インタビュー:岡村正郎(株)ワーナー・マイカル専務取締役
2007年02月20日
■利益構造ではなくなる――ここ最近の決算の状況はいかがですか。岡村 売上、利益、動員、興収など細かな数字は公表しておりませんが、1つ言えるのは借入金が現在ゼロだということです。01年9月にマイカルが経営破綻した当時、当社でも相当額の借入金がありました。
当社は99年度に8サイト、2000年度に16サイトと立て続けに出店しました。マイカル破綻前の2年間で24サイトを作り、初期投資だけでも大きな資金が必要だったわけです。
ただラッキーなことに、01年夏に非常に沢山のお客様が来場されました。「千と千尋の神隠
↑ ワーナー・マイカル・シネマズ大日 し」「A.I.」などで劇場がフル稼働し、8月の1ヶ月間だけで475万人を動員しました。新しい劇場というのは、このように動員数が急増する時に一気に認知度が上がって、力を付けます。後から見た結果論になりますが、抜群のタイミングで24サイトを作ったことになるのです。そのような僥倖に恵まれて、昨年の2月末で借入金がゼロになりました。
――つまり、将来に向けた経営基盤が整ったということですね。岡村 いえ、借入金がゼロだと高らかに言えるのも、昨日までの話です。これからどうなるのか…当社だけではなく、業界全体が厳しい時代を迎えるでしょう。
1億6千万人の5%は800万人ですが、国内の映画人口は毎年800万人増えても、先ほど言ったとおり、毎年5%ずつスクリーンが増えますから、日本全体でみれば、1スクリーン当たりの動員数は同じですね。ということは、作品の力は前年と同じで、映画人口が変わらなければ、5%ずつスクリーン毎の動員は減っていきます。
今まではシネコンは利益を出してきました。時間が経てば利益が出るという構造でした。しかし今後、映画人口が2億人まで伸びずに1億6千~7千万人のままで、劇場が5%ずつ新規で増えていったら、どういう状況に陥ってしまうか。シネコンは非常に厳しい状態になります。
■競争時代でどう生きる――シネコンの競争が激しい時代になりました。今後どのような経営をしていきますか。岡村 客観的に見た場合、何もシネコンだけが特別に競争が激しいわけではありません。小売業は大型SCでデッドヒートを繰り広げていて、銀行だって合併しながら生き残りを図っている。商社だってそうです。当社は、競争時代を冷静に受け止めて、色々な施策を練っております。
マーケティングには価格、商品、販促、販路という4つの要素があります。例えばモノを売る時、価格を下げればお客様がどれだけ増えるのか、下げた分だけお客様が増えなかったら意味
↑ ワーナー・マイカル・シネマズむさし野ミューがないわけですから。4つの要素を考えながら、どのように経営を成り立たせるのか、当社の課題であり、業界全体の課題でもあります。映画は商品が同じで同質競合のようなものですから難しいですね。
自社の強みを生かしながら、どう生きていくか。正解は1つではないと思います。1つの正解を求めて時間をかけて分析するよりも、時代との競争において仮説を持ち、(1)やるべきことを決める(2)決めたことを早くやる(3)決めたことを徹底してやる(4)ダメな時は修正する…ことが必要だと思います。
きちんとお客様に対して接客をする、喜んでもらうというサービスの基本に立ち返ることです。競争の厳しい時代には勿論新たな政策は必要ですが、やはりオペレーションをきちんとすることが大前提としてあります。原点回帰、“プライド・イン・サービス”の精神です。
その上で、最終的に収支を合わせるために、動員数を増やすこと、効率的な経営をすることの両方が求められます。我々はエンタテインメントを提供する企業ですから、お客様に寂しい思いをさせてはいけない。でも、お客様の見えない暖簾から後ろの部分は徹底的に合理化することはできます。
(全文は月刊誌「文化通信ジャーナル」2006年12月号に掲載)