ロンドン五輪‐放送界にとって分岐点
2012年06月22日
あと1ヵ月に迫ったロンドン五輪(7月27日~8月12日)。NHKも民放もこれまでを上回る規模の中継で取り組むが、今大会は大きな節目にあると捉えられる。
というのも、今大会より、地上波で生中継しない競技をインターネット生中継する試みを行う。これにより、今まであまり注目されずに見られなかった競技がライブで視聴できる。関係者にとっても喜ばしい出来事だ。放送と通信連携の最たる試みとして歓迎される一方で、一体どれだけの人がインターネットで視聴するのか。ネット視聴ニーズを測る指標になると考えられ、今後の五輪中継の在り方の行方を占うのではないか。
そして、五輪の放送権高騰は依然課題にある。NHKと民放連で構成するジャパンコンソーシアム(JC)は、10年バンクーバー冬季五輪と12年ロンドン夏季五輪の2大会分の放送権を325億円で取得した。次の2014年に開かれるソチ冬季五輪と、2016年のリオデジャネイロ夏季五輪の放送権は、2大会合わせて360億円で取得することに合意した。約1割強アップしたことになる。これには、テレビ・ラジオ放送のほか、インターネットや携帯電話など、日本国内における全てのメディアの権利が含まれている。
ちなみに、以前の00年シドニー五輪から08年北京五輪までの夏冬合わせた5大会の放送権は約650億円で取得している。膨大な金額だ。
そもそも、日本の五輪の放送権料は、76年モントリオール大会までは数億円レベルだったが、80年モスクワ大会で約18億円、次の84年ロサンゼルス大会で約46億円と、このあたりから一気に跳ね上がった。その頃からオリンピックの商業化と云われ、賛否を呼ぶことになる。そして00年シドニー大会頃から1大会あたりで100億円台を突破したと見られる。
ちなみに、72年ミュンヘン大会まではNHKが契約し、76年モントリオール大会はJCの前身とも云えるJP方式(ジャパンプール=NHKと民放)、80年モスクワ大会はテレビ朝日、84年ロサンゼルス大会と88年ソウルは再びJPが権利取得し、そして92年バルセロナ大会以降、JCが契約することになり、現在に至っている。
JCは、五輪だけでなく、Wカップサッカーについても放送権を獲得しており、高騰する放送権にNHK・民放共同で対応している。だが、「Wカップサッカー南アフリカ大会2010」における民放の収支は、オリンピックも含めて、JCが放送権獲得対応した歴史の中で初めての赤字となった。当時の民放連広瀬道貞会長は「ショックを受けた」と話している。放映権料と番組制作費を足した費用が、広告収入を上回り赤字となったのだ。かねてより、スポーツの放送権高騰は危惧されているが、とりわけオリンピックの激しい高騰は止まらない。放送局側としてはそれに応える体力が既にピークに達していよう。今後の適切な放送権につながるべく、今大会の日本のセールス状況が注視される。
今大会より、大会終了後の9月に民放BS5局で3D映像ハイライトを放送する。これも新たな試み。今後期待される3D市場をにらんでの実験的取り組みだ。
放送権料とインターネット生中継、そして3D放送、これらの行方占う意味で、今大会は放送界にとって大きな分岐点にあるように見える。
(戎 正治)