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エンタメにフルスイング、『室町無頼』東映・須藤プロデューサーに聞く

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エンタメにフルスイング、『室町無頼』東映・須藤プロデューサーに聞く

2025年01月17日
 東映配給『室町無頼』が1月17日(金)から全国公開される。時代劇では珍しい“室町時代”を舞台に、巨大な権力に闘いを挑んだアウトローたちを描くアクション大作だ。監督は入江悠、主演は大泉洋。毎年年明けに時代劇を公開していく方針を掲げている東映にとって、今後の作品に弾みをつけるためにも重要な一打となる。オール東映体制で臨み、製作費10億円を投じて勝負に出た同作について、須藤泰司プロデューサーに聞いた。(取材・文:平池由典)


須藤泰司プロデューサー.jpg
『室町無頼』須藤泰司プロデューサー


好きなものを詰め込んだ

 「エンターテインメントに即した形で、僕らが子供のときから見て好きだったB級映画やアクション映画の要素をとにかくたくさんオモチャ箱に詰め込んで、それをバーン!と広げたような映画を作ろう」。

 これが、同作に対し須藤プロデューサーが入江監督とともに強く意識してきたことだという。主人公の蓮田兵衛(大泉洋)と弟子の才蔵(長尾謙杜)の師弟関係は熱く、志同じくして敵対することになった骨皮道賢(堤真一)と蓮田兵衛のライバル対決は切なく、幕府の大名たちはとにかく悪く、虐げられてきたアウトローたちの最後のアクションは格好良くて大迫力。須藤氏は「僕たちが面白いと思うものでなければ、お客さんが面白いはずがない。とにかくアクションエンターテインメント活劇としての面白さを徹底しました。例えば(東映が昨年11月に公開した)『十一人の賊軍』が劇画なら、『室町無頼』はコミック。少年誌に載っている漫画のような作りにして出そうと考えました」とこだわりを語る。

 この作品を“コミック的”に描こうとした象徴的なシーンが、弟子の才蔵が最終決戦に備えて行う修行のシーンだ。師匠による型破りで過酷なしごきに耐え抜き、若者がめきめきと力を付けていく姿は昭和・平成のバトル漫画の主人公そのもの。成長した才蔵が満を持して繰り広げるクライマックスのアクションは同作最大の見どころの一つだ。

 歴史学者の早島大祐氏(関西学院大学 教授)の手を借り、しっかりと時代考証は行なったものの、リアリティの面でもまずは見る人が楽しめることを最優先。須藤氏は「例えば、脇差は江戸時代以降のものですが、彼(主人公の蓮田兵衛)がいいと思って差しているならそれで良いじゃないかと。わかった上で、嘘をついてでも面白い方を選択していきました」と明かす。

 劇伴も、西部劇をイメージさせるものから、優しくセンチメンタルな雰囲気まで、従来の時代劇の枠に縛られない音楽が作品を彩る。とにかくエンターテインメントにフルスイング。それが『室町無頼』なのだ。


『レジェンド&バタフライ』の制作が大きな糧に

 同作の企画がスタートしたのは2016年頃から。2020年頃の撮影を目指し製作費集めなどの準備を進めてきたが、コロナ禍に見舞われ企画は中断。そのまま映画化が頓挫する可能性も多分にあったという。

 しかし、すでに出演を快諾していた大泉洋、堤真一の2人が撮影に前向きだった。「お二人が別の現場で顔を合わせた時に、『室町無頼』は面白いからやりたいよね、と言ってくれていたんです。お二人が待ってくれていたのは非常に大きかった。それなら、入江監督も含めて3人のスケジュールが合うところに向けて頑張りましょうとなりました」(須藤氏)。

 加えて、2020年6月に東映の社長に就任した手塚治氏(2023年に死去)の後押しも大きかった。須藤氏は「手塚さんは、時代劇をしっかりと手掛けて、これまで培ってきた東映京都撮影所の技術を受け継いでいくためにも、この企画は早急にやらなければならない、と話していました」と振り返る。記者会見に手塚氏自ら登壇した『レジェンド&バタフライ』(大友啓史監督)同様、『室町無頼』も同氏肝入りの時代劇であり、本人がゴーサインを出した最期の作品だったという。

 『室町無頼』の前に『レジェンド&バタフライ』の撮影を経験していたことは京都撮影所にとって大きかった。須藤氏は「京都撮影所の皆さんは、テレビドラマ用の時代劇は多く手掛けているものの、本格的な大作時代劇はものすごく久しぶりで、『レジェンド&バタフライ』の時はとても苦労していました。例えば、ロケ地での撮影は、多くのエキストラを運ぶための10数台にもおよぶロケバスを含めて、何十台もの車両が出入りします。それを差配するためだけのスタッフも必要になるんです。これは一例に過ぎず、あらゆる面で、あの大きな規模の映画に慣れていなければできないことばかりで、『レジェンド&バタフライ』の時に一つずつ対応していった経験を活かし、『室町無頼』では最初から完璧にこなしていました。そういう意味では(『レジェンド&バタフライ』の)大友監督に教えてもらったと言えるかもしれません。『レジェンド&バタフライ』の時に苦労していたラインプロデューサーらが、経験を積んだ上で『いま、大友さんとやったら出来ます』と言っていたのがかっこいいなと思いました。それこそが目指してきたことなので、手塚さんにも聞かせてあげたい言葉でした」と制作陣の奮闘を称える。

 こういった着実なスキルアップの結果実現したのが、10億円という製作費をさらに上回る規模感の創出だ。特に、夜の京を舞台にした一揆のスケールは圧巻で、たいまつを掲げた集団が市中になだれ込んでくる映像は見応え十分。毎日200~300人のエキストラが京都撮影所に集結し、夕方から夜にかけて、1週間かけて撮影したという。大勢のエキストラが本当のたいまつを手にしているため、ちょっとしたアクシデントが事故やケガに繋がりかねない。「辞表を用意して撮影に臨んでいました(苦笑)」と須藤氏が話すほどリスクを伴う撮影だったが、無事に撮り終え、日本映画史でも稀に見る、緊迫した“都市暴動”のシーンが誕生した。

 同作は、京都撮影所はもとより、東京撮影所も参画し、CGは東映アニメーションが担当。まさに「オール東映」体制で創り上げた渾身の時代劇であり、継続的して時代劇を手掛けていく同社にとっての代表作の一つとなった。


【室町無頼】本ビジュアル.jpg
©2025『室町無頼』製作委員会


“大泉洋史上一番かっこいい役”としてオファー

 コロナ禍でもこの作品の制作を待ち望んでいたという、キャスト陣の貢献も見逃せない。主人公の蓮田兵衛役として、須藤氏が真っ先にオファーしたのが『探偵はBARにいる』でもタッグを組んだ大泉洋だった。

 「大泉さんには『大泉さん史上一番かっこいい役をやりますから』と出演を依頼しました。ご本人は笑っていましたが、内容を見て、すごい活劇で面白そうだと思ってくれて、快諾してくださいました」と述懐。大泉洋は『探偵はBARにいる』でもクールな役柄を演じているが、「あの役は個人としてかっこいいキャラクターでした。今回は人を育てる。50歳になる大泉さんの節目の大作で、大人の男の良さを出していこうと考えていました。ご本人も黒澤映画の三船(敏郎)像などを見て、役に取り込んでいたんじゃないかなと思います。いつも演じられているキャラクターより幹が太くて、頼りがいがある役になっていると思います」とひと味ちがう大泉を見られるのがポイントだ。

 その大泉演じる役のライバル役を担ったのが堤真一。堤はジャパンアクションクラブ(JAC)出身で、劇団☆新感線の舞台などでは迫力の殺陣を見せているものの、「たぶん映画でこれほど本格的な殺陣を見せるのは初めてじゃないでしょうか」(須藤氏)という。「殺陣師やアクション部のスタッフが言っていたのですが、堤さんは腰の座り方がどっしりしていて、見ていて美しいんです。惚れ惚れします。堤さんご自身は『大きく見えるように殺陣を作っていた』とおっしゃっていました。実際、スケールを感じさせる殺陣をしているんです」と、最大の敵役として存在感を発揮する堤の刀さばきにも要注目だ。

 そして、同作のもう一人の主人公とも言えるのが、蓮田兵衛に師事する才蔵だ。演じたのは長尾謙杜。劇中では自身の身長より長い六尺もの棒を振り回し、ラストには多勢を相手に地上から屋根に飛び移りながらのアクロバティックなアクションを見せつける。須藤氏は「兵衛の後ろを子犬のようについていく可愛らしさ、人の良さがありながら、この厳しい修行を撮影して耐え抜けるような身体能力がないといけない。その役柄に合う人を探していたところ、うちの栗生(一馬)が『長尾くんですよ絶対!』と推してくれました。本当に長尾くんで良かったと思いました」と絶妙なキャスティングに胸を張る。

 マスコミ試写の評判は上々だ。須藤氏は「原作者の垣根さんからもすごく喜んでもらえてホッとしました。マスコミがとても好意的で、『予想をはるかに超えて面白かった』という声もありました。最後のシーンで泣けたという女性もいて、ヨシヨシと思いました(笑)」と仕上がりに自信を覗かせる。エンターテインメントとしての面白さを追求した新たな時代劇が、寒さ深まる1月をとびきり熱くしそうだ。

■タイトル:『室町無頼』
■公開:2025 年 1 月 17 日(金)
■配給:東映
■監督・脚本:入江悠
■原作:垣根涼介『室町無頼』(新潮文庫刊)
■出演:
 大泉洋
 長尾謙杜 松本若菜 北村一輝
 柄本明
 堤真一

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