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トップインタビュー:角川春樹 角川春樹事務所 特別顧問

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トップインタビュー:角川春樹 角川春樹事務所 特別顧問

2006年05月26日
■私以外の何者でもない

――なぜこのタイミングでチンギス・ハーンを映画化しようと決意されたのですか。モンゴル建国800年ということだけが大きな要因ではないように思います。

角川書店にいる時代、27年前から映画化を考えていた。当時、モンゴルまで行っている。でも、その時モンゴルはまだ社会主義の時代でハーンを撮りたいなんていったら、それだけでスパイ扱いになるからね。だからロケハンだけやってきた感じ。その後、内モンゴルで撮ろうと中国と話し合ったり、さらに「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」(84年)のセルジオ・レオーネ監督とも一緒にやろうという話にもなった。またそれとは別個にイギリスのプロデューサーで、「炎のランナー」などのデヴィッド・パットナムともやろうという話にもなった。でも、結局はいろんな事情があって出来なかった。
ただ、自分の中で完璧にコントロールしてやっていくには、欧米人、日本人、そして中国人が思っているハーンは各々違いますから、そういう点では今回の方が、自分の希望通りハーンをモンゴルで撮れる時代になった。政府の全面協力で軍隊を出し、3ヵ月かけて全部オープンロケで描く。だから結局今から思えば良かったんですよ。時期が来て、自分も「~大和」の後の復帰第2弾ということで、ある種これには運命的なものがある。

――すでにヒットさせるための様々な展開を考えられているのですね。

今回はファッションから食にいたるまで先に手を打っていこうと思っている。エーエムピーエムで「ジンギス飯」弁当をやる予定と、牛角のチェーン店でラムのしゃぶしゃぶをやらないかという話も進めている。あるファッションデザイナーのブランドと組んで、モンゴルの衣装を現代の若者向けにアレンジをして、モンゴル・ファッションのブームを作ろうとも思っている。

さらにエイチ・アイ・エスという旅行代理店もこの映画に参加するが、彼らがモンゴルでイベントをやるので、それをうちにも使わせてくれと。今回日本航空も初めて映画に参加する。旅行業としてもモンゴル・ブームを作っていこうということ。今回はハーンの即位式に2万人を動員せよということで契約書にも入っている。大統領まで話をつけて。根回しなどせずにその場で決めてもらった。

――根回しもせずにどうやって話をつけることが出来たのですか。

私は他の人と違うんだから、私は私以外の何者でもない。私に代われる人間というのは存在しないわけだから当然自分が言えば(了解してもらえる)というのはあった。だから、どうせなら難しいことを言ってやろうと思った。むこうがえっと驚くことを言った方がいいと、その場で閃いた事を言ったまで。それだけ自分の持っているスケールというものが、映画界というジャンルなんかに収まっていないんじゃないかな。

――「蒼き狼」の企画は東宝、松竹の両社に持ち込んだと聞いていますが。

東宝、松竹の両方に持ち込んだのは事実。東宝は07年の夏に300館以上のブッキングをしますと。しかし、出資はせず配給と宣伝だけ。松竹は310館以上でブッキングし、三分の一出資もします、我々の意気込みを買って欲しいと、迫本(淳一)社長に言われたのが今年1月12日。翌日の13日に東宝の島谷(能成)氏が事務所に来たが、昨日松竹に決めたといったらそこの椅子からすべり落ちていた。話は昨年秋の段階で東宝の松岡(功)会長に直接話していたので、その代わり「用心棒」と「椿三十郎」のリメイクは任せることにした。松竹の迫本さんからは比較しないでくれと言われ、自分たちが出した条件よりも東宝がもう少し高い条件を出しても、その条件面で決めないで欲しいと。「わかった、しない」と言ってその場で握手した。角川春樹と組みたいという熱意が伝わってきた。

――エイベックスとはどのような経緯で組むことになったのですか。意外な組み合わせのようにも思うのですが。

昨年の1月に、エイベックスの田中(迪)氏と稲垣(博司)氏が会いませんかと言って来て、千葉と松浦と会った。その後飲み、カラオケに行って、私が長渕剛の「Japan」を歌ったら松浦が笑ったので蹴飛ばしてやったりもしたが(笑)、千葉が映像の責任者だったから、その後改めて千葉と田中氏、稲垣氏と食事した時に、「私との交際費として『~大和』のチケットを一万枚買え」と言ったら、千葉がやりますと。それから急速に両社が近づいた。私が「~大和」でああだこうだ言ったことに対して無理だと思っていたのに、次々と実現してしまったので、本当に凄いと思ったのだろう。私の場合はアイデアと実行が同時進行だからね。どちらかというと千葉がやりたいと思い、私も千葉とやりたいと思った。

――角川さんの中で何かエイベックスという会社に感じるものがあったのでしょうか。

千葉、松浦も不良精神があり、相通じるものがあったのは確か、匂いとしてね。私は現役の不良で、あいつらは元不良という差は大きいが。私は今64歳で、千葉がもうじき42歳になる。世代的にはほぼ二世代違うが、彼らのクリエイティブに対する熱意というのかな、打てば響くではないが、50、60代の経営者ではなかなか実行力はないのに、交際費1000万円だと言ったら、間をあけずに即答してきた。

それからうちの会社は私が走れば全員が走るところがあるが、エイベックスも似たようなところがある。あの会社はうちよりももっとクリエイティブなものを持っている。うちのはもっと不良性、団結力が強いが。制作に関しても千葉には全面的にやれと言ってある。全部教える。ノウハウなんてどんどん膨らむわけだから。教えた時に私は先に行っているからね。同時に走れと。だからネットに関しての形態としては、今回の方が完璧になる。今のところテレビ局は決めようと思っていない。今度は売ることを考えた時に、2次使用のことを考えている。その方が3年に一回とか売れ続けるではないかと。元々旧角川映画というのはそういうことをやってきたし、テレビ局とのジョイントも「復活の日」などで最初に私がやっている。いろんな試行錯誤を重ねながらやってきた。まあフォアボールを含めて塁に出たのは9割だけども、6割も打っているというのは他にいないのではないか。

また、私がやり始めたメディアミックスもさらに今の時代に進化してきている。だが、進化に合わせるという能力が今の映画会社にはない。海外に売ることも含めて、もう次回は松竹と全面的に組んで、海外に売っていこうと思っている。これはアジアマーケットを考えて作っているからね。当然、アメリカ、ヨーロッパもそうだけど、特にアジアですね。

――アルゴ・ピクチャーズの岡田(裕)さんとは「天と地と」以来となりますね。

今まで「復活の日」「天と地と」と一緒にやって、彼もこの「蒼き狼」に懸けている。これだけの映画をやるのはこれで最後だと断言しているからね。私はそうは思っていないけど。それはエイベックスにしても、ありがたいことに、「角川春樹さんを失敗させるわけにはいかない」と、だからスタッフルームもエイベックスにあるし、全社をあげてこれをやると。それだけの体制に勝てる映画会社はないよ。資金的な問題も含めて。まして自分のところで音楽を出すわけだから。着うたに対する考え方というのはアジアを含めて図抜けている。本当に、角川春樹と千葉、松浦というだけではなくて、事務所とエイベックスも一体となってやっている気がする。私に言われるとすぐに実行して早い。これも今の映画会社にはない。

――製作スケジュールは。

6月から8月いっぱいまでモンゴルで撮影。スタジオは使わない。全部オールロケで撮る。6月イン前にキャストの発表会見をやる予定。オーディションで決めた側室の役はポイントになる。ここから第二の薬師丸(ひろ子)、原田(知世)みたいな人材を発掘していきたい。これが既にプロダクションに所属していない人間であれば、うち自身はプロダクション機能を持とうとは思っていないから全部エイベックスがやることになる。次回作の映画「神様のパズル」にも出演させる。

――本来ならば1年以上かけて準備するような規模の映画ですよね。不安はありませんか。

2年かかるところをまったくゼロからやっている。これを決めたのは「~大和」が公開されてからだからね。冬休みを挟んで、それでも可能だったのは角川春樹という存在。人がなんと言おうが、実力ナンバーワンという力。反町(隆史)だって私との関係でしょ。今回は他の役者もスタッフも「~大和」の者も加わる。これはもう極端な話、全部が角川さんと映画をやりたいと言っているぐらいだからね。それぐらいキャストやスタッフに影響力を持っている。脚本もなくてキャスティングしているぐらいだから。しかもその脚本は中島丈博さんと丸山昇一さんという相反するような二人が取り組んでいる。だってこれは監督が作る映画ではないって言っている。私が作る映画なんだから。

――角川さんにとってチンギス・ハーンとは何ですか。

ハーン=角川春樹と断言してもいい。ハーンは65歳で死んだけど、この映画は俺が65歳の07年春に公開されるから、私=ハーンの再出発になる。つまり自分が一旦死んで蘇るという。当然、角川春樹が考えていることは映画以外も含めて、いま表に出ない形で手を打っていることが進行している。それはいずれ発表するが、これが発表されればみんなひっくり返る。それくらいのことをやってこそやはり自分はハーンなんだと。映画は表現の一つでしかない。ただ自分をハーンだというのではなく、これからやる壮大な計画も含めて言っている。それは映画でも出版でもないこと。

――ズバリ興収目標はいくらですか。100億円以上ですか。

「蒼き狼」の興収目標なんて持っていない。採算をあげることについては、これから松竹と交渉がある。ある意味日本の映画界との戦いになる。その条件交渉で勝ち取ったものを東宝にぶつける。だって松竹が我々の心意気を買ってくれと言ったんだから。私は現場のプロデュースも両方やるという意味で、紛れもなく日本でただ一人のプロデューサー。でもそれだけでなくてもっと私は、見据えているポジションが違う。

(全文は月刊誌「AVジャーナル」2006年5月号に掲載)

「蒼き狼~地果て海尽きるまで~」製作概要
製作:角川春樹、千葉龍平
監督:澤井信一郎
原作:森村誠一「地果て海尽きるまで 小説チンギス汗(上下)」(ハルキ文庫刊)
プロデューサー:岡田裕、徳留義明、大杉明彦、海老原実
主演:反町隆史/共演:Ara、平山祐介

製作:「蒼き狼」製作委員会
角川春樹事務所、エイベックス・エンタテインメント、松竹
フィールズ、エフエム東京、読売新聞東京本社、創芸、ティー・アンド・エム、
ヤフー(予定)、エイチ・アイ・エス、日本航空、スマート・エックス
松竹配給により07年春、全国超拡大ロードショー

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