東映は昨年10月、映像本部で大幅な組織改編を実行し、企画開発のシステムを大きく見直した。新体制のもとで製作が決まった映画は、早ければ2028年頃から劇場公開されていく見込みだ。
同社の映像製作機能を担うのが、映画部門とドラマ部門のプロデューサーが一堂に会した新設部署「映像企画部」だ。その部長を務める和佐野健一氏(=上写真)には、業界関係者から「今後東映はどんな方針で作っていくのか?」といった問いがよく投げかけられるという。そこで、改組から半年近くが経過した現時点の映像企画部の動向について、和佐野氏に詳細を聞いた――。
同社は昨年、『花まんま』や『でっちあげ~殺人教師と呼ばれた男』といった、内容面で高い評価を得ながらも、ヒットの目安となる興収10億円に届かない作品が続いた。和佐野氏は「クオリティの高い、映画的価値のある作品は確実に増えていると思います。ただ、近年は興収30億円や50億円といった規模の(自社製作による)実写作品を生み出せていませんし、来年いきなり50億円を目指すというのも簡単ではありません」と、作品の高評価に比例していない事業面の課題を述べる。
その原因の一つとして考えられるのが、属人的な東映の企画開発と再現性の低さだという。和佐野氏は「最終的には、やはり映像の企画開発はプロデューサーの属人的なものによるところが大きい」と前置きしつつ、「単に良い脚本を作って、良いキャストを集めました、ということではヒットは生めません。プロデューサーというより、事業全体を見られるプロジェクトマネージャーのような存在が必要と考えています。そこで東映では、(属人的に進める)その前段階として、まずは組織でプロデューサーを支え、プロジェクトの成功体験を積ませていく。(属人的ではなく)再現性のある、仕組みで勝てる形を作っていく。そしてゆくゆくは10人ほどの柱となるヒットプロデューサーを育てたい」と映像企画部の将来の理想像を明かす。
この構想のもと、まず着手したのが「ユニット制」の導入だ。すでに映画・ドラマ領域においてプロデューサー経験豊富な須藤泰司、土田真通、栗生一馬、小杉宝、井元隆佑の5氏をユニットリーダーに起用し、各リーダーの下に8人ほどのプロデューサーたちを配置した。これまでは若手のプロデューサーも一人で企画開発を行っていたが、今後はユニットリーダーのサポートのもと、①市場性、②収益性、③実現性、④ターゲット/ポジショニング、⑤クリエイティブ、の5項目を重視しながらプロット開発に磨きをかけていく。「例えば、これまでは若手社員が企画書に夢のようなクリエイターやキャストの名を連ねていても、実現のしようがなかった。でもベテランのユニットリーダーと一緒に『なら一度会いに行ってみよう』ということが可能になります。この企画ならこの監督と組むのが面白いよ、企画の方向性をこうするといいよ、といった肉付けもできます」と、ユニットリーダーと二人三脚で企画開発にあたる効果に期待を寄せる。一方で、ユニットリーダー自身もメインのプレーヤーとして、今後も先陣を切って製作に取り組む。
各ユニットで開発された企画は、部内で月に一度開催される「企画開発会議」で審議される。この場では、和佐野氏と室長の岡部圭一朗氏、ユニットリーダー5氏の前で、プロデューサーがプレゼンを行う。「スタジオドラゴンが似た仕組みを取り入れていて、それを参考にしています。多数決で企画を選考すると思われがちですが、そうではありません。参加メンバー同士議論を重ねながら、より当たる作品にブラッシュアップしていく場だと認識しています」。この会議は昨年12月から始まっており、毎月10~15本程度の企画が部内から上がっている。「各プロデューサーがどんどんヒット作を生み出せるようになれば、このような仕組みも不要になると思っています」という。
企画開発会議を通過するのは月2~3本程度。この厳選された企画が、いよいよ脚本開発に入る。月に1本程度の劇場公開を目安に考えていると話す和佐野氏は、「脚本開発に入っても、実際には映画化の実現には多くの困難が伴います。月1本の公開を目指すなら、やはり月に2~3本は脚本開発を進めるのが理想です」と説明する。
脚本がほぼ固まった段階で、ユニット内での開発、企画開発会議に続く第3のゲートにあたる「企画審議会」を行う。この段階では、企画は監督やキャストの目星をつけているだけでなく、マーケティングや事業シミュレーションも実施済みの状態。過去作のデータ等を参考に、想定する興行収入を松・竹・梅の三段階で試算。配信事業者にも実際に掛け合い、プリセールスの金額の当たりもつけておき、海外などの二次利用での売上想定も算出しておく。属人的だったこれまでの東映では企画開発の進め方も各プロデューサー任せだったが、ビジネスとしての視点をどのプロデューサーも徹底することで、企画の精度を高めていく考え。和佐野氏によると、現在は「興収15億円を目指せる企画かどうか」を企画開発の条件に掲げており、映像本部の各部長が参加する企画審議会では、あくまでプロジェクトとしての成功性をシビアな視点で評価していくという。この企画審議会を通過し、役員による常務会を経て、東映の映画は「GO」が出ることとなる。
外部からの持ち込みも活発化
さらに並行して、時期とジャンルの枠を固めて企画を募るラインナップ募集も始めている。以前はドラマ部門に所属していた和佐野氏は、「テレビ局の編成に近い考え方」だとし、「映画には、ホラーが当たりやすい時期、恋愛ものが当たりやすい時期など一定の傾向があるので、そこに向けて作品を作っていきます。実際には様々な要因で思った通りの時期に公開できるわけではありませんが、まずはチャレンジでやってみます。自由に募集をかけるより、ターゲット層やジャンル、予算感など細かく条件を設定した方が、精度の高い企画が集まるんです。そこで、映画戦略部と話し合いながら、公開時期とジャンルを設定して、そこに向けた企画の募集を開始しているところです」という。すでに同社では「年明けは時代劇」といった取り組みを始めていたものの、さらに本格的に取り入れていく。
こういった東映のスタンスの変化に呼応し、外部からの企画の持ち込みも活発化していると和佐野氏は明かす。「これまでは、すでに脚本があり、主演も決まっていて、あとは撮影を待つのみで、出資を希望されてお持ち込み頂く機会が多かったですが、今は『この原作で、ちょっとしたプロットがあるんですが一緒に進めませんか』といった企画初期段階からお声掛け頂くことが増えました」。さらに、社内の映像企画部以外の部署の社員が企画を持ち込んでくるケースもあり、組織改編を機に新しい息吹がもたらされ始めているようだ。
一方、人材の育成には時間がかかるため、和佐野氏は即戦力の募集にも力を注ぐ考え。「東映は作り続けることで生き残ってきた会社です。プロデューサーの層を厚くすることを、スピード感を持ってやっていかなければいけません。ぜひ、優秀な方に、東映に関心を持って頂きたいと思っています」。
理想とするプロデューサーは“巻き込む力”を持つタイプだという。和佐野氏は「マンモスを獲ってきそうな人」とユニークな表現で例え、「どんなに個人の能力が高くても、人間一人でマンモスを狩ることはできません。多くの仲間を集め、数十人規模のチームを編成し、戦略を立て、指揮する人間が必要だったわけです。映画製作も同じで、いくら素晴らしい企画書を書けても、多くの人を巻き込むことができなければ、企画が形になることはありません。企画力や脚本力、キャスティング力、人脈、パーソナリティなどがその“巻き込む力”の礎になるわけですが、若手プロデューサーには、そういった“巻き込む力”を培ってほしいですし、ぜひそういった方に、弊社に来て頂き活躍してほしいと考えています」と呼びかける。
取材・文 平池由典