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サウジと日本の共同制作アニメ映画『ジャーニー』、東映アニメ清水氏、マンガPイサム氏に聞く

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サウジと日本の共同制作アニメ映画『ジャーニー』、東映アニメ清水氏、マンガPイサム氏に聞く

2021年06月16日
清水氏(右)とイサム氏(左).jpg


 サウジアラビアの大手アニメーション制作会社「マンガプロダクションズ」と、日本の「東映アニメーション」がタッグを組んで制作した長編アニメーション映画『ジャーニー 太古アラビア半島での奇跡と戦いの物語』(配給:東映アニメーション)が、6月25日(金)から劇場公開される。長編アニメ映画を製作するのはサウジアラビア初となる注目のプロジェクトだ。エグゼクティブプロデューサーを務めるブカーリ・イサム氏(マンガプロダクションズCEO=写真左)と、清水慎治氏(東映アニメーション顧問=写真右)に、この作品が持つ壮大な背景とサウジアラビア市場の将来性を聞いた――(イサム氏は現地からオンラインで参加)。


産業の多角化を進めるサウジアラビア

 近年、サウジアラビアは石油による収入を軸としながらも、新たな収入源を確立するために、産業の多角化に挑んでいる。そのなかで、コンテンツを活用した経済の発展も重要施策のひとつに挙げられており、「特にコロナのあとは、アラブだけでなく世界でプラットフォームビジネスが盛んになり、コンテンツへの依存が強まりました。私は、アニメビジネスについては、(映像だけでなく)サプライチェーンとして見ています」(イサム氏)と、アニメに懸ける期待の大きさを窺わせる。

 マンガプロダクションズは、経済の多様化に力を注ぐムハンマド皇太子が10年前に設立した「ミスク財団」の子会社として、2017年に設立された。イサム氏は「マンガプロダクションズは、中東で唯一、漫画、アニメーション、ゲームを作っている会社です。しかし、我々はコンテンツだけで留めるのではなく、漫画カフェや、『ジャーニー』のアラブ世界におけるマーチャンダイズも出す予定です。これは、アラブ世界のIPとして初めてのケースです。将来的には『マンガランド』のようなテーマパークも作っていく予定です。そうなれば観光ビジネスに繋げられますし、仕事の創出も期待できます」と、『ジャーニー』をきっかけに様々なビジネスにチャレンジしていく構想を明かす。その目線は世界を向いており、「アメリカやヨーロッパ、アジアのIPに勝つようなものを作らないと競争できません。ですから、今回の東映アニメーションとのパートナーシップは非常に意味深いものがあります」と話す。

 両社は2017年に共同制作する提携を結んだが、サウジ側と東映アニメーションの交流そのものはさらに前から始まっていたという。清水氏は「10年前にリヤドに招待されて行った時から、『アニメーションを作りたい』という話は聞いていました。ただ、当時はまだ何を題材にするのかも決まっていなかったですし、そう簡単にコミュニケーションする機会があるわけでもなく、本格的に動き出すのには数年かかりました。加速度がついたのは、イサムさんがマンガプロダクションズのCEOに就いてからです。日本語がペラペラで、ジョークも言いますから(笑)。そんなイサムさんの人柄もあって、では改めてしっかりと取り組みましょうとなりました」と経緯を説明する。


2017年から本格的に製作開始

 早稲田大学で博士課程まで修了し、在サウジアラビア大使館文化担当官を務めるなど、日本で19年間滞在した経験を持つイサム氏は、2017年にミスク財団に入社。マンガプロダクションズの立ち上げに尽力した。イサム氏に求められたのは、作品の制作と、人材の育成だったという。「リヤドのオフィスで4か月間、独りで幽霊たちと仕事をしていました(笑)」というゼロからのスタートだったが、日本を訪れ、清水氏らと話し合い、アニメーションを共同制作することを決めたことで、事業が本格的に始動した。

 2017年10月には、東映アニメーションと正式に契約を締結。翌年、アラブ世界から厳選した若者11人を東映アニメーションに派遣し、インターンシップとして2か月間トレーニングした。「その中でも1番優れた人たちをマンガプロで雇って、彼らがマンガプロのチームとして、東映アニメーションのチームと一緒に進めてきました。両国のチームが力を出し合い、有意義なものでした。非常に価値の高い映画だと思います」とイサム氏は胸を張る。一方、インターン生を迎え入れる立場だった清水氏は、「ビックリしたのは、みんな絵がうまいのです。向こうで選抜されて来た人たちなので、日本のアニメのスタッフよりうまい。今すぐにでも仕事ができるぞと(笑)。それに、1日の業務が終了したあとでも、『残って勉強していいですか?』と希望するぐらい熱心でした」とサウジアラビアの若手の才能とモチベーションの高さに目を丸くする。


毎週オンラインで打ち合わせ、東京支社も

 映画『ジャーニー』は、古代アラビア半島を舞台に、巨象を含む軍勢の侵略に立ち向かう主人公アウスらを描くエンターテイメントだ。日本人にも知られる「ノアの方舟」や「モーゼの軌跡」などの伝承をストーリーに織り交ぜ、アラブ世界の精神を映像で表現した。日本人にも深く共感できる内容であり、アニメーションが持つ、文化の壁を乗り越えられる特性が存分に生かされた映画となった。

 作品作りにあたり、基本構成とコンセプトをマンガプロダクションズが手掛け、ハイクオリティな映像を東映アニメーションが制作。毎週オンラインで綿密に打ち合わせしたほか、マンガプロダクションズが東京支社を設立し、現場でも交流することで、表現に食い違いのないように歩を進めてきた。イサム氏は「アラビア半島にある中東の古代文化を、上手にアニメーション映画にして世界に届けることは夢でした。両国のチームは言語も文化も世代も違いましたが、そのギャップを清水先生と私が補いながら一緒に頑張れるようにし、おかげさまで達成することができました」と振り返る。コミュニケーションは意外にもスムーズだったようで、「日本とサウジアラビアは地理的に離れていますが、共通点がたくさんあるのです。例えば、お年玉、お見合い結婚、親孝行、お客へのおもてなし、主食がご飯であることなど。プロジェクトを始めた時にはもっと問題が生じると思っていましたが、意外にうまく行ったのが1番の驚きでした(笑)」。清水氏も「例えば、お互いの日常の仕草の違いなど、(その都度確認するのは)面倒くさいけど面白いのですよ。日本で描いて、マンガプロの方にチェックしてもらい、OKが出ると、スタッフは嬉しいですよね。モノづくりはコミュニケーションですから、離れていても毎週打ち合わせできて良かったです」と合作で得られた達成感を語る。


急成長を遂げるサウジの映画市場

 同作は、サウジアラビアを含む中東地域では日本よりひと足早く、6月17日から公開される。サウジアラビアは宗教上の理由から、長らく映画館の運営が禁止されていたが、2018年に解禁。映画市場はそこから急成長を遂げているという。「2018年は2館しかなかったですが、現在は約80館で、スクリーンの数は700以上です。中東では最も成長している市場で、2021年の映画の売上は4800万ドル見込みです。2024年には2億ドルになる見込みです。中東で、コロナの中でも成長したのはサウジアラビアのマーケットだけでした。非常に可能性がある市場だと信じています」とイサム氏。アニメーションの潜在的市場も大きく、「(サウジの経済戦略を示した2016年の)サウジビジョン2030が発表される前までは、残念ながら正式なルートで日本のアニメを見ることができず、海賊版が盛んでした。しかし、ビジョンができて以降は正式なルートでサウジアラビア市場に入ることになり、実は私も先週末に娘を連れて『名探偵コナン』の映画を見てきました」という。一昨年に現地で行われたアニメエキスポに参加した清水氏も「以前は、アニメのイベントはドバイまで行かなければ参加できなかったものが、自分の国で見られるという高揚感を感じました。若い人たちが、僕たち日本人を見て『ようこそ!』という感じで、参加した日本のコンテンツホルダーの人たちはみんなビックリして感動していました。日本のアニメの新作は、僕よりもサウジアラビアの若い人の方が詳しいと思いますよ」と、肌で感じた現地の熱気を述懐する。アニメに強い関心が寄せられるサウジと日本の両国で、同作が観客からどのような反応が得られるのか注目される。

 なお、マンガプロダクションズと東映アニメーションは、早くも複数の次回作の制作に動き始めているという。清水氏は「今回(合作は)成功したと思うので、僕はこのラインをもっと強固なものにしてやっていきたいと思います」とし、イサム氏も「『ジャーニー』は終わりではなく始まりです。この作品を超える映画をどんどん作っていく予定です。0から1までの距離の方が、1から1000までの距離より長いということわざがあります。『ジャーニー』で0から1までの距離が終わりました。今度は1000、1万、1億まで目指す予定です」と、さらに映画ビジネスを強化していく意気込みを示した。(了)


取材・文 平池由典

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