電通がユニークなネーミングのプロジェクトを3月に発足した。「オタクがラブなもの研究所」だ。オタク層の視点でマーケティングするという。
発足に先駆け、調査を昨秋実施した。それによると、15歳~39歳で「自分をオタクと思う」「他人からオタクだと言われる」人は約4割に達したという。ゆえに、もともと情報感度が高く、幅広いカルチャーに精通するオタク層は、コンテンツビジネスにおけるトレンド感覚にも優れており、オタクコンテンツが一般化する日本社会の中で、アウトサイド的な存在からトレンドセッターへと変貌したと裏付ける。そして、オタクコンテンツは、今までニッチだったものが広く一般に波及し、映画やテレビドラマ、アニメ、バラエティといった幅広いエンタテインメントコンテンツに大きな影響を及ぼすようになっていると。
たしかに、もうずっと以前から、マニアックなものが広く世間の関心を惹く傾向にもなっている。もうオタク=アニメの定義はとっくに崩れ、メジャーになっている。
この研究所では、こうした時代の潮流に着目し、今後、トレンドセッターとしてのオタク層、この層が注目する良質なコンテンツを研究し、エンタテイメントコンテンツ市場におけるトレンドの兆しをいち早く掴み、日本のコンテンツビジネスを活性化させる様々なソリューションの提供を目指すとしている。
調査結果の中で、オタクコンテンツだけでなく、ファッションやビューティー領域のトレンドにも高感度な「女性オタク」層の存在を明らかにした。この層は一般の女性よりもファッション誌やビューティー誌の閲読率が高く、世の中のトレンドに対しても敏感で、美しいものに対する意識が高い。かつアニメを中心としたオタクコンテンツに関する知識も豊富で、興味・関心も高い。研究所ではこの層を “美オタ” と名付けた。彼女たちはビューティやファッション感度が高く、見た目は普通の女性だが、中身はオタク。男性からの高感度も高く、恋人がいる確率が高い。とにかく “オタクかわいい” を楽しむ。
今年はこの “美オタ” 層に着目していきながら、有識者ネットワークの構築、商品・サービスの開発やアニメなどのエンタテイメントコンテンツの開発・情報発信・知見を活用したソリューションを提供していくと。
「テレビの大革命」と云われた “地上波デジタル化” という大事業がまもなく完成する。被災した東北3県のアナログ放送が3月末で終了し完全デジタル化となる。衛星セーフティネットやCATVデジアナ変換による視聴世帯はまだ残るものの、大きな節目を迎える。デジタル化の本当の真価が問われるのはこれから。高画質に加えて、ソーシャルサービスなどデジタル特性を活かしたサービスの提供が課題。送り手のテーマはコンテンツ+テレビのネット接続率100%化だろう。VODサービスは着々と広がっているが、利用率の実態は相当に低いと云われる。ネット接続率を上げることが高いハードルにある。これまでアニメとアダルトが、今で言うデバイスを普及・牽引してきた。VODも同じ様相を見せ、きっとこれからだろう。
今回の電通のプロジェクトの中にも何かヒントが得られるのではないか。 “美オタ” たちがテレビに夢中になってもらえれば……それがスマートテレビなのかは今後の展開次第だが、大いに “オタク” たちの力を借りたいもの。 “オタク” たちがコンテンツ業界を救うのだ。
(戎 正治)