閲覧中のページ:トップ > 文化通信バラエティ > インタビュー >

東映の国際企画戦略部、第1号作品は日台米合作『Dear Stranger』

インタビュー

最新記事

東映の国際企画戦略部、第1号作品は日台米合作『Dear Stranger』

2025年05月29日
 東映配給の日本×台湾×米国合作映画『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』が、9月にTOHOシネマズシャンテほかで全国公開されることが決まった。

 日本の西島秀俊と台湾のグイ・ルンメイが主演。真利子哲也監督がメガホンをとり、2024年11~12月に多国籍のスタッフが集結してオールNYロケを敢行したという作品。息子の誘拐事件を発端に夫婦の抱える秘密が浮き彫りになるヒューマンサスペンスだ。

 この国際色豊かな映画を手掛けたのが、真利子哲也監督所属の株式会社ロジと東映の国際企画戦略部。東映は海外展開を視野に入れた作品作りに着手しており、昨年4月に国際営業部内に「企画戦略室」を新設。社内のプロデューサー数名が同室に異動したほか、外部からもプロデューサーが参画した。また、コンテンツ事業部門の一部だった国際営業部を、今年4月には「国際事業部門」(国際営業部、国際企画戦略部の2部で構成)に昇格させるなど、国際事業に本腰を入れている。

 その国際企画戦略部が放つ作品第1号となるのが『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』だ。東映配給作品がTOHOシネマズシャンテをメイン館に据えるのも珍しいケース。担当の髙橋直也氏(国際企画戦略部 企画室 プロデューサー)は「台詞が英語の作品ですし、洋画のファン層にもしっかり届けたいと考えています。また、東映としても前例のない挑戦作なので、映画としての新鮮な衝撃や驚きを期待していただく意味でも、映画ファンの多いシャンテさんがピッタリだと考えています」と意図を話す。


東映 国際企画戦略部の髙橋直也氏.png
髙橋直也プロデューサー


 同作が誕生したきっかけは、真利子監督がシカゴ国際映画祭に審査員として招かれ、現地制作者と出会い、数本の作品を制作したことが大きい。監督は、コロナ禍の日常を世界14都市からのビデオレターで構成するドキュメンタリー『MAYDAY』を2020年に、全編シカゴ撮影の短編『Before Anyone Else』を2023年に発表した。『Before Anyone Else』は昨年のシカゴ国際映画祭、上海国際映画祭、大阪アジアン映画祭にも出品されている。これらの作品を制作したことで現地スタッフとの人脈が生まれ、長編映画を制作する足掛かりができた。

 髙橋氏は「日頃からロジさんと情報交換させてもらう中で、弊社の国際営業部の中に企画戦略室が新設され、海外向けの作品をやっていくつもりですとお伝えしたところ、『こういう企画があるよ』とご紹介頂き、ご一緒させてもらうことになりました」と東映参画の経緯を説明する。

 この企画の大きなチャレンジとなったのは製作の座組みだ。現在の部署に異動する前は映画企画部所属だった髙橋氏にとって、通常の製作委員会には馴染みがあるものの、国際共同製作は初めての経験。「日本の製作委員会方式とは全く異なるスキームのため、弁護士や税理士の方々にもご協力頂きながら、法的なハードルや税務上の整理を含む様々な課題をクリアしていきました。結果として、制作のためのLLC(合同会社)は米国に設置しました」という。

 さらに、企画として香港アジア・フィルム・ファイナンシング・フォーラムの企画マーケット「HAF」に選出されるなど、開発当初より海外からの資金調達を目指した。出資には東映のほか日本数社、TAICCAのTICP2.0を含む台湾の数社が参画した。またロジは日本のコンテンツ産業の海外展開等支援JLOX+の採択を受けた。

 全編をNYでロケするため、現地のプロダクションの協力も欠かすことができず、共同制作プロダクションとして、台湾の「LOULOU FILM STUDIO」、NYの「ローリン・スタジオ」の参画が決定。NYの撮影現場では、日本からは真利子監督、撮影の佐々木靖之氏ほか数名が渡米したものの、大半は現地スタッフを起用。英語はもとより、日本語、中国語も飛び交う賑やかな現場だったという。

 作品は間もなく完成する運び。髙橋氏は「企画時点から意識していますが、日本はあくまで市場の一つであり、米国、フランス、中国、韓国といった海外の配給をきっちり実現して、そこで日本を超えるような収益をあげたいと思っています。フランス配給ではThe Jokers Films(『パラサイト 半地下の家族』をフランスで配給)が決まっていますし、水面下で探っているほかの国の反応も良いです。もちろん、西島さんやルンメイさんといった世界的に注目される俳優の挑戦作ということありますが、日本人監督がアメリカに移住した日本人のリアルを実感を込めて描く作品はあまり例がなく、海外の方も興味を惹かれるようです」と海外セールスへの手応えも上々のようだ。

 東映の国際企画戦略部では、「アニメ」、「特撮」、「実写」の3本柱で海外市場でのヒットを視野に入れた作品の企画を立てているという。また「実写」の企画では、日本が誇る優秀なクリエイターの海外への発信や、東映IPのリメイクを含めたジャンル系のエンタメ作品といった切り口で、海外との共同製作を積極的に推進していく考え。真利子監督の『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』はその方向性を実現した作品であり、重要なトップバッターとなる。髙橋氏は「このあとも様々な企画が控えているので、まずは『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』が国際事業部門の狼煙となるような作品にしたいと思います」と意気込む。


取材  平池由典

過去のタイトル一覧

2025年

1月│ 2月│ 4月│ 5月

2024年

2月│ 3月│ 6月│ 7月

2023年

3月│ 5月│ 7月│ 9月│ 10月│ 12月

2022年

3月│ 4月│ 7月│ 8月│ 10月│ 12月

2021年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 6月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月

2020年

2月│ 4月│ 5月│ 10月│ 11月│ 12月

2019年

2月│ 7月│ 12月

2018年

1月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 9月│ 11月

2017年

2月│ 4月│ 10月

2016年

2月│ 3月│ 5月│ 9月│ 11月

2015年

1月│ 2月│ 6月│ 7月│ 9月│ 10月│ 12月

2014年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2013年

2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2012年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2011年

1月│ 2月│ 4月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2010年

1月│ 2月│ 3月│ 5月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 12月

2009年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 9月│ 10月│ 12月

2008年

1月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2007年

2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 7月│ 8月│ 10月│ 11月│ 12月

2006年

4月│ 5月│ 6月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月