インタビュー:秋山政徳(株)スカパーJSATホールディングス代表取締役社長
2008年09月05日
本誌 HD放送にあたり、衛星のトラポン(中継器)はどのように確保するのですか。
秋山社長 62チャンネルのHD放送をするには、合計13本のトラポン(今年10月トラポン3本、来年秋トラポン10本)が必要ですが、現状、空いたトラポンが十分にありませんので、通信用に使用しているトラポンを放送用にあてます。それで通信用に使っているお客様には別の衛星に移行して頂くことになります。これがけっこう大変な作業で費用もかかりますが、とりあえず、62チャンネル分のトラポンは確保できる見通しがつきました。
100チャンネル体制にするには、あと40チャンネル、8トラポンが必要になります。2011年前後に契約が切れる通信用のお客様がおりますので、8トラポン分は確保できる見込みです。それで100チャンネルが出来る体制が整う予定です。
ただ、HD放送の多チャンネル展開にあたっては、主にスカパー・ブロードキャスティングが役務会社となって放送する構想にあるので、マスメディア集中排除原則の規制緩和が必要です。それで規制緩和されるよう働きかけているところです。
「e2」HD放送を拡充
本誌 BS放送進出の狙いは。
秋山社長 新BS放送への進出は、110度CS放送「e2 by スカパー!」のHD化を推進するのが狙いです。「e2」では空いたトラポンがありません。同じ衛星軌道上にあるBS放送に進出できれば、「e2」のハイビジョン放送を拡大できます。3波共用受信機(地上デジタル、BSデジタル、110度CSデジタル)の急速な普及に伴い、「e2」の加入者は現在急速に伸びているので、さらに加速させるためにも、BS進出は重要な政策にあります。
本誌 BS放送の具体的構想は。
秋山社長 新たなBS放送には多くの事業者が手を上げてくるだろうと聞いていますが、スカパー自身は、現在「e2」で約3トラポン分の免許を保有しています。我々がBS放送に進出するには、マスメディア集中排除原則がどこまで規制緩和されるかが課題です。総務省は110度CS放送とBS放送合わせて4トラポン分までと規制する案を打ち出しているので、少しでも多く規制が緩和され、BSのトラポンを確保したいと考えます。
総務省はBS放送および110度CSデジタル放送を制度上「東経110度衛星デジタル放送(仮称)」として統合し、普及政策を一体化する基本方針案を打ち出しています。それは、我々CS放送へのエールと受け止めています。また、BS放送の裾野の拡大が先決ということであれば、誰が参入してきたらいいか見えてくるはずで、我々CS放送が多く参入できるよう規制緩和されることを期待したいと思います。
いずれにしても、新BS放送はまだ星雲状態。とにかく、今回中期経営計画でBS放送進出を宣言しました。いまは、自分たちのBS放送に対する基本的な考え方を近くまとめようと、いま議論しているところで、具体的なことはこれからになります。参入形態をどうするか等も含め、検討していきます。
人的再配置と経営効率化
本誌 昨年4月に持株会社、スカパーJSAT(現スカパーJSATホールディングス)を設立し、スカイパーフェクト・コミュニケーションズ(スカパー)とJSATを子会社として傘下に置いた。今年4月には宇宙通信を子会社化。さらに10月、その子会社3社を統合する予定で、グループ再編を進めている。
秋山社長 持株会社を作らずに、スカパーと衛星会社を合併出来ればよいのですが、制度的に、受託放送事業と委託放送事業を一緒には出来ません。そこで、持株会社制度にして、その傘下に各事業会社を置き、統制することにしました。10月に予定する3社統合会社は、プラットフォーム事業および衛星事業を行う会社となります。一部行っていた放送事業は切り離し、スカパー・ブロードキャスティング(旧ペイ・パー・ビュー・ジャパン)やマルチ・チャンネルエンターテイメントなどが放送事業を担い、持株会社の子会社として傘下に置きます。
子会社3社を統合することで、人、モノ、金、情報、技術を縦横無尽に動かせるようになります。管理系や技術系、トラポン営業に伴う業務関連など重複した業務、組織を統合するので、人的資源の最適配分と経営効率化が図れます。ただ3社を1つにすることが目的ではなく、中期経営計画を達成するために組織・人事体制を強く固めるということです。毛利元就が云うように、3本の矢を束ねた方がより強靭になるということですね。
中期経営計画は、この新体制のもと、安定利益のある衛星事業を成長の基盤にして、今後市場拡大が出来る有料多チャンネル事業を成長のエンジンにして、グループ全体の成長を目指します。
●(株)スカパーJSATホールディングス代表取締役社長 秋山政徳氏の略歴
1947年11月29日生、60歳。慶応義塾大学 法学部、70年4月伊藤忠商事(株)入社、97年4月同社宇宙・情報・マルチメディアカンパニー開発業務部長、99年3月JSAT(株)入社し、JSAT International Inc.Chairman&CEO、JSAT(株)取締役専務執行役員営業本部長など歴任し、07年4月スカパーJSAT(株)代表取締役会長、08年6月(株)スカパーJSATホールディングス(旧スカパーJSAT(株))代表取締役社長(現任)、JSAT(株)代表取締役社長(現任)に就任。
(全文は月刊誌「文化通信ジャーナル」08年8月号に掲載)