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動画配信、電子書籍、ライブ配信と拡大「U-NEXT」堤天心社長に聞く

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動画配信、電子書籍、ライブ配信と拡大「U-NEXT」堤天心社長に聞く

2021年04月07日
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 U‐NEXTは2月、定額制見放題動画配信サービスの中で、アニメ作品数がNo.1になったと発表した(2021年1月時点、GEMパートナーズ調べ)。また、電子書籍の売上規模が2年間で5.7倍に成長したことも情報発信。それらの事業を手掛ける各部署が、1月1日付の組織改編で新設された「アニメ・ブック事業本部」の傘下に入り、連携していく姿勢を打ち出した。また、1月に発表した決算(20年9~11月期)の中では、今後音楽ライブ配信事業を本格化させることを明記している。

 羅列したこの動きは、一見すると各事業の細かな実績や変化に過ぎないが、U‐NEXTが掲げる大きな戦略のために、実は全てが連動している。数ある動画配信サービスの中でも、日系企業の雄として独自の存在感を示す同社。堤天心代表取締役社長CEO(=写真)に、経営方針と市場に対する考えを聞いた――。


動画配信とアニメの相性

 U‐NEXTは2月8日、主要な定額制動画配信サービスの中で、アニメ作品数の1位を獲得したと発表した。前回調査(2019年12月時点)でも1位を獲得したが、当時からさらに1.25倍に作品数を増強した。ユーザーの6割がアニメを視聴し、最も視聴数の多い人気ジャンルになっているという。

堤氏「特定の年代やゾーンに集中しているわけではなく、全年代、マスに近い形でVOD等を通じてアニメを楽しむ視聴形態が普及している手応えがあります。アニメだけ見るというユーザーも一部にはいますが、基本的にアニメを中心に楽しみながら、追加で映画を見る、ドラマを見るといったように、他のジャンルと組み合わせて見ているユーザーが非常に多く、うちの会員の中で、最大のボリュームです。配信固有の数字の見方であるセッションタイム(利用時間)で言っても、アニメ(を中心に視聴している人)は非常に長く、平均して月に20時間以上、VODサービスをライフスタイルの中に組み入れて頂いています。アニメと韓流は20時間以上、30時間以上のユーザーが非常に多いです。一般論として、20時間を超えるとチャーンレート(解約率)が変わると言われています。一方、映画(をメインに視聴する人)は、ユーザー数はアニメに次いで2番目に多いですが、セッションタイムはそこまで長くありません。そう考えると、ユーザー数とセッションタイムの面積の総和は、アニメは最もパフォーマンスが高いと言えます」

 U‐NEXTでは、ユーザーの半分がスマートフォンで視聴し、35%から40%弱がテレビで視聴している。ただ、アニメのファンは、さらにスマホのシェアが高まるという。なぜ、アニメが動画配信サービスでよく視聴されるのか。それは、アニメならではの特性と、ユーザーのライフスタイルが、手元で気軽に視聴できるスマホとマッチしているからのようだ。

 「アニメは、大画面でなくともその世界観に入れます。絵と声優の声、音と演出が、スマホ的な画面でも十分楽しめるものが多いように思います。また、1話20数分というフォーマットがあるので、通勤・通学時間や、ちょっとした隙間時間、もしくは夜寝る前に少し、気分転換として楽しむのに適しています。僕は、業界全体のマクロな動画配信の動きとして、どんどん“短尺化”している傾向がある気がしています。若い子は(最大60秒の)ティックトックに慣れている人も多いですから、もう、ユーチューブですらも長い。そう考えると、スマホの特性を踏まえても、(気軽に見られる)アニメは親和性が高いと言えます。視聴されている時間帯も、アニメと映画では全然違います。夜は全てのジャンルが見られるゴールデンタイムですが、アニメは夕方、朝、週末の昼も非常に高く、曜日によってもあまり上下はありません。映画の場合は、やはり週末になるとグッと上がります。レンタルビデオ店で借りて、家族や友人と見るというスタイルが、そのままVODにスライドしてきたのが映画のイメージです。映画とスマホの組み合わせも否定はしませんが、映画は間違いなく(ホームエンターテイメントでは)テレビでの視聴が主流です。

 モバイルデバイスと当初から親和性が高かったのは音楽です。そのあとに電子書籍とアニメが来ました。この3つは親和性が高い気がしています。アニメは、隙間時間に見ることですそ野が広がり、SNS等で口コミが伝わる際も、いい意味で心理的にカジュアルな印象があります」


1つのアプリで多様な展開

 このように、動画配信サービスではアニメが高い人気を誇る地盤がある中で、U‐NEXTは1月1日付で組織改編を実施。新たに「アニメ・ブック事業本部」を創設し、その下に「編成プロデュース部」、「アニメ部」、「ブック・企画開発部」を組み込んだ。ポイントは、これまで別々だった「アニメ」と「電子書籍(ブック)」の事業を同じ事業本部下に収めたことだ。堤氏は「ここ(U‐NEXT)でしか体験できないようなものを、どう提供していくか」という点に注力していることを大前提としつつ、今回の改組には次のような構想が念頭にあることを明かす。

 「ブックとアニメは非常にシナジーが高いのです。ブックも『鬼滅の刃』ブームの恩恵があるとはいえ、非常に良い成長トレンドに乗ってきており、今ではブックとアニメの両方を扱っていることが魅力・強みになっています。そこに今後、昨年から始めているライブ配信を加えていきます。ライブ配信も、アニメ周辺(のビジネス)と非常にシナジーが高いです。

 IPの一般的なビジネスが、アニメの本編、原作の書籍、声優を含めたイベントのライブ配信、マーチャンだとすれば、デジタルでのマーチャン以外は、比較的ワンプラットフォーム化が可能だと思います。その構想の中では、アニメとブックを独立させておく必要はなく、一緒にやっていくことにしました。日本で、才能のあるクリエイターが集う出版、アニメの領域に向き合っていこうと。その方々にとってのパートナーになるようなプラットフォームを育てていきたいという思いで、『アニメ・ブック事業本部』を作りました」

 U‐NEXTで2020年に読まれたマンガランキングTOP20のうち、すでに映像化されている作品(あるいは映像化が決まっている作品)は19作品。そのうち、U‐NEXTでは15作品の映像を配信している(2021年2月時点)。相乗効果が表れていると見ていいだろう。ここに、声優アーティストなどのライブ配信が加われば大きなプラスになることは推して知るべし。

 一方、堤氏が“マーチャン以外は”と前置きした点には、どのような事情があるのだろうか。アプリ内でグッズ販売なども取り扱うことは、ごく自然な流れのように思えるが―。

 「ゆくゆくはマーチャン、もしくは何らかのマネタイズは、必然性に伴ってやっていく方向性ですが、あれもこれもと乱暴に始めるつもりはありません。1つ1つ準備がありますからね。(構想としてあるのは)マーチャンと、ギフティング、いわゆる投げ銭です。クランチロールやビリビリは、そういったものは全部やっています。ビリビリはアニメ本編を配信し、マーチャンも、ライブ配信のイベントコミュニティもやっています。その中で、ライバー(ライブ配信者)と呼ばれる人が育ち、ギフティング(投げ銭)が生まれてきています。そうやって全体の経済圏がどんどん拡大されていっているのです。最初に見た時には少し衝撃を受けました。

 でも、日本でなぜそれをやっている人がいないかと言えば、日本では製作委員会を通じて権利がスプライシング(細分化)されているからです。この良し悪しを問うつもりはありませんが、日本では配信権、パッケージ権、マーチャン権など権利元の窓口が分かれている一方で、海外はオールライツをライセンサードしています。ですから、(海外の)受け手側は、ビジネス条件のコンディションさえ合えば、基本的にそういったチャレンジができるのです。クランチロールは、アメリカで色々なフェスやイベントも企画していますし、オンライン、オフラインを含めて、IPを全体的にいかに加速させ、拡大していくかという方向に向かっていっています。日本でそうしたくても、普段配信でお付き合いさせてもらっている会社とは窓口が異なりますから、我々が無邪気に『マーチャンを取り扱います』と言っても、そう簡単には行きません。ただし、ユーザー目線からシンプルに考えれば、あるいは『IPを使ってどうやってビジネスを最大化するか?』というシンプルな問いからすれば、それは普通の進化の方向性だと思います。ですから、(2019年2月に)アニメと書籍をワンアプリで統合したのは、その第1歩ですね。そして次はライブ配信を機能ベースで拡張していきます。その後も、マーチャンなり、ギフティングなり、リアルイベントへの協賛なり、どんどん広げていき、体験としてストーリーになるような形になるまで育てていきたいという思いです。そのために、今からハコを作ろうとしています」


体験のユニークさに注力

 アニメ・ブック事業本部を構成する3つの部署の中で、「編成プロデュース部」はこの改組のタイミングで新設したもので、外部から新たにアニメのプロモーションに長けた人材を採用した。この部署では、アニメ作品個別のプロモーションだけでなく、ブックやライブ配信も含め、全体のサービスの世界観を、ユーザーや非会員、クリエイターに対してPRしていくことに主眼を置くという。そこでも、やはりビリビリやクランチロールがすでに実現している、ブランド力の構築を視野に入れている。

 「おそらく、海外でクランチロールやビリビリにファンがついているのは、体験のユニークさと、あとはシンプルにファーストウィンドウ(という魅力があるから)なのです。日本のアニメの最新作を楽しみたいという欲求に対し、海外ではクランチロールがファーストウィンドウとして応えていますし、中国では一定数以上がビリビリで見ています。そして、そこにファンが集まり、コミュニティとなり、複合的なサブの体験がそこで加速していっている。

 しかし、日本の場合は、アニメのファーストウィンドウはテレビ放送です。プラットフォーム自体にファンが根付くか根付かないかは重要なテーマでして、(根付かせるためには)ファーストウィンドウになるべきですが、放送とどうなっていくのか、という答えは一つとは限りません。色々模索しながら検討していこうという流れですね。ただ、色々な体験を拡張していくためには、機能軸の課題、インターフェースの課題があるため、テレビの画面上でできることにはどうしても制限があります。そうすると、ライブ体験や、原作書籍など、横に広げていく体験は、必然性を伴って配信プラットフォームが担っていくことになると思います」

 配信プラットフォームそのもののファンを創出するためには、オリジナルIPの開発がわかりやすい手法だが、堤氏はまずはU‐NEXT内でしかできない体験を提供することを優先する。

 「オリジナルのIP開発等々というのは、その次に生まれてくるテーマだと思います。そういう(体験ができる)ものの下地ができていないと、あまり意味がないですし、そこは出版社が、連載誌などでIPを作る素晴らしいプラットフォームをすでに持っていますからね。我々としては、まずは体験のユニークさを重視しています。コンテンツとしてのユニークさもテーマとしてあるのは事実ですが、今は慎重に見ています。やりたいこととやれることには乖離がありますし、それをどう埋めていくのかという意味で、ステップバイステップですね」


続きは、文化通信ジャーナル2021年4月号に掲載。

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取材・文  平池由典



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