トップインタビュー:角川春樹・角川春樹事務所特別顧問
2008年06月30日
――先程、脚本作りが大変だったと話されていましたね。角川 とにかく観客以前に、一体シナリオ・ライターがどこまでわかるのかという不安があったのです。NAKA雅MURAは宇宙に関連する本を何十冊読んだと言ったかな。一つの棚分だけ全部読んだんです。で、読みながら、片っ端から忘れていったんですね。それぐらいの難解なテーマです。ようやくシナリオ・ライターが理解できる程度のことを、三池監督も私も一体理解できるのかと。何度も念を押したのは、「三池、これ撮れるのか?」と。で、「できます」という返事だったのですね。当然、今までの三池タッチの映画ではなくて、「ねらわれた学園」や「時をかける少女」のような学園SFファンタジーを背景にしたラブ・ストーリーにしようと。原作はそこまで立ち入ってないのですが、ラブ・コメディの路線でいこうとしたんですね。それにはやはり、宇宙を作るというテーマははずせないなと。人間はどこから来て、どこへ行くのかということをこの作品のテーマにしました。
直感でヒロインは谷村に ――ヒロインの谷村美月さんの設定ですが、人工授精で生まれた女の子なんですが、実際には男の子のような感じで登場します。この設定なども、ある程度映画化のために変えたのですか。角川 いや、原作に沿っています。ボーイッシュにしたのは、原作の通りでした。ただ、スウェットスーツを着るのは監督の意図で、脚本とはだいぶ違うのです。例えば「それなりに決めて登場」と書いてあるのですよ。また、同じじゃないかとね。最後まで通しちゃいましたからね。
――今回、谷村さんの胸が特に強調されていますね。角川 みんなそう言っていますね(笑い)。ヌーブラを使ってやっているんです。ほっそりしているわりには意外に巨乳ですが、監督もそれを意識して、胸を思いっ切り開けている。あれは監督のねらいですね。
――女の子なのにボーイッシュなので、より女性だということを印象づけようということでしょうか。角川 たぶんそうだと思いますが、三池のねらいは、こっちに響いて来ない場合もあるわけですよね。例えば、なんで部屋の中に水を溜めておくかとか。あれは我慢比べじゃないけども、ずっと顔を突っ込んでパッと開けると、頭が明晰になるというんでしょう。そんなことは誰もわかりませんからね(笑い)。むしろあの水たまりが何かの意味をもって、もっと哲学的な解釈を持っているのかと思ったら、あまりないんですね(笑い)。
――でも、なんかちょっと不思議なシーンではありましたね。そして後半はおもにCGで再現された加速器「むげん」の世界に入っていくのですが、これは原作通りなのですか。角川 そうですね。「むげん」を使って宇宙を作ろうという話、もう一つ宇宙が生まれたら、今の宇宙は壊れるんじゃないかというストーリーは原作にはなくて、一種のパニック映画に仕立て上げているんですね。特に引きこもりの天才少女の孤独感みたいなものは今回非常に強調しているんです。これは原作者が一番ねらいとしたところでもあったらしいのです。
――角川さんは、主人公の市原隼人さんを相当気に入っていると聞いたのですが。角川 ええ、役者というのは役を演じるわけです。ロッカーという設定ですから、ヤンキーっぽいやつを選ぼうと。市原君は、川崎のヤンキーですから、これぐらい映画の主人公と本人が合っている、ピッタリというのはまず、ないですね。地のままといったらおかしいけれど、そのままですからね。
――市原さんの以前の作品をご覧になったのですか。角川 いや、そんなに彼の作品は見ているというわけではなかったのです。これは谷村についても言えることなんですが、それよりも、会って自分の直感を信じようと。で、会った時に三池も私も「あ、これでいけるんじゃないか」と。谷村についても同じでしたね。谷村は映画館のコマーシャルぐらいしか印象がなかったですからね。ところが会ってみると、自分の直感としては蒼井優以来のものを感じましたね。
――昨年8月から撮影して、今年3月に完成したということですが、実際に角川さんが作品を見て変えた部分というのはありますか。角川 いや、それはないです。ちょっと長いという印象は持っているんですよ。ただ、三池は「これ以上縮められません」と言ったものですから、OKしたのですが、「あれがOKになるとは思わなかった」と(笑い)。なんだい、なげえなーと思ったけどさ、監督がそこまで言うのではしょうがないかと妥協したのにさ(笑い)。
――2時間14分ですね。角川 そうです。「大和」なみの長さですよ。
――監督は、もう少し短くされると思っていたんですね。角川 ええ、私の手によってね。それも考えたんです。でも、どこを切るかと言った時に、例えば笑いのシーンはけずりたくない。そしてディベートの部分は、けずると話がつながらないということで、たしかに切りにくかったことは事実ですね。
ハルキ~ファンド設立 ――角川さんは今回、角川春樹事務所とは別にハルキエンターテインメントという会社を設立していますね。角川 これは私が100%出資で映画や音楽に投資する会社で、この会社とフィールズが組んで「ハルキ・フィールズ・シネマ・ファンド」を創り、今回の映画に投資しているわけです。フィールズは、「蒼き狼」「椿三十郎」とずっとパートナーを組んでいる会社で、パチンコ、パチスロの総合商社です。ですから、今回もフィールズの山本英俊会長も製作者になっているのですよ。
――今回のハルキエンターテインメントの設立はどういう狙いですか。角川 つまり角川春樹事務所は、映画も出版もやっている会社ですが、角川春樹事務所を上場するということを前提にフィールズが30%の株主になっているのです。50%は私が持っていますから。要するに会社を上場させないとフィールズも株を買った意味がないですからね。その点で、映画はどうしてもリスクがあります。そのリスクを角川春樹事務所に背負わせるのではなく、その大半はハルキ・フィールズ・シネマ・ファンドが負担しようということですね。ハンドル・チャージは角川春樹事務所が取ります。映画と出版との連動や映画の告知の部分では角川春樹事務所を看板にしなければならないことですね。リスキーな部分を私とフィールズが受けて、角川春樹事務所はむしろ知恵を出し実際に行動する部隊にしたわけです。ですからハルキ・フィールズ・シネマ・ファンドはお金だけ出しているわけです。
(全文は「月刊文化通信ジャーナル」08年6月号に掲載)