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QテックとPCEが合併「クープ」、一気通貫の体制でアニメ編集シェアNo.1目指す

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QテックとPCEが合併「クープ」、一気通貫の体制でアニメ編集シェアNo.1目指す

2023年03月02日
坂本氏(右)と酒見氏(左).jpg


 キュー・テックとポニーキャニオンエンタープライズが昨年10月に合併し、新たに「株式会社クープ」(代表取締役社長:古迫智典)が発足した。メモリーテック・ホールディングスの100%子会社だった2社の統合であり、ともにポスプロやスタジオ事業を行っていることから、一見すると業務や人員の効率化が主目的のようにも見えるが、実はそれだけに留まらず、「アニメーション編集シェアのNo.1」を狙う、大きな野心を持った合併なのだという。坂本篤取締役(=写真右)、酒見弘人営業本部 第1営業部部長(=写真左)に狙いを聞いた。

 レーザーディスクのマスターテープ制作を祖業とするキュー・テックと、テープやディスクの製造、それに付随する映像制作事業を祖業とするポニーキャニオンエンタープライズ。ディスクに関連した事業で発展を遂げてきた両社だが、メディアの潮流に伴い、どちらも主要事業が変わってきた歴史を持つ。キュー・テックの場合、映像・音声のクオリティチェックが最も厳しいとされるディスクの事業で培ってきた技術を生かし、近年はアニメーション編集のトップランナーとして業界の信頼を集めている。一方のポニーキャニオンエンタープライズは、翻訳から字幕、吹替までを担当する言語制作部門が充実。2015年にはネットフリックスの認定スタジオとなり、現在は多くの国内外配信プラットフォームへのローカライズ対応、デリバリー、サポートを担っている。アジア諸国、北米、南米、ヨーロッパ出身のスタッフも擁し、海外作品の日本語制作とともに、日本作品の海外言語制作にも対応する。

 両事業とも映像作品を完成させるためには必要な工程であり、得意分野が異なる両社は互いに補完し合える関係にあるのだ。現在、大半の事業で両社によるスタジオの統合が行われ、今後整備を進め、クープをはじめメモリーテック・ホールディングスのグループ内でアニメーション制作に必要な作業を一気通貫で担える体制の構築を図る。坂本氏は「目指す姿はアニメの総合センターです」と話す。

 グループが構想する総合アニメセンター像はこうだ。「ゆめ太カンパニー」「グラフィニカ」のアニメ制作・撮影・3DCGといった工程から、「クープ」の飯倉スタジオがアフレコ・音響制作、「リアル・ティ」がオフライン編集、「クープ」の赤坂・飯倉・杉並スタジオがオンライン編集、言語制作、配信プラットフォームへのデリバリー、データ保管を担当。さらに「メモリーテック」がディスク事業までを担う。今年の4月には杉並にオフライン編集併設のスタジオを新設する運びだ。「グループ内で全て完結できる形になります。お客さまにとっては窓口を一本化できて、素材があちこちに行かずに一気通貫で動かせるのです」(酒見氏)。あとはグループ内の交流をさらに活発化させ、トータルコーディネートを担える人材の育成・発掘を行うことが成功の鍵となりそうだ。

 なお、グッズ制作は「メモリーテック」、カスタマーサポートは「バリュープラス」、WEBデザインなどは「ポニーキャニオンプランニング」、ECサイトはバリュープラスが運営する「バリューモール」と、ビジネス展開時に力を発揮できる企業もメモリーテックHD傘下には並んでいる。坂本氏は「(アニメーション編集のシェアは)かつてキュー・テックが業界をけん引した時期もあります。働き方改革や若者のテレビ離れなど様々な要因で進むべき方向を見失いかけましたが、今回の統合で再び業界1位を目指すきっかけが出来たと考えています。質の良い作品を皆様に届けることがクープの役割です。そしてグループが一致団結できれば、業界1位を狙えるぐらいの強さがあると思っています」と意気込む。


AI着色開始、アーカイブ映像のデジタイズにも注力

 昨年11月には、幕張メッセで行われたメディア総合イベント「InterBEE」にクープとして初出展した。「アピールしたいものが多すぎる(苦笑)」(酒見氏)という通り、複数の重点サービスを紹介したが、その中でもユニークだったのが、モノクロ映像にAIで着色する同社の新技術「FORS(フォルス)AI」だ。1958年の日活映画『知と愛の出発』で実際にAI着色を行い、2月3日にハピネット・メディアマーケティングからDVDが発売された。

 デジタルの時代となり、アーカイブ映像のデジタイズは年々需要が高まっている。同社も力を入れている事業の1つで、独自技術とAIを融合させたカラー化は武器の1つになりそうだ。モノクロ映画のカラー化需要は未知数なものの、映像業界には戦争関連の映像やドキュメンタリーをはじめとしたモノクロの貴重な記録映像が数多く眠っており、カラー化することで、現代に生きる人々に身近に感じてもらうという需要を掘り起こしていく方針だ。

 同社は旧キュー・テック時代から、ビデオ編集スタジオでは例の少ないリアルタイムフィルムスキャナーを導入。劣化したフィルムの補修、スキャニング後のデジタル処理工程とも高い技術と知見を有するスタッフにより、アーカイブ映像の高画質化に力を入れてきた。また、標準画質をHD、4K、8Kといった画質にアップコンバートする技術にもAIを導入し、以前は困難だったAIによるデジタルノイズの除去や24P化(毎秒30コマ→24コマに変換)も実現させている。統合のメリットを最大に生かし、旧ポニーキャニオンエンタープライズの窓口や人材なども活用しながらデジタル処理の事業を伸ばしていく考えだという。

 特に最近は、業界全体でテープアーカイブのデジタイズが活発になっている。VTRメーカーのメンテナンス終了が近づいており、保有しているテープのマスターを各社が急ピッチでデジタル化しているのだ。クープでも、すでに相当数の作業の依頼が舞い込んでおり、ラインを増強して対応している。デジタル化後のマスター管理を行う、メモリーテック渾身の映像アーカイブシステム「カレイダアーク」なども駆使しながら、業界のニーズに応えていく。

 なお、社名のクープは英字で「qooop」と表記する。「0(ゼロ)からのスタート」、「0(ゼロ)からの挑戦」、「人間の輪」の3つの「○」が、統合した2社の頭文字をつなぐという意味が込められているという。


取材・文 平池由典

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