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映画館「ストレンジャー」、26歳の新社長が手腕発揮し動員増

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映画館「ストレンジャー」、26歳の新社長が手腕発揮し動員増

2024年06月21日
「ストレンジャー」外観.jpg


 東京・墨田区菊川にある映画館「ストレンジャー」が、前年対比で成績を伸ばしている。今年2~4月の3か月間の実績は、動員対比110%、興収対比120%。興収の顕著な伸びが示すとおり客単価が上がっており、若年層の来場が増えているのだ。また、貸館などによる収益強化も始めている。その立役者が、26歳の新社長である更谷伽奈子氏。独自の番組編成と、地元との連携を意識した施策が高稼働しており、着実に同館の認知度を高め、ファンを増やしている。

 ストレンジャーは都営新宿線・菊川駅から徒歩25秒の場所に2022年9月開業(49席)。オシャレなカフェを併設し、こだわりの番組編成で熱心な映画ファンの支持を得た。ただ収益面などで今後の事業継続に課題を抱えていたため、運営会社をナカチカが完全子会社化し、今年2月からストレンジャーの運営に参画することとなった。

 販促やセールスプロモーションを生業とするナカチカは、2023年1月に映像事業「ナカチカピクチャーズ」を立ち上げ、映画の配給・宣伝・製作を開始。今年は『劇場版 アナウンサーたちの戦争』(8月公開)、『シサㇺ』(9月公開)、『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』(11月公開)といった話題作の公開が控える。その一方で従来から「興行」への関心も高く、ストレンジャーの事業譲受の話が持ち込まれた段階から映画館運営への前向きな検討を始めた。そこで、運営子会社「株式会社ストレンジャー」の取締役社長に就任したのが更谷氏だ。従来は劇場営業を担当していたが、ナカチカピクチャーズの小金澤剛康代表いわく「興収への嗅覚が体に染みついている。加えて、厳しいものを波に乗せる大変なチャレンジを最後までやり遂げられる忍耐と強い意志を持っている。年齢は関係なく、迷いなしだった」という評価を受けての抜擢だった。


更谷氏.jpg
更谷伽奈子社長


 2月にスタートしたナカチカ体制での「ストレンジャー」で最初に着手したのは番組編成。更谷氏は「前オーナーは絶妙なセンスで作品を選んでいたため、ストレンジャーにはすでに作品の“品質保証感”はありました。そのプレッシャーはある中で、これまでにはなかったような作品も上映してみて、お客さまがどのように反応するのか、客層が変わるのかを見てみようと思いました」と話す。

 そのチャレンジの一例として、同館では初となるアニメーション映画の『千年女優』を2月に上映した。「アニメーションの中でも、シネフィルの方に納得して頂きやすいタイプの作品だと思い上映しましたが、すごく喜んで頂けました。これで当館でのアニメーション上映もアリなんだとわかり、選べる作品の幅が広がりましたね」という。それ以来、スタジオジブリの『君たちはどう生きるか』や、同じ宮﨑駿監督の「未来少年コナン」といったアニメ作品も柔軟に編成している。また、ネットフリックスで配信が始まるタイミングで『BLUE GIANT』をあえて上映する逆張りも敢行。「配信で観て、改めて映画館で観たいと思う人はいるはず」(更谷氏)という予測が見事的中し、1か月にわたるロングランヒットとなった。

 話題作とシネフィル向け作品のバランスを重視した番組編成と並行し、更谷氏が意識しているのが地元と密着した作品の上映だ。役所広司演じる主人公が東京の下町を住処にしていることにちなみ、『PERFECT DAYS』を上映したところスマッシュヒットとなった。また、東京大空襲の生存者を取材したドキュメンタリー映画『ペーパーシティ 東京大空襲の記憶』の上映では、期間中の全ての日程でほぼ完売となり上映延長となる大盛況となった。79年前に空襲のあった3月10日に合わせた上映で、連日トークイベントを実施しシニア客が多く訪れたほか、英語字幕版の上映により外国人客の姿も目立ったという。

 地元との密着は単なる作品上映だけに留まらない。上映タイミングと合わせて、『PERFECT DAYS』に登場した墨田区に実在する銭湯「電気湯」とコラボを実現。映画館と銭湯のコラボステッカーを販売したほか、ストレンジャーでは電気湯のポップアップショップを展開。これが驚異的な売り上げとなり、映画館で『PERFECT DAYS』を観たあとに電気湯に向かうという相互誘客の効果も発揮。「上映期間中は、電気湯の客層がいつもより若くなったと喜んでもらえました」(更谷氏)と、地元密着の理想的なモデルケースの1つとなった。こういった作品に紐づいたイベントやコラボレーションは積極的に実施していく意向で、まずは地元で愛される映画館に育てていく考えだ。


「ストレンジャー」劇場内.jpg
劇場内


 従来は早くから上映日程を固めるスケジューリングだったが、それも1週間ごとに変更していく形にシフトチェンジ。併設するカフェのメニュー増強や、客がより気軽に立ち寄りやすいようにテーブルの配置変えや店舗前にブラックボードを設置するなど、細やかなリニューアルも随時行う。その効果は如実に表れており、カフェの売上も前年比130%で推移しているという。

 客層は作品ごとに異なるものの、ボリュームゾーンは20~30代と非常に若い。更谷氏は「同じ作品を上映しても、他の都内の劇場より客層は若くなる傾向にあります。立ち寄られた他の興行会社さんも、客層の若さに驚かれます」と話す。近隣の清澄白河に若年層が好むオシャレなカフェが立ち並んでおり、そこからの流入も多いようだ。こういったライトな客層が好む作品も意識しており、ラブコメの『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』は週末が即完の好調な客入りだったという。

 まずは順調な滑り出しを見せた新生ストレンジャー。6月末からはホン・サンス、7月からはジョン・ヒューストンと注目の特集が続く。更谷氏は「小さな施設のこの中で、映画、カフェ、アートが凝縮され、文化の発信拠点となればいいなと思います。上映することで、作品にとって興収以外のところでも貢献できるような劇場にできれば」と理想の将来像を描いている。


取材・文 平池由典

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