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東映『ブルーサーマル』押切P “映画館で空を飛ぶような体感”

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東映『ブルーサーマル』押切P “映画館で空を飛ぶような体感”

2022年03月08日
東映配給・製作『ブルーサーマル』の押切大機プロデューサー.jpg


 グライダーに青春をかける、体育会航空部の大学生たちを描いたアニメーション映画『ブルーサーマル』が3月4日に劇場公開された。配給・製作する東映は、『ドラゴンボール』や『ONE PIECE』といった東映アニメーションの作品は数多く公開してきたものの、自社主導で製作するアニメーションは、70年代に放送したロボットアニメ(通称 長浜ロマンロボシリーズ)などがある程度で、近年は例が無かった。そんな東映にとって新たなチャレンジとなる『ブルーサーマル』のプロデュースを担当したのが、2015年の企画当時入社3年目だったという押切大機氏(映像本部 コンテンツ事業部門 コンテンツ第一営業部 営業室 兼 企画調整部 係長=上写真)だ。立ち上げから6年が経ち、いよいよ完成・公開の時を迎えた心境や製作の経緯を聞いた――。


東映のアニメ企画開発委員会から誕生

 『ブルーサーマル』は、東映が部署を横断してアニメーションの企画を募る「アニメ企画開発委員会」から生まれた作品だ。主に若手から様々な企画が上がるなかで、当時3年目だった押切プロデューサーも意を決して応募した。選んだ原作は、小沢かなによるコミック「ブルーサーマル-青凪大学体育会航空部-」。長崎から上京した主人公・都留たまきが、ひょんなことから大学航空部に入部し、空に魅せられ、仲間とともに成長していく青春ストーリーだ。「空と大学生の青春というテーマに魅力を感じました。スクリーンに映えそうで、自分が見てみたいと思ったのです。アニメーションの技術が発展していくなかで、映画館で空を飛ぶような体感ができるようなものを目指して作ることができれば面白そうだなと思いました」。

 空とアニメーションの親和性を感じられるこの企画は、アニメ企画開発委員会でも賛同を得られ、晴れて委員会第1号の作品として製作にGOが出た。とは言っても、東映社内にアニメ製作機能はなく、若手だった押切氏自身もノウハウは持ち合わせていない。「まずは制作会社を見つけることが大変でした」と話すように、何もかもが手探りの状態からスタートした。

 幸い、東映アニメーションに出向していた経験のある先輩プロデューサーの石川啓氏ら周囲のサポートもあり、様々なつてを頼りながら制作会社へのコンタクトを繰り返した。まずはグループ会社の東映アニメーションに依頼するのが定石のように思われるが、今回は東映アニメーションとの連携を図りながらも、外部スタジオとの協業をテーマの1つに掲げ、普段はあまり縁のない会社にも企画を持ち込んでいった。

 その中で出会ったのがテレコム・アニメーションフィルムだ。トムス・エンタテインメントの子会社であるテレコムは、不朽の名作『ルパン三世 カリオストロの城』を手掛けたことでも知られる老舗スタジオ。特に背景美術に定評があり、昨年大ヒットした『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』にも参加している。「お願いしたい制作会社の候補の1社でした。私が制作会社を探している時は、『君の名は。』が大ヒットしたあとで、新海誠監督の次の作品(『天気の子』)でもテレコムさんが背景美術で一部参加されていると聞きました。あの美しい絵を描かれ、『ルパン三世 カリオストロの城』も制作し、スタジオジブリに縁のあるベテランのスタッフもいらっしゃる。テレコムさんは元請けはあまりやられていませんが、『ブルーサーマル』は背景美術がポイントになると思っていたので、力のあるテレコムさんにご相談しました」。このオファーに対し、テレコムの浄園祐社長も積極的な姿勢で臨み、企画がついに前進。東映発のアニメーション製作が本格的に始動した。


『ブルーサーマル』本ビジュアル.jpg
© 2022「ブルーサーマル」製作委員会


こだわった四季の空


 主人公の都留たまきとともに、この作品の主役になるのは “空” だ。劇中の空は、春・夏・秋・冬で全く異なる表情を見せ、同じシーズンでも時間帯によってその色は千差万別。雲の形も、空の青色も、驚くほど多くのバリエーションがあり、約100分間の上映時間の中で多種多様な空を堪能できる。押切プロデューサーも「空に力を入れてください、とはテレコムさんにお伝えしましたが、実際にどう形にしていくのかは経験豊富なテレコムさんが考えてくださいました。四季の空をはじめ、草、雲も、不要な撮影処理はかけずに、これまで培った技術を駆使して表情を描き分けてくださったおかげで、リアリティがすごくあり、どこか既視感がありながら、ドラマチックな空につながっていると思います」とテレコムの技術力に舌を巻く。

 また、近年のアニメーションは劇中に登場するメカを3Dで描くことが多いが、『ブルーサーマル』ではグライダーも2Dで表現し、美しい空と絶妙にマッチさせている。これは、橘正紀監督の「滑空機はキャラクターの一人。見る人に親しみを持ってもらえるようなものにしたい」という方針の賜物だ。実際には、最初に3DCGのグライダーによる作画のガイドを作成し、そこに1コマ1コマ手描きで線を足していく、非常に緻密な作業が行われた。「こちらからその手法をお願いしたわけではなく、監督からご提案頂きました。プロデュースサイドとしては『ありがたい。ぜひお願いします』という感じでしたが、監督がそれを『やる』と言った時、スタジオサイドは(大変な作業に)騒然としたそうです(苦笑)」。

 こういった徹底的にこだわり抜いた絵とともに、もうひとつ苦心した作業が脚本作りだ。原作コミックの発行巻数は全5巻。主人公たまきが航空部に入り、様々な大会に出場しながら、友情や恋愛を通して成長する過程が描かれるストーリーを1本の映画に収める作業は一朝一夕にはいかなかった。ともすれば物語をなぞるだけに終わる恐れもあるからだ。しかし、「良い形になるなら原作から変えても構わない」という原作者の心意気もあり、映画版は結末を改変。「原作の小沢さんも脚本に参加し、見たことで前向きになれる作品にしたいというこちらの意向を汲んでくださり、原作とは異なる結末にも同意してくださいました」。結果的に、100分という限られた尺の中で、主人公の成長やポイントとなるイベントは抑えつつ、しっかりと感動を呼び、最後は清々しい気持ちで劇場をあとにできる作品に仕上がった。

 同作の主演声優で、主人公のたまきに命を吹き込んだのが女優の堀田真由。苦労した脚本作りとは異なり、たまき役の選定はほぼ即断だったようだ。2日をかけて20人ほどがオーディションを受けたが、監督をはじめ、参加していたスタッフ全員のイメージに合致したのが堀田だった。「たまきは、前半はコミカル、後半はシリアスなシーンが多く、演技の幅が求められて、プロの声優でも難しい役柄でした。しかし、堀田さんは非常に印象的で、彼女が受けたあとは『ほぼ決まったね』という雰囲気でした」と絶賛。普段は関西弁を話す堀田だが、苦労しながらもたまきが話す長崎弁を流ちょうに操り、難役を演じきった。

 主題歌と挿入歌の存在も、この作品の魅力を倍増させる。押切プロデューサーが白羽の矢を立てたのは、今年結成10年目になる「SHE'S」。映画公開直前の2月24日には初めて武道館公演を行うなど、今注目度が急上昇中の4人組ロックバンドだ。「以前から知っていました。どの曲も爽快感があり、エモーショナルな歌詞が綴られている。この映画にピッタリだと思い、オファーしました」。当初は主題歌を依頼していたが、作詞作曲を手掛けるボーカルの井上竜馬の申し出により、挿入歌も含めた2曲でタッグを組むことが決定。まだ絵コンテの段階で議論を交わしながら丹念に調整を重ね、美しい空の魅力に酔いしれる挿入歌「Beautiful Bird」と、グライダーで大空を駆け抜ける疾走感に溢れた主題歌「Blue Thermal」の、作品の世界観に完全リンクした両曲を書き下ろした。作品の認知を高める牽引役としても大いに力を発揮しそうだ。

 広大な空を体感できる映画であり、劇場の大きなスクリーンでこそ魅力が最大限に発揮される作品だろう。押切プロデューサーも映画館での鑑賞を強く薦める。「企画した時に想定していたわけではないですが、コロナの影響で閉塞感のある今だからこそ、見たあとに上を向いて、空を見たくなるこの作品を映画館で見てもらいたいです」。


取材・文 平池由典


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