インタビュー:野田助嗣松竹(株)専務取締役映像本部長
2010年01月13日
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SMT全サイトで見直し ―― SMTは、10月20日グランドオープンの「MOVIXココエあまがさき」(大阪府尼崎市)を含めて22サイト開業していますが、全サイトで見直しをしているわけですか。野田 そうです。全てのサイトで家賃の見直しを大家さんと交渉しています。その中でわりと早く交渉がすんだ所と、まだ継続している所があるんですが、一応その結果が上期に効いてきているんです。それからSMT自身でやれるコストの見直しについても、相当厳しく削減に取り組んだ結果が数字に現れてきました。また、衛星劇場に関しては、韓流ブームが去ってからの視聴者離れ対策ということで、この年末ぐらいに再度いろいろなキャンペーンを展開して行きます。
―― 韓流に代わるべき作品というのはないのですか。野田 次はこのブームだ、この傾向の作品を編成しようという、具体的
なところまではいっていないのが現状です。ただ、自社で独自のコンテンツを制作しようという努力はしています。
―― ところで、先程の「おくりびと」の収支決算はどうなっていますか。野田 (幹事会社はTBSさんで)松竹は配給を担当しましたが、総興収は64億円を上げました。
―― 利益率は高いですね。野田 高いですよ。
―― 来年の1月末に映連が発表する「2009年度映画概況」でも、また「おくりびと」は出てくるでしょうね。今年1月からで35億円稼いでいるわけですからね。野田 そうですね。私がこの業界に入って41年になりますが、「おくりびと」の様な経験は初めてです。大体買い付けた洋画作品で、それも米国アカデミー賞の発表に合わせて公開して、そこからバーンと数字がはねることはあっても、ファースト・ランと同じぐらいの成績を、公開した翌年に上げるというのは、いままでなかったんじゃないですかね。
映像の下期は厳しい
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↑『釣りバカ日誌20 ファイナル』 製作・配給:松竹株式会社 09年12月26日(土)全国お正月ロードショー |
―― それで、下期(平成21年9月~22年2月)の見通しはどうですか。野田 下期は、正直言って厳しいです。9月19日に公開した「カムイ外伝」は、総コスト自体が非常に大きくなっています。
―― 興収はどうですか。野田 12億円弱というところでしょうか。
―― この作品は、キャストが交替し撮り直したりして製作費が予算を大きくオーバーしたわけですね。野田 その通りです。製作を一旦中断して取り直すという予想外の展開になりました。
―― 保険には加入していなかったのですか。野田 加入はしていたのですが、全額が戻ってくる訳ではありませんから。
―― これは当初、映像制作会社の(株)ビーワイルドへ製作委託をされていたわけですね。野田 そうです。最初はビーワイルドへ製作を任せていたわけです。ところが役者のケガやなにやらがいろいろ重なったこともあり、此方としても製作管理に危惧をもっていたところへ、途中で、相手側から、「今いただいている予算ではできなくなりました」と、増額要求があったわけです。沖縄にセットを作り、いろいろなアクシデントが続いた中で、当初考えていた予算内では収まらないということで、プロデューサーとのやり取りがありました。「これだけプラスしてもらわなかったら作れません」という話になり、このままビーワイルドに任せて本当に完成できるのかどうかということが、一つの大きな問題として残ったわけです。増額して作るにしても、ビーワイルドではなく、松竹が主体で作るべきだと。松竹の榎望プロデューサーや、当時の松本輝起取締役編成局長(現・中映㈱社長)といろいろと議論した結果、一旦、ビーワイルドとの製作委託契約を解約して、ビーワイルドがその段階まで撮影した部分を引き継ぐことにしました。去年の6月から製作を松竹にシフトし直して、とにかく作品を完成させたわけです。また、現在も、ビーワイルド側と残った問題について協議を重ねています。
―― 10月10日公開の「引き出しの中のラブレター」も厳しかったですね。この作品はどういう経緯で作ることになったのですか。野田 これは邦画編成室の小林敬宜プロデューサーの企画で、松竹のカラーに合ったものだからということでスタートしました。作品自体は非常にいい評価を得ていたのですが、公開された10月10日は「引き出し」を含めて数多くの作品が公開されたこともあり、埋没してしまったんですね。宣伝面で、当初担当する予定だった会社が降りて途中から松竹が担当するなど、出遅れたことが最後まで響きました。この映画を作ったことの後悔はないんだけれども、落ち着いた味わいを伝えきれず、もう少し早くから立ち上げて、松竹が主導して宣伝していれば、もっと良い結果を残せたのに残念です。
―― 「風が強く吹いている」(10・31)はどうでしたか。野田 これは箱根駅伝を舞台にした青春群像劇で、素晴らしい作品に出来上がっていて、見た人の反応も良かった。2桁の大台は狙っていたのですが、結果は、僕らの考えている数字の6割といったところでしょうか。
―― そして、正月の「スノープリンス 禁じられた恋のメロディ」(12・12)、「釣りバカ日誌20ファイナル」(12・26)、はそれぞれどのくらいの興行成績を見込んでいるんですか。野田 「スノープリンス」と「釣りバカ日誌20」の2作品については、2桁以上を狙っています。特に「釣りバカ」は今回がファイナルですから、いままでテレビ放送で見ていた人に対しても、劇場に足を運んでもらえる宣伝展開をして、シリーズ完結を飾るにふさわしい興収を上げられるよう今取り組んでいるところです。
【野田助嗣氏略歴】 昭和21年3月1日生まれ、東京都出身。昭和44年3月中央大学経済学部国際経済科卒、昭和43年3月松竹入社、平成6年5月映画興行部長、平成10年5月取締役、平成12年5月常務取締役、平成13年5月常務取締役映像本部長(現任)、平成15年5月専務取締役(現任)、平成21年5月映像統括部門、編成部門、映画営業部門、映画宣伝部門、映像商品部門、映像ライツ部門、映像製作部門、テレビ部門担当。 |
(全文は月刊誌「文化通信ジャーナル」09年12月号に掲載)
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