ラジオ最前線:後藤亘TFM会長に聞く「JFN構造改革」
2008年04月23日
機器・回線から見直し――この目標値への方策としてどのような案を検討していますか。後藤 まず放送機器の見直しです。日本メーカーの放送機器はアメリカの10倍の費用がかかります。これは機器の精度が違うためで、アメリカのラジオ局では通常の送信機に95%の精度の機器を使っています。仮に通常の機器で事故が起こっても数時間で復旧できます。その間、予備の機器は耐久性に難がありますが、デジタル技術によって充分に補えることができるのです。しかし日本の局は通常・予備ともに99%なので、これをアメリカの機器方式に切り替えることを検討します。日本でもコミュニティFMでは既に米方式で行われており、日本の機器メーカーにもお話しています。
――他にも方策はありますか。後藤 ネットワークの仕組みを変えることです。現在は衛星回線を使って番組を各局に供給していますが、これをNGN(次世代ネットワーク)による光回線に変更することを検討しています。
当初はNTTの地上回線を利用して番組を送っていたのですが、大地震が起きて回線が寸断されたらそれができなくなってしまいます。そこで一年間地上回線使用料据え置きで送受信設備、端末機材まで設置できたので、衛星回線による送出に変えました。これが完了したのは阪神大震災の直前。地上回線でやっていたら広島から先への供給ができなかったでしょう。
しかし衛星回線でも配信の方法が変わってくるなど、コストが掛かるようになってきました。光回線はコストも抑えられ、ネットワークも構築されたので、1つ寸断されても別ルートが利用できるようになりました。それに伝送量が大きいので映像も送れます。再び衛星から地上へと検討しています。
――コンテンツ面での戦略はいかがですか。後藤 メディア経営の一般論として、38局の作っている優良なコンテンツの再利用ができます。総務省ではテレビのコンテンツ再利用の話が議論され注目を集めていますが、ラジオこそ著作権をクリアすれば素晴らしいコンテンツはたくさんあります。
昨年はJFNで放送している音楽番組「DAYBREAK」(月~木曜27時)から60~70年代洋楽のコンピレーションCDを出しましたし、瀬戸内寂聴さんの講話をDVD化するといった企画も出ています。そういう発想がJFN全体に広がるようにしたいです。
持株会社は馴染まない――放送法が改正され、認定持株会社が解禁になります。この制度を活用することはありますか。後藤 それはこれから検討しますが、個人的にはJFNという組織に資金でローカル局を子会社化するといった発想は馴染まないと思います。
時代の流れとして、M&Aで弱小企業から強大企業になるというスケールメリットはあります。放送事業もそのロジックで言えば、テレビではメガメディアの誕生というのはあるでしょう。しかし小さなラジオ局が集まったところで、スケールメリットは生まれませんよ。そうした利益追求事業よりも、社会性・公共性にどう役に立つかというスタンスでのメディア運営がこれからの時代のもう一つの道だと思います。ただ人様の資本で経営をしていますから、黒字体質でその道を淡々と行かなければなりません。
――人材の有効活用という点ではどうですか。後藤 東京支社(JFN各局の東京支社が集積して入居する「JFNセンター」)を、1局1部屋ずつではなく、地域ブロック単位の大部屋に仕切り直すという方策もあります。既にFM山陰とFM山口の2局間で東京支社長を1人に統合し、現実に始まりました。そういった例が今後拡大していくでしょう。1局で大きな営業の売上がある訳ではないし、要件が一緒なら支社長1人でできます。スペース代、人件費もコンパクトになります。これは支社長自身では進められないので、経営者のトップダウンでやるしかありません。
(JFN系列38局06年度業績表および全文は
「月刊文化通信ジャーナル」08年3月号に掲載)