コミックス・ウェーブ・フィルム初の海外劇場アニメ配給『縁の手紙』、角南常務に思い聞く
2026年09月04日
『君の名は。』や『すずめの戸締まり』などの新海誠監督作品で知られるアニメーション制作会社のコミックス・ウェーブ・フィルム(以下、CWF)が、海外アニメーション映画の配給に乗り出した。第1弾作品として、韓国の『縁の手紙』を9月25日(金)から全国公開する。また、未公表ながら第2弾となる配給作品も控えているという。『縁の手紙』の買い付けを決めた角南一城常務取締役に思いを聞いた――。
『縁の手紙』を配給するCWFの角南氏
『縁の手紙』は、田舎の学校に転校してきた主人公の少女ソリが、新しい環境になじめずに心を閉ざすなかで、不思議な手紙を見つけたことから時を超えた奇跡に繋がっていく感動作。繊細な心理描写、細部まで美しい美術背景など、随所に新海監督の影響を感じさせる作品だ。キム・ヨンファン監督はこれが長編デビュー作ながら、韓国では22万人を動員するヒットとなった。
角南氏が同作と出会ったのは、審査員を務めた2024年10月のプチョン国際アニメーション映画祭だったという。新海監督の海外プロモーションに帯同し、各地で制作されたアニメーションに触れる機会も多い角南氏は、長年にわたり韓国のアニメーションにも目を配っており、短編アニメを買い付けてDVDを発売した経験も有する。ただ、韓国で製作されるアニメーションはキッズ向けの内容が主流であり、日本に比べ、大人向けの作品が製作される機会は少ない。ヨン・サンホ監督の『ソウル・ステーション/パンデミック』や、アニメホラー映画『整形水』といった作品が日本で公開された例はあるものの、日本の興行に適した韓国アニメーション映画の本数は限られているのが実情だ。「ところが、一昨年のプチョンで観た『縁の手紙』は、ここ20年ほど見てきた韓国アニメーションの中で、非常に出来が良いと思いました。新海作品が好きなんだろうなということも感じましたし、これはウチがやるべきではないかと思いました」と角南氏は回想する。有望なクリエイターが最初に監督する作品を「重要」と考えていることもあり、日本で紹介することを決めたという。
作品について角南氏は「ストーリーがすごく良く出来ていると思います。弊社が作品を作る時や、買い付ける時には、絵の上手さや演出の良さという以前に、人々に紹介するに相応しい物語があるかどうかを基準にしています。その映画祭では別の作品がグランプリを受賞したのですが、私は『縁の手紙』が日本で紹介するに値すると作品だと思いました」と激賞する。
9月25日公開『縁の手紙』
また、偶然ながらCWFとキム・ヨンファン監督にはつながりがあることも後に判明。現在同社の代表取締役社長を務める徳永智広氏は、かつて在籍していたテレコム・アニメーションフィルムでTVアニメ「神之塔」の制作に従事。原作が韓国のウェブトゥーンである同作には、韓国側のプロデューサーとしてキム・ヨンファンが参画していたこともあり、徳永社長とは旧知の間柄。「監督は初めてウチに来たのに、(社長を)よく知っている友達でした(笑)」(角南氏)という不思議な“縁”もある作品だという。
9月25日から始まる日本での劇場公開は、KeyHolder Picturesの配給協力のもと、約60館でのスタートを目指す。配給を担当する石丸葵氏(CWF 事業部 チーフ)によると、興収5億円を超えるヒットになった中国アニメーション映画『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)ぼくが選ぶ未来』のように、若者層に応援してもらえる作品にしたい考えだという。「高校生、大学生、20代前半の人たちがボリュームゾーンかなと思っています。また、弊社が配給することで、新海監督の作品のファンの方に、韓国でもこんな作品があるんだと知ってもらえたらいいなと思っています」と期待を寄せる。日本語吹替版の台本や声優にもこだわり、HKT48・IZ*ONE出身の矢吹奈子と、小野賢章の起用を決めた。「コアなアニメファンにも満足してもらえるよう意識しました」と吹替版の仕上がりに自信を覗かせる。
制作の苦労を知る身「良い作品は紹介してあげたい」
CWFは、今後も良い機会があれば海外のアニメーション映画の買付・配給を続けていく考えだ。これは、角南氏がかつて『秒速5センチメートル』(2007年公開)を手に海外セールスしていた頃からの思いに起因するという。「今でこそ『すずめの戸締まり』が韓国で550万人に鑑賞してもらうなど、すごく広がったなと思いますが、『秒速5センチメートル』を海外に紹介していた当時は、今ほど日本のアニメーションが関心を持たれる時代ではありませんでした。それこそ、最初に映画館で上映してくれたのは韓国でした。ほんの数館という規模でしたが、少し日本のアニメに興味を持ち始めてくれているような時期だったと思います。その恩返しというわけではありませんが、そういった取り組みが日本であってもいいと思うんです。スタジオジブリが(三鷹の森美術館ライブラリーとして)『キリクの魔女』などを上映されていましたよね。大事なことだと感じました」と、海外の良質なアニメーションを日本で紹介する意義を語る。何より、いまのアニメーション業界では日本の作品に影響を受けた海外のクリエイターも多く、そういった作品が拾い上げられ、日本で紹介されるべきという思いもあるという。
また、同じアニメーション業界に身を置く立場として、1つの作品を完成させる苦労も身に染みており、その努力に報いたいという角南氏の同胞へのエールの気持ちも窺わせる。「アニメーション映画の制作は3年はかかります。アニメーションを作る工程も知っているので、作品を観ると『これ作るの、相当大変だったんだろうな…』と思ってしまうんです(笑)。特に監督が一番大変なはずで、良い作品は紹介してあげたいと思っています」。
公開本数のノルマなどは設けず、あくまで日本で紹介するべき作品に出会った場合にのみ買付を検討する方針。公開規模が大きなものは他社への配給委託も選択肢に入れるなど、柔軟な姿勢で臨む考え。すでに海外の取引先などにも自社による配給事業開始をアナウンスしており、有望な作品があれば紹介してくれるよう呼び掛けているという。
なお、同社は関連会社であるCWF CINEMASを通じ、2027年春に長野県佐久市中込に新たな映画館「なかごみ座」の開業を予定している。南佐久郡小海町出身の新海誠監督は、自身の新作映画のプロモーションで国内外を渡り歩いたのち、最後の舞台挨拶の地として、地元の映画館・佐久アムシネマを選ぶことが慣例になっていた。ところが2023年に佐久アムシネマが閉館したことで、佐久地域から映画館が姿を消してしまう。これを残念に思った同社は、佐久市に新たな映画館を設立することを決めた。「実は、映画館を作ることも『縁の手紙』の買付を後押ししました。上映できる劇場が最低でも一つできたなと思ったんです」(角南氏)と、ゆるやかながら配給事業と興行事業が伴走している模様だ。資材価格や人件費の高騰が影響し、オープン予定時期が当初(2026年夏頃)から延びたため、『縁の手紙』の封切りには間に合わなかったものの、開業後は自社配給作品を「なかごみ座」でも上映していくと見られる。配給事業はもとより、興行事業にも弾みをつけるためにも、まずは『縁の手紙』のヒットが期待される。
(取材 平池由典)
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