インタビュー:中尾幸男(社)全日本テレビ番組製作社連盟理事長
2009年01月20日
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制作費@110番を設置 ―― ATPがまとめた08年度下期事業計画の中でも、プロジェクトがいくつも新設されていますよね。その主なもの、それぞれの狙いなどを説明していただけますか。中尾 最初に「下請法対策P」及び制作費@110番の常設・専門家起用。
これは(今年1月から開催されている総務省の「放送コンテンツの製作取引の適正化の促進に関する検討会」の検討成果として)、下請法ガイドラインも近々提示されると聞いていますし、法律遵守にのっとったビジネスの環境づくりに対応していくものです。我々にとって喫緊の問題となっている制作費カットが無謀な形で行なわれないよう、また各社に表れた動き・状況を把握していくために、制作費@110番をATP事務局に常設し、専門家を置いて対応していくこととしました。会員各社が個別では対応しきれないとか、単体では対応できないという部分に、組織として対応するものです。またこういった組織を立ち上げ・PRすることで、無謀な制作費カットの発生を未然に防ぐことができればと考えています。実際には、何か起きた時のかけこみ寺として、総体的な対処法をアドバイスしていくことになるでしょう。
―― このような取り組みをさらに推進するということは、制作費カットの現状は最近でも進展してきているとATPでは認識・把握しているということなのですか。中尾 制作費カットの現状についてATPとしては、既に余裕のない中で、さらに会社存立の危機になりかねないレベルにまで、この数ヶ月の間にも進んできていると認識しています。
―― TBS井上社長がつい先日のIR説明会で新たな中期経営計画を説明されたのですが、その計画の前提として、今期よりも09年度、2010年度は状況が悪化して放送収入が下がり、2010年度を底として回復基調に入るという将来予測を示されました。日本テレビは来年度の制作費予算を1000億円を切るレベルにするそうです(08年度制作費予算は、中間に修正加えた上で1160億円)。キー局でもすでにそういう前提で動いていくとなると、更なる制作費カットは目の前に見えているとも言えそうですが…。中尾 TBSさんがそのような予測を立てられたということは、今後さらに悪い状況になるという予測なのだから、制作費カットをやらざるを得ないという状況につながる可能性も十分考えられます。各ケースで異なるので一概には言えませんが、法令に触れるようなレベルの問題は起きないでほしいと思っています。
中尾 続いて「女性環境整備P」。
ATPができた当初から比べれば、女性がかなり増えてきている。女性は働くための条件を抱えていらっしゃるわけで、今回の理事改選で女性理事が誕生したことも含めて、遅ればせながら女性が働く環境を整えていくことに取り組み始めることにしました。まずは実態調査を行い、状況把握から行なってゆくことにしています。
次に「AD過重労働P」。
これは制作費カット・コストダウンの影響も出ている部分であり、実態調査をするまでもなく会員各社の悩みの種となっている課題です。ADが仕事に見切りをつけるきっかけにもなったり、ひいては将来を担う人材が集まらない、育たないことなどにも直結する大きな問題です。制作現場の問題は、全部が関連している問題なので、一つが片付けばよいという形ではなく、トータルで状況改善を進めたいと考えています。
次に「ATPルネッサンス宣言2009P」。
テレビに携わる者として、我々はかくありたいという原点に立ち返りながら考え、また我々の存在意義をどこに求めるのかということや、制作者としての気持ち・ポリシーなど、そういうものを改めて確認することが大事だろうという機運が高まっています。そういう行為が意思の確認となり、我々の存在価値をどこに求めるか、業界の中での存在価値、社会的な意味での存在価値、学生さんに向けたものなどを改めて捉え直して、各方面にアピールしていくことが重要だと感じています。あえてこの時期に内容をまとめ、アピールしたいと考えています。
番組開発Pは拠り所の発露中尾 そして「ATP番組開発P」。
これは一つの夢でもあるものなのですが、ATPの各社が知恵を出し合い、こういう番組を作りませんかと局に働きかけ実現させるという流れのものです。ATP会員各社が個々で日常的にやっていることでもありますが、それをATPとしてまとまってやれないだろうかと考えプロジェクトを立ち上げました。
我々は基本的には、「発意」と「責任」を負って番組を制作することを前提に考えていて、その存在価値の一つの発露として、そういった形で番組が制作でき放送できる枠を持ってみたいし、持たせてもらえないか、と考えています。若手のクリエーターの登竜門になったり、人材育成の場になったり。企画から制作、放送ということが一つのイベントにならないだろうかとか検討中です。局、代理店、製作会社のそれぞれの立場もあり、編成やスポンサーのことまでが絡んでくると至難な道かもしれませんが、厳しさを承知の上で、我々の考えをアピールし提案していきたいと考えています。もちろん、NHKの2011年以降の衛星波の性格変更と同時に、外部委託率を引き上げるという動きにも対応した考えのものではありますが。
ちょうど昨日(11月12日)、故・村木良彦さんを偲ぶ会が行なわれたのですが、ATPに尽力された方がお亡くなりになり、私が理事長を新たに仰せつかるということで、村木さんのお考えや意思などを改めて感じざるを得ない気持ちです。こういう時に理事長を仰せつかったこと自体を感慨深く思っています。
(全文は月刊誌「文化通信ジャーナル」08年12月号に掲載)
| 【ATP理事長/(株)C.A.L社長中尾幸男氏の略歴】 生年月日:昭和21年12月6日 職 歴 昭和44年4月1日 (株)電通入社 ラジオ・テレビ局企画室 63年1月 同 テレビ局企画推進部長 平成 8年6月 同 キャスティング局次長兼企画推進部長 10年7月 (株)C.A.L「水戸黄門」CP(現職) 12年3月 同 専務取締役 18年6月 同 代表取締役社長(現職) 20年9月 ATP理事長(現職)
これまでに携わった主な番組 ●おしゃれ(NTV) ●ムツゴロウとゆかいな仲間たち(CX) ●TVスクランブル(NTV) ●ニュース・ステーション(EX) ●RYU‘SBAR気ままにいい夜(MBS) ●水戸黄門(TBS)・大岡越前(TBS)など単発も多数。 |
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