映画やアニメなどの宣伝を手がける、エンタメ業界専門のマーケティングエージェンシーである株式会社サーティースリーが、4月1日付でオフィスを移転した。さらに会社ロゴ、企業メッセージ、企業理念、ホームページまで刷新し、創業5年目の春に新たな一歩を踏み出した。
2021年1月の設立以来、劇場公開映画やアニメの宣伝業務で急速な成長を遂げ、注目度を急速に高めている同社は、一貫して拠点を東京・麹町に置いてきた。ただ、当初約10人だったスタッフの数は年々増加。昨年度に5人、今年度にも6人の新卒を採用するなど、4月時点で東京本社のスタッフ数は53人に拡大しており、全スタッフが同じ空間で業務に取り組める最適なオフィス環境を目指し、渋谷に移転を決断した。
さらに、このタイミングで企業理念や会社ロゴもリニューアル。従来のロゴは稲妻をモチーフに「33」を表現していたが、新ロゴは柔らかなハートをイメージした「33」に生まれ変わった。久保田光治代表取締役(=写真上)はその意図を次のように話す。「AIをはじめテクノロジーが急速に進化して、私たちの働き方やコミュニケーションはこれまでになく便利になった一方で、デジタル社会のさらなる発展が進む今だからこそ原点回帰で、クリエイターの情熱や、クライアントの皆様の信頼、そして従業員一人ひとりの努力といった、人が持つ『ハート』にこそ、かけがえのない価値があると感じています。私たちは、その『ハート』に宿る想いや願いを大切にしながら、新しいエンターテインメント体験を世界中に届けたいという強い決意をもって、今回のリニューアルに至りました」。
サーティースリーの新たな会社ロゴ
それに付随した、会社のコアメッセージ「From Heart to Hearts:ひと繋ぎの想いを、世界中の人々の心へ」では、クリエイターやクライアント、従業員らの関わる全ての人たちの想いをひとつにし、感動や興奮に満ちたエンタメ体験を世界中の人に届けるという意が込められている。
LA拠点体制拡大、日本発マーケ会社として顕著な成果
「世界の人に届ける」という意志表明に対し、組織の実態が伴っているのがサーティースリーの特長だ。2023年にロサンゼルスで設立した米国法人(33 USA)が本格稼働し、顕著な成果をあげている。特にこの1年は、PR、ソーシャルメディアマーケティング、イベントなど現地での宣伝を担うチームを編成・強化するとともに、マネージャー陣の採用・育成に注力、日米間のコミュニケーションを円滑化して意思統一を図ってきた。その結果、現地組織は4月時点で15人となり、日米が緊密に連携しながら1つの作品やサービスをグローバルに宣伝できる体制が整い、北米マーケットやオーディエンスの本質を捉えたサービスの提供が可能となった。
また、これに伴い「東京本社、USA支社」という呼称を解消し、新たに「東京ブランチ、LAブランチ」として日米間でタッグを組み、グローバルマーケティングのプロジェクトを推進していく。久保田氏は「日本国内宣伝と海外宣伝をセットでお任せ頂く機会が増えてきております。今後はさらに日米チームが一体となり事業を推し進めていきます」と述べる。タイトルは非公表ながら、今年から来年にかけてアニメ、マンガ、ゲームなど約10作品以上の日米マーケティングを担うことが決まっている。さらに米エンターテインメント企業の米国市場向けマーケティング案件も受注。次のフェーズへと着実にステップを踏んでいる。
ブランドマーケティングで“ファンダム”を構築
同時に、久保田氏は「クライアントやクリエイターの皆様が心血を注いで生み出した作品に、ブランドマーケティングの力で唯一無二の魅力を引き出し、日本を含め世界中の人に届けて“ファンダム”を構築していくことが、私たちの使命だと考えています」と語る。宣伝会社という意識や枠組みからの脱却を掲げ、中長期的にクライアントやIPと伴走しながらブランドを築いていく“ブランドマーケティングの会社”こそが、創業5年目を迎えたサーティースリーが目指す在り方だと久保田氏は結論づける。
そのための改革として「データストラテジー部門」を新設。ブランド戦略立案の精度をより高めていく考えだ。その一方で既存の業務の見直しも欠かさない。宣伝経験の豊富な奥村裕則マネージャーが陣頭指揮を執り、より質の高いサービスを提供するために宣伝プロデュースとパブリシティ部門の再構築を図った。クリエイティブ部門でもチームを3つに編成(キーアート制作、ソーシャルコンテンツ制作、動画制作)するなど、激動する時流に沿った組織作りでファンダムの創出に臨む。
サーティースリーが参画した作品の成功例の一つに挙げられるのが、TVアニメ「ブルーロック」だ。日本では映画版(昨年4月公開)が興収18億円突破の大ヒットになるなど、すでに爆発的な人気を誇る同作。この勢いを北米にも繋げるべく、TVアニメの第2期から参画することが決まった同社が行ったのが、IPのブランディングだった。
久保田氏は「日本では、その先の読めないヒリヒリした展開やアツいセリフなどで火が付き、キャラクターの魅力によって人気が拡大していった『ブルーロック』ですが、戦略を立てる上でマーケティングリサーチを行った結果、アメリカで同じ感覚、方法で宣伝しても拡がらないことがわかり、ブランド戦略を練った結果、『知略系バトルアクション』という側面を強く打ち出すことを決めました。“負ければサッカー人生が終了”という設定の面白さ、その方向性に振って宣伝を推進することを決め、委員会の皆様と協力しあい、様々なコミュニケーション戦略でオーディエンスとの接点を作っていきました。その結果が奏功し、第2期は北米でも大人気となり、結果的に第1期もたくさんの人に見てもらう流れを作ることができました」と振り返る。
映画業界に貢献、若手スタッフの育成に力を注ぐ考え
一方で、かねてからサーティースリーの得意領域でもある劇場版映画の宣伝にも引き続き注力する考えだという。久保田氏は「近年はTVシリーズのアニメ作品を取り扱うことが増えているので、アニメ宣伝の会社というイメージを持っていただいている方も少なくないと聞きますが、これまで以上に劇場版映画の宣伝にも力を入れていきます」という。今年は『366日』や『ビーキーパー』などに携わったほか、今後公開の作品でも『九龍ジェネリックロマンス』、『マインクラフト/ザ・ムービー』、『フロントライン』など注目作が目白押しだ。「劇場版映画宣伝の経験値が高い奥村が昨年2月に入社し、実写映画やメジャースタジオ作品へのチャレンジを拡大しているところなので、引き続き映画業界に貢献していきたいです」という。
宣伝プロデュースとパブリシティ部門で統括を担う奥村氏も、自身がこれまでのキャリアで培ってきたノウハウを、次代を担う若手に注ぎ込んでいるという。「エンターテインメント業界での活躍を夢見て、異なる業種から入社してくる社員も多数いる中、私自身は宣伝プロデュースやパブリシティの知見を豊富に持っていると思うので、彼らの疑問や興味にはきちんと答えられる存在として構えたいと思っています。積極的に若手を育成し、業界全体の活性化につなげていきたいです」(奥村氏)と、宣伝面に留まらず、人材の育成という面でも映画業界に寄与していく考えだ。
取材 平池由典