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ネットフリックス作品制作現場の新しい取り組みを紹介、レポート「スタジオ・デイ」

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ネットフリックス作品制作現場の新しい取り組みを紹介、レポート「スタジオ・デイ」

2022年08月03日
 ネットフリックスは7月8日、「ネットフリックス スタジオ・デイ」と題し、自社オリジナル作品の制作で行っている、世界基準の新しい取り組みの数々を紹介するイベントを東宝スタジオで開催。多くのマスコミが出席したほか、政府関係者も視察に訪れた。本記事では、ネットフリックスで作品現場、ポスプロ、VFXのチームを統括する小沢禎二氏(プロダクション部門 日本統括ディレクター)の挨拶、それからバイブルワークショップ、VFX、リスペクトトレーニング、インティマシー・コーディネーターの各プレゼンをレポートする。


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小沢氏

ネットフリックスによる3つの制作支援

 はじめに登壇した小沢氏が語ったのは、ネットフリックスが取り入れている主に3つの制作支援の取り組みだ。(1)ノウハウのシェア、(2)最新技術の導入、(3)働きやすい制作環境の整備、に大別しそれぞれの項目を説明した。

 (1)ノウハウのシェアでは、まずスクリプター作業のデジタル化を挙げた。撮影の進行内容を細かく記録するスクリプターは、撮影終了後に帰宅してから清書し、スキャンしてスタッフにメールで共有するのが一般的であり、撮影が長引くほど睡眠時間も短くなる。この問題を解消するため、これまで手書きだった記録作業をデジタル化。テストとして20人以上のスクリプターにiPadと専用のソフトウェアを無償で提供したところ、「作業時間が短縮され助かったという声を頂いている」(小沢氏)という。
 そのほか、数十ページにわたる「バイブル」の作成を行うワークショップもスタートさせている(後述)。

 (2)最新技術の導入では、最新VFXの導入事例を紹介した。例えば『浅草キッド』では、必要最低限のセットを用意し、そのほかの背景の建物は全てCGで表現する「セットエクステンション」を活用。「今際の国のアリス」では、毛並みや筋肉の動きまでリアルに再現したCGの黒豹を登場させた。また、「全裸監督2」では、車を運転する場面で、LEDディスプレイに背景を映しながら撮影する「バーチャルプロダクション」を行ったと説明した。

 (3)働きやすい制作環境では、後編で掲載する「リスペクトトレーニング」と、「インティマシー・コーディネーター」について語った。制作現場でのハラスメント解消を目指し、撮影開始前にスタッフ全員に受講を求めるリスペクトトレーニングは、これまでに50作品以上で実施し、実写のみならず、アニメ作品でもスタートさせている。インティマシー・コーディネーターは、2月に配信開始した「金魚妻」を含め、これまでに3作品で制作に入っている。これらの試みについて小沢氏は「残念ながら簡単に効果が生まれるものではない」と認めつつ、「一つ一つ継続的に行っていくことで、現場で働くスタッフや俳優の皆さんが安心して作品に集中できる制作現場を作っていきたい」と、今後も地道に取り組んでいく姿勢を示した。


岡野氏.jpg
岡野氏

バイブルワークショップ

 各項目の中でも、特に聞き慣れない「バイブルワークショップ」については、コンテンツ・クリエイティブ部門マネージャーの岡野真紀子氏がプレゼンした。
 説明によれば、「バイブル」とは制作現場の心が一つになる〝設計図〟のことを指す。岡野氏は「企画書が車のパンフレットなら、バイブルは、それを見れば誰でも車を作ることができる設計図のようなもの」と解説する。具体的には、制作に入る前の段階で、「なぜ今この物語を作るのか」「世界観」「トーン」「登場人物の紹介」「各話のあらすじ」を計数十ページにわたりバイブルに明記。作品の全てがそこに記されているため、「脚本作り、制作準備段階、そして撮影現場にいたるまで、迷いがなくなった」(岡野氏)と、現場に変化があったことを明かした。バイブルは制作に関わる主要スタッフ全員に配布する。それにより特に効果を発揮するのが、複数の監督がメガホンをとる連続ドラマの制作時。起承転結がはっきりしているためエピソードごとの齟齬が起きず、カメラマンのレンズ選び、スタイリストの衣装選び、美術部のセットや小物選びにいたるまで、作品がブレることなく描かれるようになったという。

 岡野氏は、バイブルの中でも特に重要なのが「登場人物の紹介」とし、キャラクターづくりには多くの時間を費やすと力説。その人物は何者なのか、何を望むのか、なぜそれを望むのか、その望みをどうやって手に入れるのか、中核となる葛藤は何なのか、どんな結末が起こるのか。こういった問い合わせを脚本家たちと詰めながら、キャラクターの作り込みを図る。さらにこのあとが重要で、岡野氏は「この(作り込んだ)キャラクターを“ストーリーサークル”に当てはめていく」と説明する。

 プロデューサー兼脚本家であるダン・ハーモン氏が唱えた「ストーリーサークル」は、主人公の心理状態からプロットを構築していくというもの。具体的には、主人公→要求→行動→悪戦苦闘→発見→苦しみ→回帰→変化→主人公というサークルにキャラクターを当てはめる。これを実践することで、鑑賞者が主人公に共感し、一緒に冒険を進むような感覚で作品を楽しめるようになる。岡野氏は「もし良ければ、『ブレイキング・バッド』の主人公ウォルター・ホワイト(の心理状態)をこれに当てはめてみてほしい。見事にサークルになっている。こうやってハリウッドはキャラクターを作ってきたんだと感じた」と話した。これら一連のノウハウを提供するワークショップを開催すると、参加した脚本家はモニターに映ったストーリーサークルの図を写真に撮りながら、早速自身の作品に反映させていくという。「こんなメソッドは自分以外には見せないでほしい(笑)」と話す参加者もいるなど、制作者にとって貴重な場になっているようだ。


坂口氏.jpg
坂口氏

VFX

 VFXのパートでは、米スキャンラインVFX社に所属する坂口亮氏のインタビュー映像が披露された。

 坂口氏は、映画『デイ・アフター・トゥモロー』のニューヨークの洪水シーンや、『2012』のロサンゼルスのダウンタウン破壊シーンなどを担当してきたVFXクリエイターで、現在は『ゴジラVSコング』や『シャン・チー/テン・リングスの伝説』など、錚々たるハリウッド大作のVFXを手掛けるスキャンラインVFX社でVFXスーパーバイザーとCGディレクターを務めている。同社が、日本の作品では初めて、ネットフリックスの実写シリーズ「幽☆遊☆白書」に参画することが決定。詳細は情報解禁前だが、俳優による迫力のアクション映像を実現するためのVFXに取り組んでいるようだ。坂口氏は今作でのチャレンジについて「北米で1番難しいと言われる作品と同じぐらい難しい」と話し、「IPが有名であり、技術的にも難しいため、会社の中でもみんなが(この作品を)やりたがっている」と、一流のVFX会社のスタッフも大注目のプロジェクトであることを明かした。坂口氏自身も中学生時代に原作漫画に親しんでいたと思い出を語り、「(スキャンラインVFX社と)日本のチームとの連合で、世界で1番の映像を日本人として作りたい」と意気込みを語った。


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田中氏

リスペクトトレーニング

 いま映画やドラマの制作現場で徐々に取り入れるケースが増えているのが「リスペクトトレーニング」だ。現場でハラスメント行為が起きないよう、撮影に入る前に制作の関係者が受講するもので、ネットフリックスでは自社制作の全作品で実施している。この日のイベントでは、参加したマスコミが実際にリスペクトトレーニングを体験した。

 講師として登壇した田中秀憲氏(ピースマインド株式会社 サービス本部 研修部 部長)が初めに語ったのは、リスペクトトレーニングの在り方だ。「白か黒かジャッジする場ではない」と断った上で、「(ハラスメントについて)考え始めるきっかけにしてほしい」と語りかけた。

 田中氏は、パワハラやセクハラの主な種類を説明したのち、一例として「職場の男性が、女性を飲みに誘っている。女性は嫌そうにしているが、男性は『○○ちゃんは来てくれたよ』と言っている。この状況にリスペクトはあると思うか」と質問を投げかけ、実際に参加者同士で話し合う場を設けた。参加者からは「強要に近く、リスペクトを欠いているかな」「誘われる側のキャラクターによる。誘う側はそれを汲み取る力が必要」といった意見が出たが、田中氏から結論づけることはなく、「この行動は常にダメ、常にOKとはなかなか言いづらい。2人の関係性にもよるし、どういうシーンかにもよる。それを細かく細かく丁寧に現場では見ていく必要があるのでは」と持論を述べた。さらに、「女性が飲みに行くのを嫌がっているのを確認できた時にあなたはどうするか?」との質問では、参加者から「陽気にその場で注意する」「ケースバイケース。年齢が上の方が昔の感覚のままで言っているなら、そういう時代じゃないですよと伝える」といった意見が挙がった。田中氏は「ハラスメントは本人が気づいていないから繰り返す傾向がある。周りの方が介入して頂ければ、次から行動を変えてくれる可能性がある」と話し、「人格を否定するのではなく、その事象に対して指摘をして頂ければ」とアドバイス。また、例え行動を起こせなくても、その思いを仲間内で共有していくことが大切だとした。


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左から小沢、浅田、並木の各氏

インティマシー・コーディネーター

 セックスシーンやヌードシーンの撮影の際、俳優と制作サイドの間に立ち、双方の意向を聞きながら調整役を果たす「インティマシー・コーディネーター」。メディアでも取り上げられることが増えた注目の職業だ。現在日本にいる2人のインティマシー・コーディネーターのうちの1人、浅田智穂氏が今回のイベントに登壇。「金魚妻」監督の並木道子(フジテレビ)、ネットフリックスの小沢禎二の両氏同席のもと、クロストークが行われた。

 「金魚妻」で初めてインティマシー・コーディネーターを取り入れたという並木監督は「最初は、どこまで、何をお願いしたらいいの?と思った」と当初の心境を振り返るが、実際の浅田氏の仕事ぶりに感銘を受けた様子で「キャストの気持ちを細かく聞いて、(こちらに)伝えてくださった。とてもありがたい存在。台本の解釈も的確だし、私が表現したいことを感情面でも捉えた上で(現場に)入って頂けたのがとても良かった。キャストの味方だけでなく、ディレクターの味方だけでなく、“作品を良くするため”というところにいてくださった」と絶賛。浅田氏も「インティマシー・コーディネーターへの理解がなければ、私は役割を遂行するのが難しい。並木さんはビジョンがハッキリしていて、その中で私に任せて頼ってくれたので、信頼関係がキャストにも伝わった。篠原涼子さんと岩田剛典さんのシーンはいい雰囲気で、素敵なシーンが作れたと思う」と充実感を漂わせた。

 インティマシー・コーディネーターは、実際にどのような仕事をするのか。まず、制作に携わるタイミングとして、浅田氏は「(撮影の)1~3か月前には連絡を頂かないと入るのは難しい」と語り、関わる作品はすでにキャスティングが終わっている段階が多いものの、時にはオーディションの段階から参画する場合もあると話す。「(俳優の)皆さんは台本を読んで出演を決められる方がほとんどだと思うが、ト書きの中にはクリアになっていないところがたくさんあるので、監督にヒヤリングし、俳優に同意を得る。『それは難しい』ということも出てくるので、それを監督に戻し、『それならこうしよう』と意見をもらったり、『こうしましょう』と私からアドバイスさせて頂いたり。そのやり取りを続ける中で最終的な合意を見つける」と説明し、自身の立ち位置は「良い作品を作るための一スタッフだと思っている」と語った。なお、インティマシー・コーディネーターを導入する作品選びについて、小沢氏は「社内で本作りをしている中で、企画のチームと我々現場のチームが話し合い、これはぜひ入れようと決めた上で、現場のプロデューサーにお話しして導入頂く」と明かした。浅田氏のもとには続々と依頼が入るようになり、まだ発表されていない作品もすでに4本を撮り終え(7月上旬時点)、民放のドラマも決定済み。「ネットフリックスが導入したことが、日本全国に広まっていることを、依頼の多さから実感している」(浅田氏)という。


まとめ

 制作現場における労働環境の改善として、小沢氏は労働時間についても言及した。ネットフリックスでは撮影時間を1日最大12時間までに設定。その効果として、「今際の国のアリス」シーズン1の撮影時にあった事例を紹介した。「あと2時間しかないという時に、カメラマンの河津(太郎)さんがメインスタッフを集めて『もう2カットしか撮らない』と決めて頂いた。そうすると、みんな『あと2カットで帰れる』と思うことで、疲れていてもまた集中力が戻ってくる」「そのあとの(プライベートの時間の)計画を考えるようになった」とし、「皆さんに多くのお金は払えない。でも時間をお返しするので、残りの時間を楽しんでほしい」と自社の考え方を述べた。

 なお、イベントの最後には実写シリーズ「幽☆遊☆白書」の撮影現場の見学会も行われた。日本最大の428坪を誇る東宝スタジオ「8ステージ」や、11mの高さの「7ステージ」など、複数のステージが同作の撮影に使用され、いずれも大迫力のセットが組まれており、作品の規模の大きさを窺わせた。(終)


取材・文 平池由典

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