動画配信サービス「U-NEXT」が、スポーツのライブ配信に力を入れている。2024年8月にはサッカー「プレミアリーグ」の独占配信を発表し、サッカーファンから熱い支持を集めた。
一方、今後はいよいよ音楽のサブスクリプションサービスも開始する運び。これにより、従来の映画やアニメ、ドラマ、バラエティといった映像エンターテインメント作品に加え、スポーツやアーティストのライブ配信、電子書籍、音楽まで1つのアプリで楽しめるサービスとなる。
会員数は2月末時点で466万人まで増加。GEMパートナーズが2月末に発表した推計によると、2024年の定額制動画配信サービスの国内市場におけるサービス別シェア(消費者が支払った金額)では、U-NEXTが17・9%(前年比2・7pt増)で首位のネットフリックス(21・5%)を猛追する。
多岐にわたる取り扱いコンテンツがそれぞれ高稼働し、多様な客層の取り込みに成功したことで、明らかに好循環に入っている同社。今後はどのような成長戦略を描いているのか。堤天心代表取締役社長に聞いた──。
U-NEXT 堤天心社長
プロダクション機能強化
──まず会員数についてお話を伺います。2月末時点で466万人、前年同期比39万人増と順調に増加しています。500万人はいつ頃達成の見込みですか。
堤 2025年から2026年にかけて達成したいと思っていますが、現実的には2026年になると思います。
──昨年の弊誌3月号でインタビューさせてもらった際に、会員数で500万人、売上ベースで1000~1200億円の規模がなければネットフリックスと同じ土俵には立てないとおっしゃっていました。今は500万人が見え、ARR(1年間で決まって得られる売上)も2月末時点で1090億円と、いよいよ同じ土俵に立ったのではないかと思うのですが、そのあたりはどのように捉えていますか。
堤 現状で申し上げると、もうひと伸び必要かなと思っています。500万人まであと30万人強。500万人以上行った時には、初めて次の投資と言いますか、ネットフリックスが得意とされているようなオリジナルドラマですね。年間10本も20本も作ることは現時点で想定していませんが、我々もプロダクションとしての打ち出しを強化していくつもりです。その方向性にいよいよ向き合えるスケール基盤として、500万人で入口に立てるイメージです。
──やはりプロダクション機能を強化していくのですね。
堤 「ドラマ」と「バラエティ」の市場領域においての話です。我々はTBSテレビ、テレビ東京との提携の中で、この2ジャンルのラインナップもかなり魅力的だという大前提はありますが、その競争力をもう一段高めるために、プラスアルファで魅力的なコンテンツが必要だと考えています。それが通常の調達ディールで持って来られるのかと言えば、あまり現実的ではないと思っており、その先はそういった(自社オリジナル)ものを組み合わせたポートフォリオが必要だろうと。
──成長ドライバーとして自社オリジナルが重要なのですね。
堤 ドラマとバラエティでは必須だと思います。我々はあくまで映画、アニメ、スポーツなどジャンルごとの競争環境を見て(ビジネスを)組み立てており、その中でも最も競争環境に厳しさを感じていたのがドラマやバラエティの領域です。伝統的に地上波が一番得意とされてきていますし、ネットフリックスもここに大きな投資をしてグローバルで成功されています。映画は劇場公開から数年経ってもよく見られますし、アニメも5年10年という寿命があり、収益機会が長いと認識しています。それらに比べるとドラマは寿命がやや短い印象です。しかもネットフリックス作品のようなクラスまでいくと、映画よりもはるかに大きいスケールが必要になります。そういった事情もあり、我々の投資における優先順位では一番あとに置いていました。一方で、作品が当たった時には誰もが話題にするようなバズを生んだり、国民的ヒットが生まれるジャンルでもあり、次のフェーズを目指すためには間違いなく必要です。1~2本を試しにオリジナルでやってみましたというレベルでこの市場に参入してもあまり意味がないと思うので、継続的にやるならそれを下支えする基盤が必要になります。会員数が500万人を超えてくると、このジャンルにおいてもある種の競争力を有した形で参入できるのではないかという仮説を立てており、いよいよこの領域に臨んでいこうということです。
──去年はネットフリックスで「地面師たち」が大きな話題になりました。ネットフリックスの独占作品でしたが、あのように世の中に広まる状況はどのように捉えていましたか。
堤 ドラマに関しては、国民的ヒットはテレビからのみ生まれてきた歴史がありますが、一つの配信プラットフォーム発であのようにバズる作品が出てくる時代になってきたのは、OTT全体では非常に良いと思います。ネットフリックスは一定の確率でそれが出ているので素晴らしいです。何本ぐらい打ち込み続ければそういった社会的ヒットが出るのか関心はあります。
ポイントの魅力伝える
──会員数500万人以降のロードマップをどのように描いているのかも伺えますか。さらなる投資、料金改定、M&Aなど、どのタイミングで何が必要になるのでしょうか。
堤 「コンテンツ」と「プロダクト」、「コーポレート戦略」の3つがあると思っています。「コンテンツ」は先ほど申し上げたように、オリジナルプロダクションも含めて、特にドラマ、バラエティに向き合っていきます。
次に「プロダクト」ですが、我々の500万人以降の課題が、ユーザーの満足度の向上です。今でも悪くはないのですが、ユーザーが解約される際に挙げられる理由で多いのが「料金が高い」ということです。
──現状は月額2189円です。
堤 他サービスとの料金比較の中で、他のサービスを優先されるといったケースもあるので、ユーザーから見た価格の重要性を強化する必要があると考えています。これまでは、エンタメに対して一定の能動性を持っているエンゲージの高いユーザーに支えて頂き、2000円強という料金を支払う受容性を持って継続して頂いていました。しかし500万人から先になると、もう少しライトなユーザーといいますか、エンタメに興味はあるけど、そこまででもない層を取り込んでいかなくてはいけないと思っています。そこは「Amazonで十分」や「ネフリは外せない」といったユーザーの声が我々にとって呪いのようなワードになっていますが(笑)、我々ができることとすれば、1200ポイントの価値をさらに高めて、そのポイントも含めたトータルで考えれば、「十分お得だね」と言って頂けるようなサービス、プロダクトを作り込むこと。今年から来年にかけて一つの目玉となる施策を準備しています。
──月額2189円と、確かに他サービスに比べて高いですが、毎月1200ポイント(=1200円相当)が付与されるので、そのポイントを有効活用できれば、2189円―1200円で実質は989円という考え方もできますね。目玉の施策とは何でしょうか。
堤 例えば、従前から発表している音楽のサブスク(※サービス開始時期未発表)です。U-NEXTのアプリの中に音楽のサブスクサービスをバンドルすることで、音楽も聴けて映像も見られるサービスになります。映像単体では2000円強が高いと感じられていた方たちも、例えばスポティファイのような音楽サブスクのサービスがセットになっているならいいか、と思ってくださる方が一定数いらっしゃるのではないかと期待しています。
──2189円より下のプランを提供することは。
堤 2189円からいくらか下げるという考えは、現時点では無いです。2000円以上払っても安い、いいね、お得だねと思って頂けるようなサービスやプロダクトなり、その魅力をどう高めるかという考え方を軸にしています。
──U-NEXTを使い込んでいる人ほど、あの1200ポイントには色々な使い方があると把握している一方で、まだあまり利用していないライトな層にはその魅力が伝わりづらい印象です。
堤 まさにそうです。わかりすい例では、映画館に行く習慣があるU-NEXTユーザーの方は、ポイントを使って映画のチケットを購入できるので、2000円強が高いとはおっしゃらないですね。むしろお得だと思って頂いています。同じように、皆さんが普段利用されているサービスに、ポイントが使えたら…と色々考えており、今年、来年の起爆剤にして、ユーザーから見たU-NEXTのイメージをもう一段拡張したいと思っています。
──3つ目の「コーポレート戦略」はいかがですか。
堤 これは相手があっての話ですし、現時点で具体的にどうという話もないので、一般論としての考えですが、GEMパートナーズの発表でもあるように、VOD市場全体がコロナ禍に比べれば成長が鈍化しているので、そうなればパイの奪い合いが激しくなります。そうなった時に、我々が食われる側ではなく、提携なり、何がしかの推進する側にはなりたいという思いはあります。絶えずその機会は広く、どことでもニュートラルにという思いは持っています。
ショートドラマには慎重な姿勢
──各注力事業の話も伺っていきたいのですが、その前に少し脱線して、昨今市場が大きくなっている「ショートドラマ」についての関心の度合いを伺えますか。
堤 プレミアムサブスクリプションサービスとは似て非なる市場かと思っています。ユーザーのニーズも異なります。ただ、限られた時間を奪い合うという意味では競合にもなり得るという見方をしています。我々のサービスでいきなり縦型ショートドラマをカジュアルに無料で見せるという体験を提供すべきかどうかは、慎重になって考えています。我々のユーザーが求めている体験価値とはやや違うかなと。ショートドラマは、スキマの短い時間にカジュアルに楽しむものという印象です。社員が言っていましたが、映画・ドラマが三食の食事なら、ショートドラマは間食で楽しむスナック菓子的なもので、どちらにも価値がありニーズがある。共存は可能で、そこまで激しく食い合うことはないと思っています。
一方で、IPの軸で見た場合、ショートドラマをプロモーション的に活用することで、IPのスケールが加速し、それをきっかけにドラマや映画になるとか。そういったIPとして拡販していく出口の一つとしてのポテンシャルはすごくあると思います。もしそういう状況になれば、ショートドラマで最初に市場ローンチして、もし反応が良ければ全何話というドラマを作る、映画を作るなど、IPの一連のメディアミックスの中にショートフォームがハマるなら、色々なIPがそこに集まり始める可能性はあると思います。ですので、IPの軸で見た時には非常に興味を持っています。
スポーツ×エンタメが競争軸に
──では各事業について伺いたいのですが、まずはやはりスポーツコンテンツです。今かなり力を入れられていますよね。Amazonのプライム・ビデオは今年2月にMLBやNBA関連の中継を行うと発表しました。ネットフリックスも海外ではNFLの配信などを行っています。いま、主戦場がスポーツのライブ配信になってきたんじゃないかと思うぐらい活況です。堤さんはどのように捉えていますか。
堤 個人的な考えでは、エンタメとスポーツのハイブリッドは、OTT市場のメインストリームになっています。このハイブリッドモデルのプレイヤーと、そうでないプレイヤーとでは明確に競争の優劣が出るほどで、今年、特に来年以降はそこが競争軸になるだろうと思います。ネットフリックスもAmazonも来年以降にかけてさらにアクセルを踏むだろうと捉えています。そういった意味では我々の緊張感も非常に高まっています。やはりコロナの影響が大きく、あの期間でどの国でもVODのOTTが爆発的に伸び、コロナが明け、スポーツが再開した時にはメディア環境が変わっていました。それまでライブというのは、伝統的にチャンネル放送事業者がメインストリームでした。今でもメインではあるのですが、コロナをきっかけにOTTが技術的にも、スケール的にも、ライブストリームが可能な時代が来て、スポーツライブのOTTシフトがデファクトになる流れが急に来たという印象です。
──その中で、U-NEXTが強いスポーツは、「ゴルフ」、「欧州サッカー」、「格闘技」、「テニス」、このあたりという認識で合っていますか。
堤 そうですね。
──昨年のインタビューでは、「1位を獲れる分野を狙っている」とおっしゃっていました。その方針は変わりませんか。
堤 はい、スポーツは特にそうです。ナンバーワンを獲れるかどうかで全く変わるので、当該ジャンルでティア(地位)が獲れないのであれば、極端な話、勇気ある撤退も辞さないという緊張感を持っています。
──先ほど私が挙げた4ジャンルのスポーツの中で特にうまく行っているものは何ですか。
堤 格闘技、サッカー、ゴルフの3ジャンルが非常にうまくいっています。テニスは今年から始めたので、まだまだ伸ばしていかなければいけません。3ジャンルに関しては、良い形でクラスターがばらけています。
続きは、文化通信ジャーナル2025年6月号に掲載。
取材 平池由典