トップインタビュー:迫本淳一松竹(株)代表取締役社長
2006年11月01日
「蒼き狼」他3本で100億
――今期(18年3月~19年2月)は単館系を含め30本の配給作品ですが、来期も同じ位の本数ですか。
迫本 いや、これは少し減らしたいですね。
――特に今年は夏(7月~8月)に単館系を含め7作品が公開され、毎週何か初日を迎えているようでした。
迫本 ええ、確かに多いです。ただ、一方で映画というのは生ものだから、どの部門にしても今まで温めてきたものをやりたいという思いはあるわけで、こういう芽は大切にしなければいけないし、それを鼓舞して「頑張ろうぜ!」というムードにしていく、あの松本輝起(取締役)のやり方は、本当にいいのではないかと思っています。
――実際、松竹が邦画に力を入れるということで、相当企画のオファーが松本さんに寄せられているようですね。
迫本 ええ、その調整は大変だと思います。でも、その甲斐あって映像本部では、来年は「蒼き狼~地果て海尽きるまで~」(監督澤井信一郎/反町隆史主演/07年3月3日公開)「ゲゲゲの鬼太郎」(監督本木克英/ウエンツ瑛士主演/07年4月公開)「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」(監督松岡錠司/オダギリジョー主演/07年5月公開)の3本で、最低でも興収100億は狙うぞ、と盛り上がっています。
――テレビ局との提携をさらに強化していこうということですね。
迫本 そうですね。先にも申し上げたとおり、テレビ局に限らず強いパートナーと組まないと映画興行はそれほど楽観点な状況ではないと思っています。現在、邦画が隆盛のように言われていますが、ある条件を満たした限られた作品が大ヒットしているのであって、邦画が何でも当っているわけではありません。だから本当に強いパートナーと「当てる」という事に集中していかないと厳しいと思います。ただ、中長期に見ると、映像の需要は今よりもっともっと高くなっていると思いますし、その中でも映画はエンタテインメントとしていいポジションにいると思います。というのは、約2時間の短い時間の中で本当に感動を与えてくれる―人生に影響を与えられるエンタテインメントは他にないからです。そういう意味で映画は本当に素晴しいポテンシャルがあります。中長期に見れば、きちっとした映画を作り、お客さんが集まるような、外部とも組めるような強い会社になっていれば、映画会社として松竹は非常に将来性があると思っています。ただしばらくは、ネット配信やビデオ・オン・デマンド等の影響で厳しい状況は続くわけですが、この間、安定収益を確保して、明るい将来に向けて対応できる会社にしていきたいと思っています。
――先程の3本は角川春樹さん、フジテレビさん、日本テレビさんですね。
迫本 そうです。
――「ゲゲゲの鬼太郎」はフジテレビとの提携製作になりますが、フジテレビとは松竹の邦画では「ジューンブライド 6月19日の花嫁」(’98)以来8年ぶりになりますね。
迫本 そうですね。だから我々も当てたいですし、フジテレビさんも同じ気持ちだと思います。今、快調に撮影も進んでいます。実は、今年の1月26日のラインナップ発表の時に一番反響があって楽しみにしています。
――160万部を超えるベストセラーを映画化する「東京タワー」は、「花田少年史」に続いて日本テレビと組む作品ですね。
迫本 そうです。これも本当に大きく狙える作品です。ですからこの3本は本当にいい企画に巡り会えたので、今からみんな非常に燃えていますよ。そういう高揚感が非常に大切な事です。
――「蒼き狼」は、テレビ局は出資に入らないのでしょうか。
迫本 ええ、そういう話はありません。角川さんは各テレビ局にパブを出してもらえるので、テレビ局が入らない方がいいんじゃないかと話していましたね。それにしても角川春樹さんは、やはり「映画人」という感じで我々は非常に学ぶべき点があるなと思います。7月、モンゴルでの撮影も見ましたがスペクタクルシーンの映像と人間ドラマの部分も良く撮れているということで素晴しい映画になるでしょう。
――松竹配給作品としては、久々の大作になりますからね。
迫本 そうですね。ですから「松竹に今までかつてないような興収を上げるんだ」と角川さんに言っていただいているので、我々もその期待に応えられるように頑張りたいと思っています。ですから、「3本で最低100億」なんて言っていると、角川さんに怒られるかもしれないです(笑い)。角川さんはひょっとしたら「蒼き狼」1本で興収100億ぐらいは考えておられるかもしれない。
――製作発表の時は、「世界で動員1億人を目指す」と語っていましたね。
迫本 そうそう、人数で言われていましたね。「世界で1億人」というのはわかりやすくていいですね、可能性はあると思いますよ。
――あと、年内では「武士の一分」が、12月1日(映画の日)初日で公開されるわけですが、どのくらいの興収を目指しているのですか。
迫本 50億を狙えるポテンシャルがあると思っているので、それに向ってやっています。
映画部門の機構を改革
――この秋、映画部門で機構改革を実施するということですが、具体的にはどの様な組織になるのですか。
迫本 これもいま検討中です。この掲載号が発行される頃はもっと話が進展していると思います。以前、映像本部は「仲よしクラブ」と批判されていた時代がありましたが、これを改めるべく、各部門が独立採算的にきちっと収支が出せるようにしていこう、ということになりました。その結果、各部門の独立採算ということは浸透してきたのですが、徐々にもっと横の連携―横串の対応―ができるようになれば、もっと儲かるのではないかという話になってきて、今回、全体としての最適を(部分最適から)目指すということになったわけです。
――一つのセクションで、興行からビデオなど2次使用まで収支の責任を持つ部門を作るという事ですね。
迫本 全体最適といったら、当然そうなりますが、その辺はまだどうなるかわかりません。ただ、部分最適ではなくて、全体で一番儲かる形にしようという事は間違いないです。
――例えば、東宝の映画調整部の様なセクションを作るのではないかと聞いたのですが。
迫本 いや、特にそういう事ではなくて、先程も申し上げたように外部とのいい連携を―テレビ局、プロダクション、出版社、玩具メーカー、ゲームメーカー、パチンコメーカーといった企業ときちっと組めるような体制を作ろうという話をしています。
――松竹では、04年9月に「アニメ事業本部」(関一郎取締役本部長)を設置、昨年は「鋼の錬金術師」(興収12億円)や「ガンダム」シリーズがヒットして、順調に推移していますが今後もアニメをさらに強化していこうということですね。
迫本 そうです。今年は実写の「ラブ☆コン」が成功しましたし、昨年アニメでヒットした「テニスの王子様」の実写版を公開しました。
――来年はアニメとしてはどの様な作品が準備されているわけですか。
迫本 春休みにはセガさんの有力キャラクターによる作品がありますし、「ピアノの森」(原作一色まこと)や「ガンダム・シード」はチェーンへの公開を予定しています。他にも「河童のくれた贈り物(仮)」とかまだ発表できないものがありますが、本当に儲かる、お客様に喜んでもらえるものをやって行こうとみんなで話しています。
――アニメ事業本部は発足以来、収支はどうですか。
迫本 収支的には、アニメ事業室の時代からずっと頑張っているのですよ。現在の事業本部になってからもきちっとやっていますし、順調に育っていると思います。ただ、これまで蓄積のある東宝さん、東映さんに追いつくためには、多少時間がかかるかもしれませんね。
(全文は月刊誌「文化通信ジャーナル」2006年10月号に掲載)