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インタビュー:春名 慶 (株)ショウゲート代表取締役社長

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インタビュー:春名 慶 (株)ショウゲート代表取締役社長

2007年12月12日
判明した二つの大課題

――東芝Eが経営的に厳しかった原因を、どう分析していますか。

春名 M&Aを実際に行うか検討する際に、必ず企業のレントゲンを撮りますよね。そのレントゲンを撮った時に、課題が大きく二つありました。一つが、国内でのマーケタビリティ(市場性)を精密に検証しないまま、高額なMGで買付をしていたこと。ここ数年でインディペンデントが買付ける洋画のMGが高騰し、一方で、シネコン中心の興行になって、ブロックバスター、超ド級戦艦は当たるけど、Bロードと言われる中規模クラスの作品があまり日の目を見なくなって、マーケットがシュリンク(収縮)してきている。ちょうどその端境期で、東芝Eは渦に巻かれたんだろうとは思います。でも、精密検査をして買うという目配せが足りなかったのは確かです。日本のマーケットに見合った値段で、或いは日本のマーケットにどう刺さるのかというセールスポイントが見える作品を買付けてくれば、自ずと適正な洋画配給ビジネスを展開していけるはずです。
二つの目の課題は、“一社買い一社出し”と僕は言っているんですが、自社だけで出資する作品が多かったんです。今の時代、邦画では製作委員会方式、洋画でも複数の事業パートナーを募って買付をするのが普通です。配給会社、ビデオメーカー、広告会社、出版社などと挙党体制を組んで、各企業が持っている機能を出し合って映画を当てにいきます。映画が当たらない場合のリスクヘッジにもなります。ところが東芝Eは、特に洋画で一社買い一社出しが多いんですね。そうなると配給手数料という概念、窓口権的な概念が必要ないんです。外部と付き合うことが得手か不得手かで言えば、東芝Eは不得手な企業だったのかなとレントゲンを見て分かりました。


多ジャンル、大サイズ

――具体的に、洋画の買付はどのような方針で行っていきますか。

春名 07年のラインナップを見ると分かりますが、四象限があるとすると、作品の柄が一つのところに集まっていて、サイズの大小で言うとちょっと小粒なものが多いんですね。60数人のスタッフを支えていくには、経済的なインパクトがあまりにも小さい作品群だと思います。今後は、ジャンルを一つのところに絞らず、結果的にではなく、戦略的にバラエティ感を出していく。例えば韓流ブームの時に、韓流ばかり買付けていたら、韓流が倒れてしまった時に、会社も共倒れしてしまいますから。そしてサイズ感もボトムアップしていき、年間数本はチェーンで出していけるようにと考えています。
全社員と個人面談をした時に、ショウゲートのカラーが必要なんじゃないかとの意見もありました。でもカラーというのは結果として、人から言われたりイメージを抱かれたりするものであって、最初からカラーを決めて買付けるのは、せっかく良い球が来ているのに見逃してしまうようなものです。ショウゲート配給作品だから見るというお客さんはいないわけですから、予めストライクゾーンを狭めてしまうようなことはしません。

――洋画の買付において、博報堂DYMPとは、どのような関係性にあるのでしょうか。例えば、今後は買付の窓口を博報堂DYMPに一本化するとか。

春名 博報堂DYMPもショウゲートも、それぞれで買付をします。でもグループ企業として情報は当然共有しますし、共同で買付ける作品はかなり多くなってくると思います。ただし、両社とも全方位外交ですので、いつも一緒とは限りませんね。

――例えば、ショウゲートと電通が共同で出資するケースもあるということでしょうか。

春名 当然あります。実際にジェネオン エンタテインメントさんとはご一緒することは多いし、前述したとおり今後さらなる業界再編が始まって、資本関係云々と言っていたら、どの企業ともジョイントできなくなります。あくまで全方位です。博報堂DYMPで出資したものを、ショウゲートが配給するとも限らないわけです。この作品は日本で行けると双方が判断した時は勿論、両社で挙党体制を組んで取りにいきます。

――ショウゲートが出資をする場合、春名さんが決裁者ということですか。

春名 ええ、僕が最終的なジャッジをします。博報堂DYMPとは情報を共有しますし、報告もしますが、買付はスピードが重要ですから、親会社の稟議を待っていられないこともあるでしょう。とはいえ、親会社と情報を共有しているという時点で、牽制機能はすでに備わっているわけで、勝手に暴走はしませんけどね。“秋の陣”のマーケットは、ショウゲートが新たなスタンスで臨む初手なんです。ですからトロント、AFMで行う買付の指針は絶対的なものではなく、やりながら最良の方法を探っていきたいと思っています。

――邦画についてお聞きします。今年1月に「僕は妹に恋をする」、6月に「キサラギ」と、春名さんが来る以前の東芝E時代に仕込んだ2作品がヒットしました。ショウゲートの邦画への取り組みをどう見ていますか。

春名 「キサラギ」は30館で封切って、結果当たって80館にしておけば良かったという議論はありますが、だからといって興収が2倍以上にはならないですよね。面白いもので、満席で入れなかったという飢餓状態のようなものが大事なんですね。僕は作品が持っている売場面積の適正規模は非常に重要だと思っていて、今後もフレキシブルに対応していきます。
邦洋ともにバラエティ感を出し、サイズ感を上げるというラインナップ編成を目指しますから、邦画でももっと企画の段階から、キャスティングも含めて、いわゆるチェーンに乗せられるような作品をショウゲートとして企画していこうと思っています。

    ~     ~     ~     ~     ~

春名 慶(はるな けい)

1969年6月19日生まれ。大阪府出身。
早稲田大学政治経済学部卒業後、93年博報堂入社。
番組企画セクション配属を経て、97年に現在の映画セクションに転属となり映画ビジネスに携わる。
03年12月の会社グループ組織の変更により、博報堂DYメディアパートナーズ エンタテインメント事業局 映像事業部に転属(コンテンツ事業プロデューサー)。
07年5月よりショウゲート代表取締役社長。

【主なプロデュース作品】
『ハリウッド★ホンコン』『模倣犯』(プロデュース参加)『阿修羅のごとく』(プロデュース参加)『世界の中心で、愛をさけぶ』『いま、会いにゆきます』『電車男』『春の雪』『ピーナッツ』『県庁の星』『サイレン』『7月24日通りのクリスマス』『そのときは彼によろしく』『クロ-ズド・ノート』

【受賞歴】
05年 第28回日本アカデミー賞 会長功労賞
05年 第24回藤本賞



「犯人に告ぐ」の1シーン (C)2007「犯人に告ぐ」製作委員会

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