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トップインタビュー:高井英幸東宝社長

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トップインタビュー:高井英幸東宝社長

2007年07月31日
ブロックブッキング維持

高井 映画調整部は、松岡(功)営業本部長時代なってから作られたものだと思うのですが、大雑把に言えば、70年代が瀬戸(勇)部長時代、80年代が堀内(實三)部長時代、90年代が高井部長時代、2000年に入って島谷(能成)部長時代になった。今、島谷専務は担当になって、ちょっと前から市川(南)部長時代に入りましたが、その間共通して貫いてきたのは、ブロックブッキングの維持と、外部プロダクションとの交流だったと思います。ブロックブッキングについては、いろいろ議論がありました。邦画が形勢不利のときでしたから、この形式をやめてしまうと、ブッキングが困難になる。ますます邦画は疲弊する。ブロックブッキングには、実はフリーブッキングには無い利点がある。一年間一つのチェーンを預かって番組の責任を負うわけですので、本数を揃えなくてはならないというリスクは背負うが、編成が配給サイドに100%任される。年間の公開月日を配給側で決められる。ブロックということは、日劇を中心に全国チェーンを組んでいるわけですから、公開劇場も即特定できる。この2つの利点は、実は配給を預ける製作プロダクションから見たら、大変大きい安心材料のはずなんです。配給が決まるということは、公開日時や上映劇場までが早くから分かるということになる。たとえば前売り券を作るときの前提条件は、公開劇場が決まっているということですから、邦画系に決まれば即前売り活動が可能なわけです。したがって資金の回収計画も立てやすくなる。配給的には、長期的な宣伝戦略が立てやすい。劇場も年間の番組が固定されているので、早くからの地域に密着した宣伝がしやすい。そういったことが効を奏して一つの作品がヒットすると、プロダクションの方も東宝に預けて良かったと思ってもらえる。観客にも喜んでいただき、プロダクションの方にも喜んでいただく、これが映画調整、配給、宣伝、興行に携わる我々の喜びでもあるわけです。

本誌 洋画系のフリーブッキングでは、そうはいかない。

高井 洋画系に出す場合は、洋画系も一目置くような作品でないとなかなかブッキングが出来ない。フジテレビの大作やジブリ作品とか、コアなファンが見るアニメ作品とか、したがって、美味しい作品が洋画系に流れていくと邦画系の館主さんから、いいものは洋画系にいくのかと御叱りを受けることもありましたが、今はシネコン時代になって、そういうことも無くなりましたね。

本誌 邦洋の区別が薄くなったのは、東宝の快進撃が始まって以降ですね。

高井 シネコンが普及し始めた頃、一つのサイトに10スクリーンなんて、今だから簡単に言いますが、昔の感覚で言えば、10館の映画館が一度にオープンするということなんですね。日劇とスカラ座とみゆき座とピカデリーと東劇とルーブルと、まだ6館ですね(笑)、これらがいっぺんにオープンするのと同じなんです。要するにいきなり映画街が生まれるわけです。この10スクリーン前後の規模のシネコンが次々にオープンするということは、これから絶対に作品が足らなくなると、だから配給本数を増やそうということになったんです。それまで手を出さなかった単館系作品も、結果次第で100館はいけると分ってきたので、積極的になった。

本誌 画期的だったのは、「ウォーターボーイズ」の興行でしたよね。シャンテシネをメインに、全国のブッキングが100弱で、興収9億円を記録した。

高井 そうです。単館系でも100館あれば、という位置づけでやってみて、成功したわけです。それがさらに、「スウィングガールズ」につながった。今まで単館系といったら、本当に単館系だったわけですよ(笑)。だから、引き受けても、コストパフォーマンスが悪かったんです。

本誌 ただ、今の本数はどうでしょうか。多すぎる気もするのですが。

高井 キャパシティからいったら、もう限界なのです。まあ一回トライして、うまくいかなかったら、また変えるというか、柔軟に(笑)。

本誌 単刀直入に言います。よく私が受ける質問に、「何故、東宝だけが、当たるのか」ということがあります。これは外部から見ると、本当に不思議な現象に映る。実はこれは、凄く意味が深い質問なのですね。

長い人間関係の構築

高井 あくまで結果論ですから何とも言えませんが、外部プロとの付き合いが長い。その結果、生まれてきた人間関係がある。これが、非常に大きいと思います。今年の藤本賞に輝いたTBSの濱名一哉さんは、山本又一郎さんのフィルムリンクインターナショナルにいらしたころに知り合ったと思うんですが、TBSと映画という関係で言えば、森義奉さん(現在、TBSテレビ専務)の時代があった。編成に現在社長の井上弘さんがいらした頃。森さんは正直な方で、基本的に映画に興味が薄いことを隠さない人でした。それで、誰か映画のことばかり考えているような人を傍らに置いたらどうですか、そうすれば、映画のプロデューサーも出入りするようになる、とアドバイスしたことがあります。しばらくしたら、濱名さんが入社されたんです。濱名さんも苦節何年でしたが、「陰陽師」「黄泉がえり」がヒットし、「世界の中心で、愛をさけぶ」そして「日本沈没」「どろろ」に繋がった。フジテレビも五社英雄監督の「御用金」(1969)あたりからのお付き合いで、とくに映画に最初から熱心な社風がありましたし、今亀山(千広)さんがその社風をより強固なものにすべく本当にエネルギッシュに頑張っていただいています。小学館さんも「ドラえもん」「ポケモン」「名探偵コナン」などで、とても深く濃いお付き合いをさせていただいております。アニメだけではなく、「世界の中心で、愛をさけぶ」もありましたし。ジブリさんも「となりのトトロ」と「火垂の墓」からですが、お陰様で鈴木(敏夫)プロデューサーとも気の合ったお付き合いをさせていただき、毎回いろいろ刺激を頂いている。ジブリといえば、日本テレビの奥田(誠治)プロデューサーとも長いですね。念願の「ALWAYS 三丁目の夕日」で、大きく花開いた。角川映画も、なんだかんだ長い御付き合いになってきました。「リング」で始まった冬のホラーシリーズも、海外にまで売れるようになりましたし。監督でいえば、亡くなられた伊丹監督とも長かったですが、その後を受け継ぐ形の周防監督もまた動き出してくれました。三谷監督も「THE 有頂天ホテル」で大きく花開いて、今新作に掛かっています。三谷さんとは「ラヂオの時間」以来ですが、お互い映画好きということもあって、三谷さんの芝居を見に行ったあとなど、芝居の話、映画の話に花を咲かせる。そこにフジテレビの村上(光一)社長が入るともっと盛り上がるということで、何回か続いている。ということで、いろんな意味で長い付き合いがあることは事実で、もちろんそれが即ヒットにつながるということではありませんが、いい関係で製作、配給が日夜切磋琢磨している結果だと思います。

本誌 わかりました。人間関係が、長い間にわたって構築されてきたことは、本当に重要な点だと思います。あと私が考えているのは、アニメの存在ですね。これも今お話のなかで出てきましたが、アニメの存在が核になったからこそ、他の番組が余裕をもって編成できたことがありましたね。

(全文・詳細は月刊誌「文化通信ジャーナル」07年7月号に掲載)

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