ブエナビスタイズム“信頼”の継承 年間興収新記録の樹立とディズニー組織再構築の中で心掛けたものとは―ブエナビスタ インターナショナル ジャパン(BVIJ)は今年8月31日、06年度の年間興収236億円8288万9620円を達成し、BVIJの14年の歴史を塗り替える年間興行収入新記録を見事樹立した。
この快挙は、前年度に封切られた「チキン・リトル」(興収27億円)に始まり、「フライトプラン」(31・2億円)、「ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女」(68・3億円)、「カーズ」(30億円)、そして「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」といった大作群の相次ぐ大ヒットと、「レント」「キンキーブーツ」といったアート系作品の確実な成功によるもの。因みに、「パイレーツ~」は、01年から6年連続となる興収100億円突破作品となった。その後も10月末で年間興収250億3320万9170円と記録を更新中で、12月には期待のディズニー新作アニメーション「ライアンを探せ!」の公開が控えており、年間興収300億円へ期待が膨らむ。
一方、全世界で「パイレーツ~」が大ヒットを記録する中、ウォルト・ディズニー・スタジオはスタジオ部門の組織再構築を発表。
これに伴い、同部門の主要幹部人事を発令、ウォルト・ディズニー・モーションピクチャーズ・グループ/プレジデントにマーク・ゾラディ氏、ブエナビスタ インターナショナル インク/プレジデント、セールス・アンド・ディストリビューションにアンソニー・マコーリー氏が就任した。
当初、日本はこの組織再構築の影響は受けないとも言われたが、昨今の日本の映画興行マーケットと時流の変化に効率的に対応するため、日本オフィスの一本化を決定、12月1日より関西支社の営業業務を東京本社に集約統合。新たな人員で業務を行っていくが、関西、中国、四国エリアの営業出張所としてのサポート業務と宣伝業務は、引き続き大阪に拠点を置き、この地での業務運営は、(株)新通が全面協力していく体制をとった。
昨年9月に佐野哲章氏(現ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント映画部門日本代表)が退任し、同年11月1日にBVIJ日本代表に就任した鈴木英夫氏。年間興収新記録樹立の一方で、組織の再構築など大きな転換期となった06年を振り返りつつ、今後の展開などについて聞いた―。
“若さ”がエネルギーに ―佐野さんの突然の退任から日本代表に就任してのこの1年は、いろんな意味で運命的な1年になったのではないですか。鈴木 当然、会社を統括して運営していく経験がない中でやらせてもらうことになり、非常に不安な船出というのが正直な気持ちでしたね。日本代表となると、お付き合いさせて頂くレベルも違ってくるだろうし、一つのものを決める意思決定の重さも違ってくる。今までは「宣伝」というところにいて、ある意味攻める役割だったのが、今度はどちらかというと守る仕事の方が多くなってくるわけですよね。自分がどう見えるかで、会社がどう見えるかということになってきてしまう、それは今まで自分はやったことのないものでしたから。
でも、その不安は外に出せないし、社内にも出せない。じゃあ、どうしたらいいのかとなりましたが、今まで宣伝本部長としてやってきたことから急激に、自分の頭の中で、「代表」なんだと苦しい呪文をかけるよりは、目の前にある作品を、丁寧に包装紙をかけて、興行者さんに送り届けるんだと、配給会社という組織の中にいて、必要最小限しなければいけないこと、もしくは本当に我々がお金を頂戴することの対価としてのサービスの原点みたいなものを、一歩一歩着実にこなしていくんだというのが不安を払拭するスタート時の決意でしたね。それを毎日毎日やってきました。
―営業という部分でも未経験だったわけですよね。鈴木 岡崎(市朗・営業本部/営業本部長・バイスプレジデント)がそういう意味では右腕になってくれて、100%任せてリーダーシップを発揮してもらいました。マネジメントが変わったというのは、業界はもちろんですが、よほど社内の方がインパクトがあったわけですよ。そのインパクトに対してどうやってベクトルを前向きにしていくか。業界的に見ると経験、歴史の浅さが弱点になりますが、今回に関して言うと、社歴の浅さ、経験の浅さが、このメンバーで頑張っていくしかないぞというプラスの方向に働きました。それがこの1年の好結果を生む、一つの要因になったと思います。
ではその頑張るってどういう風に頑張るんだというと、人が人を庇う、カバーする、自分の仕事だけ全うしていればいいのではなくて、いろんな部署とか部門を越えて、もしくはそれぞれの与えられた責務を越えて、いろんな形で、いろんな人たちが、クロスオーバーしていくこと、それができました。営業は宣伝に深く関与し、宣伝は営業に深く関与したし、宣伝の中でもいろんな部門があって、いろんな任務があるけども、それが本当にいろんな形でクロスオーバーしていきました。でも、今年の好調を踏まえた上で、決して過信にも慢心にもなっていないですし、達成感で一息つく気も社員にはなく、私にもありません。
まだ、政治的にいろんなことを動かせる会社ではないし、業界の中でどっしりとというだけの大木にはなっていませんが、逆に私を含めた若さっていう部分が、ノンストップのエネルギーになっていることだけは確かだと思うんです。その根底に流れているのは、目の前の仕事を一つ一つこなしていこうと、配給会社としてプロフェッショナルでいようということです。それは、興行者さんと映画を観たいと思っているお客さんに対して、ちゃんとした形で映画を届けよう、ブエナビスタは公開初日までしっかりこの映画をプロモートするということです。それを一個ずつ積み重ねていくことで、興行者さんにも信用を持って頂ける。本当言うと、映画は生活にはなくてもいいものなのかもしれませんが、本や音楽と一緒で、やはり一回出会ってしまうと、その人の人生を下手すると変えかねないくらい大きな力を持った、〝生活必需品〟以上の、〝人生の必需品〟になってしまうこともあるじゃないですか。そういう機会をやはり多くの人に与えたい。それが我々の会社が存在している意義だと思います。
―その点、本当に06年は、人々の人生を変えかねない強力なラインナップだったのではないですか。鈴木 恵まれた一年だったことは間違いありません。その原動力になったのが、「パイレーツ~」、「ナルニア国物語」、「フライトプラン」、「チキン・リトル」でした。これは本当に運と言ってもいいと思います。期待していた10割というのは当然難しいわけで、取りこぼしてしまった作品も何本かありましたが、相対的に見ると期待通りの成績をこの1年は上げることが出来たのではないでしょうか。来年も作品が持っている100%の力、みなさんが期待してくれるだけの最終的な興収というのをあげることに集中したいと思っています。今年記録を作ったから来年も再来年も記録を破りたいとか、そんな大それたことは考えていませんが、目の前にある一つ一つをこなしていくということです。あえて冒険ということは、環境が必要とするならばそういう方向へ行くかもしれませんけど、今のところその冒険をする態勢になっていないので、まずは冒険を選ぶよりも会社を守るという観点でやっていくことが、正しいことなのかなと私個人は思っています。
―ディズニー作品の強さとは。鈴木 洋の東西を問わず、お客さんの中にディズニーに対するブランドというものは、間違いなくあると思うんです。そのブランドって何かというと、これはお客さんからの「信頼」なんですよね。今まで長いこと築いてきた結果の集大成による、お客さんからの信頼。ディズニーはそれを持っている唯一の会社なのかなという気がするんです。ブエナビスタという組織が日本で営業を開始してから14年という歴史のなさを埋めるに足る会社としての強みという風に思っています。じゃあ実際信頼を寄せてくれているお客さんて誰なのかというと、20代とか30代のOLではなくて、間違いなくファミリーです。幼稚園から小中学校くらいまでのお子さんを抱える親御さんが明確にディズニーに対する信頼感を持ってくれています。我々としてはそこにお客さんが存在するんだということは、会社を運営していく上での安心材料になりますから、さらにディズニーという色を強く押し出していきたいですね。