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インタビュー:塚越隆行ウォルト・ディズニー・スタジオ ホーム・エンターテイメント日本代表

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インタビュー:塚越隆行ウォルト・ディズニー・スタジオ ホーム・エンターテイメント日本代表

2007年12月19日

5つの柱でマーケット拡大

―この秋から年末にかけて強力な作品が控えていますよね。

塚越 10月から「ジャングル・ブック」を発売します。本数はそんなに大きくはありませんが、我々としては大事にしたいと思っているんです。というのは、ディズニーが作った最後の作品で、消費者に対してファミリー向けの良質なコンテンツを作っていくという意思表示だと思っています。売上で言えば「レミーのおいしいレストラン」や「パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド」にはならないけども、こういう作品を大事にしていく会社でありたい。なぜかと言うと、ここから始まっているんですよ。ディズニーがやってきたことってやっぱり凄い。だから我々がやりきれていないことってまだ沢山ある。その辺をより消費者の皆様に伝えていかなければならない。その上で「レミー」「パイレーツ」があるので、その土台の部分がホームエンタの役割だと思う。「ジャングル・ブック」がどんなストーリーなのかを通じて、ディズニーがなぜこれを作ったかというのを伝えていくことが基本。ディズニーの凄さはイノベートなところ。消費者にコンセプトからして、新しいものを提案し続けている。それがみんなを驚かせるし、喜ばせている。
 大きな柱としては、ディズニーとピクサーのアニメ作品、ディズニーのライブアクション、その他にTVシリーズ、それにプラスしてスタジオジブリ作品もあり、ディズニー・チャンネルものを含めて5つ。この5つを提案していきながらマーケットが大きくなるような攻め方をしたい。まだ日本はアメリカの十分の一くらいのマーケット。決め手は一般のライトユーサーで、映像を楽しみ切れていない、そこの提案をもっとしなければいけません。

―TVシリーズものは今後も好調を維持していくのでしょうか。

塚越 大きな柱になり、この流れは当面続くと思う。まだ始まったばかりなのに、もう成熟したようにも見られるが、提案の仕方でもう少し面白いことが出来るのではないか。いろんなアイデアで、TVとか映画とかなしに、いきなりレンタル屋さんからなんてこともやったわけじゃないですか。だからもっとTV局さんとの関係で、もう少し消費者の方々に見てもらう機会作りはあるのかもしれない。ただ、各スタジオは非常に面白いものを作っているんですが、各社数が増えてきてしまって、どう差別化を図るか、勿体無い状況でもある。消費者の方々も一度見始めるとワンシーズンで20時間費やすわけですから、いろんなところから出てこられても困るのかもしれない。その時に付加価値をいかにつけて提示するか。その付加というのもモノばかりではなく、その提示の仕方ひとつとっても違ってくると思うんですよね。

―スタジオジブリ作品への出資やDVDリリースは今後も継続されていくのですね。

塚越 来年の「崖の上のポニョ」も楽しみです。この7月に発売した「ゲド戦記」は50万枚を売り上げました。糸井重里さんが手掛けられた宣伝展開は好評でしたね。ジブリさんにも喜んでもらえました。今、先ほど言った価格戦略だけで消費者の方たちにアプローチする時ではないというのが、ジブリの鈴木(敏夫)プロデューサーもそう思っていた頃だったので、やった意味はあったと思うんですよ。特に当社がああいう形で小売店さんに提案できたことも非常に良かった。我々からすれば大成功です。先ほどの話と同じで、ウォルト・ディズニーというのは、イソップとかグリムとかの童話を自分で解釈して、今の時代はこういう話を求めているんだという思いで作って大ヒットさせた。そして、宮崎吾朗さんもそれをしたわけですよね。ですから、コンテンツをもっと楽しむ姿勢というのが提案できたらいいかなと思っているんです。そういう意味では今回の「ゲドを読む。」というキャンペーンはそういうことをしていたんですよ。どれくらいそれが達成できたかはわかりませんが、ひとつの石を投げたというのはある。「ポニョ」への出資ですが、まだ鈴木プロデューサーは明確に各社とは話していないうようですが、我々連合軍の一員としては今まで通りでやっていきたいと思っています。

―今年1月に発表された「三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー」のセールス状況はいかがですか。

塚越 売上自体はまだ大きくありませんが、このライブラリーはちゃんとやっていきたいと思っています。ディズニー、ジブリがあって、その他世界中からいいアニメを配給していくことはやらなければいけない。ジブリさんの作品のように沢山数量が売れるかといったらそうじゃないかもしれないが、非常に大事なことだと思っていて、出来る限りの事はしたい。世界に目を向けると面白いものは沢山あり、いろんな楽しみ方が出来る。TVで見ているものだけではないというのを広げたいですね。

ブランドに対する投資

―今後グループの協力がさらに積極的に展開されていくのですか。

塚越 グループがもっと一緒に作品を提案していく、それをDVDだけではなくて、グッズとかTV、映画と一緒になって、点から面、そして立体的な展開で消費者の皆様にお伝えしていく、これは一番理想的な姿。それには幸いにもディズニー・ジャパンもそういう立体的な展開ができる組織を持っていますので、その方が楽しいでしょう。消費者から見た時にそういう膨らませ方とか提案の仕方をされたら楽しいと思うんですよね。楽しいと思ってもらうことが一番。もっとその辺を考え取り組んでいくということになっていくと思います。前社長の星野(康二)もそれをずっと目指してやってきたんです。星野が土台を作り、その上で新しいリーダー・シップでポール・キャンドランドが次のステージに活動を引き上げていくということです。

―他の洋画メジャー会社は劇場映画宣伝部門とビデオ部門をひとつにし効率化を図っていく動きがありますが、ディズニーでもその可能性はあるのでしょうか。

塚越 日本ではそういうことは考えていません。これは僕の個人的な意見ですけど、効率化って大嫌いなんですよ(笑)。特にコンテンツを扱っている人たちからするとね。我々の心意気のつもりでいるんですが、映画をやって効率よく売るんだったら、本当にマーケティングはいらない。ウィンドウを短くして、刈り取るという発想でしょう。でもね、ディズニーの作品で言うと60%位かな、映画を見ていないお客さんがDVDを買っているんです。それは映画館にいけないとかいろいろあると思いますが、我々がDVDのタイミングでもう一回マーケティングしている、この行為が非常に大事だと思うんです。他のスタジオさんと違うのは、ディズニーとジブリというブランドがあること。だから他のスタジオさんは、シリーズものとかありますが、基本的には作品単位だからではないでしょうか。映画があってDVDがあって、それがその時々で消費者に対してマーケティングすることは非常にブランドにとっていいことなんです。「ジャングル・ブック」でもそうですが、消費者の方々にフォーマットの度ごとにマーケティングをする、作品に対してのアピールをする、そうやって一人でも二人でもその作品、ブランドのファンを作っていくというのが裾野を広げていくことだと思うんです。
 一方で効率的な話になっていくと、その部分が簡略化されてしまう。得はするのかもしれないが、中長期的には得していないような気がします。我々の一番の違いはブランドがあって、それを拡大再生産ではないけども、それを増やしていくための行為というのを絶え間なくやる。一つの作品だけでなく、ブランドに対する投資というのもしっかりやっていく。そこが我々の生命線ですしね。

―一方で、他の洋画メジャーでもローカルプロダクションの動きが活発になってきていますが、こちらではどうですか。

塚越 先ほど言った5つの柱に加え、もう一つその柱を加えようかと思っています。それがあることによって、ビジネス的にも安定するという側面もありますが、やはり作品至上主義、コンテンツをやっているんだという意味では、制作現場が近くにあることはメリットがあると思うんです。ジブリさんとお付き合いしていいのは、コンテンツが生まれる近くにいると、先ほど言ったメッセージであるとか、作品に対する取り組み方、姿勢など勉強することが沢山ある。単純にアメリカで作られたものをディストリビューションする、そこでのマーケティングだけじゃなくて、より近くにある制作というところから来るアイデアや人脈、行為というものが、我々の今までの5つの柱に対しても、良い刺激を与えるのではないかと思っているんです。利益ばかりでなくて、我々の企業文化というか、その姿勢みたいなものも、改めて作ることの気持ちがわかった上でのディストリビューションが、先ほど言った付加価値とかを考える上でプラスになるのではないかと思い、やるべきだと考えていて、近い将来発表できるのではないか。アニメに限らず実写も含めてです。
 我々が勉強になるのと、消費者に対して総合的な提案が出来る、その両方出来るのはこのやり方が一番いいのだろうと思っています。これは六本木のモーション ピクチャーズ ジャパンとは別ですが、グループなので、その都度協力はしていきます。そういう意味では我々がちょっとユニークなのかもしれないですね。


塚越 隆行 (つかごし・たかゆき)
ウォルト・ディズニー・ホーム・エンターテイメント日本代表
1962年 10月、群馬県生まれ
1984年 3月、早稲田大学 教育学部卒業
1984年 4月、朝日広告社(株)に入社
1984年 制作局をはじめ、マーケティング局、ラ・テ局、営業局を経験。
1991年 6月、ディズニー・ホーム・ビデオ・ジャパン(現ウォルト・ディズニー・ホーム・エンターテイメント)に入社。セールス・マネージャーを担当。
1998年 5月、同社セルスルー事業部 事業部長に就任。
2000年 4月1日、ディズニーグループ4社、ディズニーストア・ジャパン(株)、ウォルト・ディズニー・エンタープライズ(株)、ウォルト・ディズニー・ジャパン(株)、ブエナ・ビスタ・ジャパン(株)が統合。同社のホームビデオ部門であるブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメントの日本代表に就任。現在に至る。

高校時代はラグビー部、大学ではボクシング部に所属。
趣味は、映画・演劇・読書などのエンターテイメント全般と“スポーツ”。

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