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インタビュー:布川郁司 一般社団法人日本動画協会理事長

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インタビュー:布川郁司 一般社団法人日本動画協会理事長

2009年11月17日
――今年は中国ブースのにぎわいもありましたね。

布川 今年は、リーマンショックから近かったんで、来る人は多かったんですけれども、皆がビジネスとして慎重になり、ビジネススケールは落ちたかもしれないです。TAFの出展小間数では影響を受けず、逆に増えていたほどでしたが。部分的に見ると、アメリカの方々の商売スケールは減ったと思います。

――昨年秋の「MIPCOM」にはまだその影響はなかったけれども、春の「MIPTV」では影響を受けたと聞いています。

布川 うちも同じく影響を受けたんですけれども、開催が今年の3月だったので、前から決まっていた出展の部分は減らなかった。その上で商談の部分で小さくなったんだと思います。

――TAFという場ができたことで、直接的な商談の部分だけでなく、世界中からアニメの最新情報が集まるようになるということでも、発展性がありますよね。

布川 基本的に継続だと思います。世界中から情報も集まり、1年1年の歴史が詰まっていくことで価値は上がるのでしょう。何年も積み重ねていけば、映画のアカデミー賞のように権威も出てくるようになると思います。アカデミー賞自体も最初は、大したものではなかったはずですが、ずっと積み重ねてきたことでステータスになっているわけですから。実は、石原(慎太郎)東京都知事(TAF実行委員長)からも、アニメ界のアカデミー賞を作ってくれと厳命されていましてね(それが、TAFの東京アニメアワード)。とはいってもすぐには作れませんので。最近は各国からいろんな作品がノミネートされまして、そしてTAFで賞をもらうということは、それなりに皆さんにステータスに感じてもらえるようになってきています。さらに積み重ねていき、受賞が世界中から名誉だと思ってもらえるものになっていけばと思っています。
 
世界に誇る日本のアニメ

布川 我が社(ぴえろ)の場所は三鷹でして、世界中からファンが集まるジブリさんの「三鷹の森ジブリ美術館」に向かう途中の場所にあります。私はちょっと悔しいんですが、ジブリの紙袋を持った人たちがたくさん歩いているんです。また会社からはジブリ美術館に向かうジブリバスもよく見ていますし、そのバスにはたくさんの外国人が乗っているということも見ているわけです。今やジブリ美術館を訪れる外国人の方々はとても多いんですよ。

 それはやはり、日本のアニメーションの文化度の高さみたいなものを表しているんだと思います。いろんな面で不安要素も多い時代ですが、いろんなエンターテイメントの産業からすると、日本のアニメーションは世界に誇れる、日本の国民性を表した産業であるわけですから。このアニメについて、国が産業・文化を集積するような、アーカイブスセンターのようなものを推進してもいいと思うんですよね。

 アーカイブスセンター設立には、産業界だけでは力の限りもありますし、国からのサポートが必要なものであるので、そういう意味では、国・行政のサポートを得られるように力の限り働きかけていきたいと考えています。今の民主党さんの政権でもメディア芸術総合センターを潰すことだけを公約にしないで、アニメ産業を大事にしてもらいたいと思っています。

 アニメーションの海外でのすごさという部分では、今年7月に仏パリでやった「JAPAN EXPO」も印象的です。日本のテレビでもかなり放送されていましたからね。日本のコミック・アニメというカルチャーが世界で爆発しているという姿を、ああやってテレビで取り上げられてみると、アーカイブスセンターの設立を是非実現したいなとまた感じました。

 私も仕事で海外へ行った時に、外国の方とお話をさせていただくと、私がアニメの仕事をやっているということで尊敬の念を抱いていただけるようなこともあるのです。その時に、日本に行った時にどこへ行けばアニメのアーカイブスがあるのかと聞かれることがよくあります。ですが今はそういう場所はないわけですよ。

 パリにはルーブル美術館があり、ニューヨークにはメトロポリタン美術館があり、それぞれ、その国の文化など、貴重な財産が集積・展示されていますよね。ですが、日本にはアニメのアーカイブセンターはないんです。世界に誇れる日本のアニメーションについて、国でその集積・アーカイブを行なうということはあってよいことだと思います。今そのチャンスだと思うんです。そんな中で、「国立メディア芸術総合センター(仮称)」構想というのは、残念ながら今回の衆院選で「政争の具」になってしまいました。

――ですが、民主党政権でもまた新たな考え方の中で、形を変え実現できる可能性はありますよね。

布川 その場合でも、切り口をどうするかで中味は変わってくるので、すべて国が主導でやるという場合に、我々がイメージしたものが実現されるのかっていうことについても考えなければいけないし。ただ何もないっていうのはいかがなもんかと思いますね。

――アニメセンターがもっと大きくなっていくことも考えられそうですね。

布川 またその場合は、ある程度民間が考えたものに、国がサポートしていただけるというような仕組みを作るのかなども考える必要がありますよね。やるからには成功したほうがいいわけですから。世界に自慢できるものを作るためにはどうしたらよいかってことは、これから十分に議論したほうがいいと思います。

 東京の西部地域には、アニメ産業が集積しています。そのため都では、産業面・観光面などでのアニメ産業へのサポートが実現しているのですが、一地域の話だけでなく、国としての取り組みへと発展して、せっかくだから拠点となる施設ができたらいいですよね。

――私も是非にと期待している部分です。

布川 時代は変化していくので、歴史的価値があるものをアーカイブとして残しておく必要があるなと感じます。実際、過去のアニメであれば痛みが激しく、その修復・保存だけでも、今の最新技術で残していくにはかなりのコストがかかります。そういうものだけでも、国の助成を取り付けられるようにしたいとも思います。これまで半世紀を超える歴史を刻んできたアニメを、後世の人たちに残すという役割も必要なんじゃないかと思うんです。これらは今後も、何らかのアクションを継続していくつもりです。

(※全文は、文化通信ジャーナル10月号に掲載)


布川 郁司 (ぬのかわ・ゆうじ)
(一般社団法人日本動画協会 理事長
     株式会社ぴえろ 代表取締役社長
           東北芸術工科大学 客員教授)

昭和22年2月11日、山形県酒田市に生まれる。
昭和42年、日本デザインスクール卒業後、アニメーション会社朋映プロ入社。
アニメーターとして、「宇宙少年ソラン」「冒険ガボテン島」等に加わる。その後、虫プロ、スタジオジャックなどを経て、竜の子プロダクションに入社。アニメーターから演出家となる。主な作品として、「カバトット」「タマゴン」「いなかっぺ大将」「てんとう虫の歌」「キャシャーン」「タイムボカン」「ヤッターマン」など、多数の作品を担当。約6年の竜の子時代を経て、昭和52年4月、スタジオぴえろを発足、「みつばちマーヤ」を手がけ、昭和54年5月7日には、株式会社スタジオぴえろ設立に至る。ぴえろでは、最初の作品「ニルスの不思議な旅」から数えておよそTVシリーズ72作品以上、映画15タイトルを制作している。平成14年5月の日本動画協会設立時に監事に就任し、以後も協会活動に深く関わる。平成15年に常務理事、平成19年には副理事長を歴任後、平成21年5月より理事長に就任、現在に至る。




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