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ネットフリックス「極悪女王」、白石監督らが制作環境語る

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ネットフリックス「極悪女王」、白石監督らが制作環境語る

2022年12月09日
 現在制作進行中のネットフリックスシリーズ「極悪女王」は、撮影中に主演・ゆりやんレトリィバァが背中と頭を打ち、入院したことが先ごろ週刊誌で大きく報道された。SNSなどでは、ゆりやんの容態を心配する声とともに、制作の体制を疑問視する声も上がっている。果たして、どのような環境で撮影が行われていたのか、白石和彌監督と高橋信一プロデューサーに事実関係と今後について聞いた――。


ゆりやんはオーディションで抜擢、丹念な身体作り

 まず、今回のゆりやんの怪我に関し、白石監督は「(怪我をさせてしまい)残念でしかないですし、本当に反省しています」と平身低頭で話した。ゆりやんは医師の診断により安静のため数日間入院したのち、脳に損傷はないと診断され、現在は芸能活動に復帰している。本人もSNSで「最高の極悪女王をみなさんに観ていただけるように、おちついていきまーす」(原文ママ)と明るく撮影再開に意欲を示しているが、監督はインタビュー中も終始自責の念に駆られている様子だった。

 「極悪女王」は、1980年代に空前の女子プロレスブームを巻き起こした “最恐ヒール” ダンプ松本の知られざる物語を描く作品。鈴木おさむが企画・脚本・プロデュースを務め、白石監督がメガホンをとり、ゆりやんがダンプ松本役を演じる。当初は2023年の配信が予定されていたが、撮影が延期されたことにより、現在は流動的のようだ。

 監督と高橋Pの説明によれば、企画の始まりは2020年。鈴木氏からネットフリックスに企画が提案され、高橋Pと何度もタッグを組んでいる白石監督に打診、製作の準備がスタートした。主役であるダンプ松本役は同年10月にオーディションを行い、約100人が参加。その中の一人がゆりやんであり、見事主演に大抜擢された。

 危険を伴うプロレスの撮影だけに、レスラー役を演じるキャストは身体作りが必須となる。撮影は今年7月頭のスタートだったが、キャストのトレーニングは昨年10月から開始した。それぞれに専属トレーナーがついており、ゆりやんの場合は、長年彼女を支えている岡部友氏がサポート。さらに、作品全体をカバーするスポーツトレーナーと連携し、首、肩、四肢をはじめ、プロレスを行うために必要な筋力をつけていった。いわゆる「デ・ニーロアプローチ」のような急激な役作りでは問題だが、健康を害さない範囲での身体作りを徹底。毎月、成人病などの様々な健康診断を受けたうえで、増やせる筋力と体重の上限値を細かく設定しながらトレーニングを進めていった。ちなみに、撮影前・撮影中はもとより、撮影終了後に理想の体重に戻していく段階でもケアは続くという。

 身体作りと並行して、撮影5か月前の今年2月からはプロレスの練習も始めた。ここからは長与千種をはじめ「マーベラス」所属のレスラーが参画し、出演者の適性に合わせて受け身や技の内容を決め、丁寧な指導・練習が行われた。長与らはプロレスシーンの撮影にも帯同し、毎回必ず指導を行ったという。一方で、第三者の目線で安全面を確認するべく、アクション部による安全対策チームを設け、危険を回避しながら撮影する方法のアドバイスも得ながら撮影を進めた。高橋Pは「この業界にずっと身を置いていますが、ここまで万全な体制で撮影に臨めたのは初めての経験かもしれません」と振り返る。


「頭から落ちる技を100回以上」は否定

 とはいえ、ゆりやんが一時入院する事態になったのは事実。危ないシーンでも、本人が拒否しづらかった可能性はないのだろうか。白石監督は、非常に雰囲気の良い現場だったことから「俳優が不安を感じることがあれば、周りに伝えられるような環境があったとは思いますが…」としつつ、「それでも、監督に言い出しづらかったという可能性は、ゼロではないかもしれませんね」と謙虚に受け入れる。

 一方で、10月21日に千葉県の体育館で行われた撮影中に、「頭から落ちる技を100回以上」繰り返したという報道については、白石監督、高橋Pともきっぱりと否定する。「うしろ受け身の技を、柔らかいマットの上での練習も含めると、10回強ほど行いました。でも、報道にあるような『頭から100回も落とす』なんて、とても出来ません。仮にそんな技をやるとすれば、ワイヤーで吊ったり、CGで表現する方法を考えると思います」(白石監督)。

 撮影で取り入れるプロレスの “型” は、事前に長与とマーベラスのチームが固めた。長与が「NO」と言うものは断じて行わず、俳優が演じることが難しい場面はスタントマンが演じた。バックドロップなど、特に危険な技を本人が演じる場合は、安全対策用のマットの上に投げるといった対応を行い、細かいカット割りを積み上げていく手法に切り替えることなどを意識したという。

 こういった撮影体制を敷いてはいたものの、10月21日の撮影終了後、頭に痛みのあったゆりやんは病院に向かい、さきの通りの診断を受けることとなった。幸いにも「脳に損傷なし」という結果に落ち着いたものの、今後も撮影を続ける以上は、今回の事態を “不運だった” で済ませることは許されない。白石監督も「(撮影の)よーいスタートがかかってしまうと、あとは(演じる)ご本人たちに任せざるを得ないので、そこまでにどれだけ我々スタッフが安全対策を積み上げているかが今回の勝負でした。そこに至るまでの過程で、極端な落ち度があったつもりはありません。ただ、結果がこうなった以上、反省しています。(ゆりやんの怪我から今にいたる)この期間、より安全な状況を作るために、何ができるのか話し合ってきました」とする。


セーフティーオフィサーの導入検討

 具体的な改善策の一例として、ハリウッドでは進んでいる「セーフティーオフィサー」の導入を検討している。スタッフが「良い画が撮れたか」に集中しがちになってしまう場面でも、俳優やスタッフの安全面のチェックに特化する、安全対策の専門家だ。今回のゆりやんの場合、どのシーンの撮影が原因で痛みにつながったのか、断定するのが難しいというが、セーフティーオフィサーが毎シーン細かくチェックすることで、そういった状況をより改善していく。怪我をしないための事前の準備が万全であることは大前提だが、プロレスに限らず、アクションシーンの撮影では、不遇の事態は起こり得るのは事実。しかし、「今は身体のここをぶつけた」といった小さな異変を見逃さないことで、できるだけリスクを最小限にしていく考えだ。高橋Pも「より気を引き締めて、より安全な環境作りに取り組みます」と緊張感をあらわにする。

 一部週刊誌では来年5月に撮影再開と報じられているが、ゆりやんのコンディションが万全になるのを待ち、再び撮影に向けた身体作りも必要になる。そのうえでキャストやスタッフを再招集するため、実際は現時点でスケジュールは未定だという。

 図らずも世間から厳しい目で見られてしまうことになった同作だが、白石監督は「現場は、まるで部活のような雰囲気で、熱量もチームワークも素晴らしいんです。キャストには毎シーン『そんなことができるようになったの!?』と驚かされます。あと、特に長与さんのカリスマ性ですね。和気あいあいとした中でも、ここぞというシーンでは円陣を組んで魂を注入してくださるし、マーベラスの皆さんも俳優を盛り上げてくださる。その感じがわかるので、(会場の観客役の)エキストラの皆さんも、1カット1カットOKが出るたびに大きな拍手をしてくださる。色々な作品を撮ってきましたが、こんな雰囲気は経験がないです」と目を丸くする。その熱は映像にも表れているようで、高橋Pは「(撮影終了した分の)ラッシュを何回か見ましたが、素晴らしさを痛感しています。これをしっかり完成させ、世の中に送り出すのが私の命題です。当然、それを成し遂げるために、安全面の担保について努力を惜しまず対応していきます」と、プロデューサーとしての使命を語る。果たして、無事に作品完成させ、傑作を世界に発信できるのか。製作陣の真価が問われる。


取材・文 平池由典

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