万円)を上回る。50億円を超えてくれば、一昨年の「~海猿」(80億4千万円)や「踊る大捜査線 THE MOVIE3」(73億1千万円)に次ぐもので、すべてフジテレビ主導の作品であるのも注目点だろう。
「テルマエ~」は、スタート時点では土日2日間で、4億3255万2300円だった。この時点での一つの興収見込みが、30億円を超えるかどうかだったことを考えれば、その後、いかに落ち込みが少なかったかがわかる。本作の興行の特徴は、よく言われる口コミが非常に効果的だったことだ。これは単純に、作品の中身へのリアクションが良かったことを示す。もちろん、これを促した宣伝量の多さも特筆すべきだった。
冒頭の驚きの声とは、人気コミックの映画化とはいえ、ここまで大ヒットするのが、予想の範囲外だったからだろう。とともに、コミックファンだけではなく、というより、大方が原作コミックなど見たこともない広範囲の客層となったことも、驚きを促した一つの理由だった。
ここまで客層が広がり、大ヒットを形成した理由として、私は2つほど指摘できることがある。笑いの要素と、肯定的な日本、及び日本人像である。
前者は、そのものズバリだが、今の時代に求められている大きな要素として挙げたい。ただ、その笑いはお笑い芸人がテレビで繰り広げる手垢のついたものではなく、シンプルかつストレートなものである。
後者は、あらゆる領域で存在価値が下がっているかに見える日本と日本人を、今一度、別の視点からその価値を肯定的に見直したいとの人々の欲望である。「テルマエ~」は、それをうまくくすぐったと私は見る。
全く新しいジャンルの大ヒット作の登場である。続編がもしあるのであれば、さらに破天荒な笑いの中身にしてもらいたいと、切に願う。笑いだけでも困るわけだが、観客は明らかに笑いを求めている。その“マインド”を満足させつつ、それだけではない要素で別の刺激を与える作品になれば、より面白さが増すのではないかと思う。
(大高宏雄)