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トップインタビュー:豊島雅郎 アスミック・エース エンタテインメント(株)代表取締役社長

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トップインタビュー:豊島雅郎 アスミック・エース エンタテインメント(株)代表取締役社長

2009年07月28日
本誌 既にブルーレイの次を見すえて動かれているのですか。

豊島 カタログを持っているのは会社の強みにもなっていますが、これはハリウッド・メジャーさんとか邦画メジャーさんにはかなわない。ここ10年、20年で話題になった作品のカタログをいかに持ち続けて、そのカタログでホーム・エンターテインメントのVOD(ビデオ・オン・デマンド)の方でどう商売ができるかというのを、今すごく考えています。洋画においては、過去に自分たちが扱った「ニュー・シネマ・パラダイス」や「トレインスポッティング」はもちろん大事にしていきたい。ただ、「ショーシャンクの空に」や「ユージュアル・サスペクツ」、「ファーゴ」などは、権利を根元からハリウッド・メジャーさんが持って行っちゃったというケースもままあります(笑)。そういう場合には、我々は権利を再更新できないんですよね。もし再更新できるチャンスがあれば、せっかく自分たちで付加価値をつけたものは、なるべく権利をまた確保したい。それをうまく運用していくような形が、今までビデオグラムのレンタル、セルで培ったマーケティング能力を、同じホーム・エンターテインメントの違うプラットホームでも活用できるんじゃないかと思っています。ですから、やっぱりカタログだけは絶やさずに、チャンスがあれば他社さんが持っていたものというのも再契約の際には我々が権利を取得して、それを運用していきたい。本当にカタログをいかに持っているかというのが、勝負かなと。

本誌 2011年以降、カタログが活かせる時代が来ると。

豊島 そうだと思います。ただし、お客様がお金を払うモデルと、もしかしたら無料モデルと両方あると思います。無料モデルでも、我々はその時にB to CではなくB to Bで、他の企業さんなり、代理店さんになるのかもしれませんが、そこからお金を頂く形にはなるでしょう。これだけ携帯電話とかで定量制、定額制という形になってくると、VODの世界でも一つの主流になってきます。より早いウインドウ、要するに劇場公開ものだと、劇場公開から近いウインドウであれば、VODなりのタイトル・バイ・タイトルでの有料課金というのもあるとは思う。けれど、ある程度公開から時間が経ったものについては、今のビジネス・モデルでいうとWOWOWさんなどの定額制の有料モデルというのになってくるのかなと。その先というのは、もしかして無料モデル――クライアント、広告主に支えられているというのがあるのですが、それが今の地上波とかテレビ局というプラットホームではない形での、B to Bのやり方というのがあると思っています。多分テレビ局さんもそれで焦っているとは思うんですけどね。

本誌 例えばエイベックスの「BeeTV」のようなものをアスミックA自身でやりたいというというようなことはありますか。

豊島 親会社の住友商事に提案できるチャンスがあれば、「今これをやるべきじゃないか」という提案はしたいと思いますが、我々も資本においては潤沢ではありませんので、プラットホームを持つということはかなりな資本力がいります。そういう意味では住商の方に話をしながら、「今このビジネスが2年後、3年後に数千億円のマーケットがあります」という提案をするのはあります。もちろん住商もその辺は様子見でいろいろやっていますよね。

原点に立ち返り“小判鮫商法”

本誌 改めて、住商が豊島さん、アスミックAに求めているものは。

豊島 インディペンデントとして手堅くやって欲しいというのはあると思います。正直、私が社長になった07年というのは、けっこう右肩上がり戦略をとっていたんです。それは住商からの後押しも実はあったのですが、正直上手くいかなかった。右肩上がり戦略というのは、わりと買い付けとかも、大きい作品を買ったりとか、P&Aもちょっとかけてやってみるとか、それを「やってみなはれ」ということで住商からも支援され、やったんですが、結果につながらなかった。ただ、ちょうど業界がシュリンクしていくところで、我々としては非常にちぐはぐなタイミングになってしまった。
 タイミングが1年、2年早ければ、逆に乗っかれたかもしれないんですけど、業界が縮んでいくところに、拡大戦略をとってしまったところがありましたね。そういう反省を踏まえて、住商の方は、今はどちらかというとアスミックAらしい――例えて言えば、“小判鮫商法”と言いますか(笑)。そういうところを、より原点に立ち返ってやって欲しいと。それは新しいことを常にやるということとつながってくると思うんです。お金さえあれば、どの会社でも同じ様なことが出来ることではなく、我々しかできない知恵を絞って、今はもっと原点に返ってやるべきじゃないかということです。
 一時期は拡大戦略の路線も試行錯誤してみたんですけれど、やっぱり“メジャー”にはなれないですよ。まして米ドリームワークス(DW)作品もやり、DWも明らかに我々のやり方とは180度違うなというのは、身にしみてわかりました。実際そこに参加もさせて頂いて、トレーニングもOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)というか、新入社員のごとくやらせてもらいましたが、これは明らかにフィールドが違うなと。それはそれで勉強にもなりましたけどね。もちろんDWみたいにやって、拡大戦略もできるかもしれないと一瞬浮足立った時期はあったんですが、そこはやっぱりそうはなれないなというのを体験しました。それとは違うフィールドでやっていかなきゃということです。その経験を活かさないと、と思っているのが、まさに今です。対極をやらないと駄目で、ハリウッド・メジャーさんと同じことの縮小版をやっても、やっぱり資本大量投下しているものには勝てないんだなというのは、凄く身をもってわかりました。

※全文は「文化通信ジャーナル09年7月号」に掲載

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