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東映『樹海村』紀伊宗之プロデューサー“清水崇監督の真骨頂”

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東映『樹海村』紀伊宗之プロデューサー“清水崇監督の真骨頂”

2021年02月05日
『樹海村』東映・紀伊プロデューサー.jpg


 東映配給のホラー映画『樹海村』が2月5日(金)から全国公開される。コロナ禍により映画の撮影が難しい期間を経ながら、『犬鳴村』の公開からわずか1年のスピード公開を実現。その製作経緯を紀伊宗之プロデューサー(東映 企画調整部 次長=写真)に聞いた。


「やるんです。撮るんです」と言い切る

――まず2020年2月に公開した前作『犬鳴村』を振り返ってもらえますか。興収14億円のサプライズヒットになりました。

紀伊 公開前は「大丈夫なの?」と言われていました。あるデータ分析会社の予測によると、初週の土日2日間の成績は8千万円ぐらいでした。それなら、最終は4億円ぐらいかなと。でも、初日の午後から「あれ、(お客さん)来てるぞ」みたいな感じでした(笑)。PRは若いお客さんに向けていたので、大人が見ているメディアには盛り上がりが伝わりにくかったのだと思います。正直、僕もヒットするまでは実感はなかったですが、狙い通り若い人が来てくれました。実在している場所が舞台というのが刺激的だったのだと思います。

――そして"恐怖の村"シリーズ第2弾となる『樹海村』は、いつ頃製作を決めましたか。

紀伊 個人的には、『犬鳴村』の公開初日や2日目にはやることを決めていました。それに、去年11月に亡くなった岡田(裕介)会長からも、公開中に「すぐ(続編)やれよ」と声をかけてもらいました。「来年の同じ時期に公開できるように作ります」と答えると、「おお、そりゃええ。ああいう場所は日本中どこにでもあるんだから」と後押ししてもらいました。

――まだ大半の作品の制作が滞っていた昨年の夏頃に撮影されていましたよね。

紀伊 僕らは映画会社なので、映画を作ってナンボですから。僕があやふやな態度なら、みんな「やめた方がいいんじゃない?」という話にしかなりませんから、もう「やるんです。撮るんです」と言い切りました。そうすると、「それならこんな対策をしよう」と話になってくるんですよね。シナリオの打ち合せやオーディションはリモートでやって、(1回目の)緊急事態宣言が明けてすぐの、6月末から撮影に入りました。当時はまだ撮影に関するガイドラインも無かったので、自分たちで「免疫を落とさないために(無理なスケジュールにならないよう)10時間は空ける」といったルールを決め、予算も増やして撮影に臨みました。


清水監督の真骨頂

――第2弾の舞台は富士の樹海です。

紀伊 犬鳴村と同様、「樹海村」という都市伝説がありますし、知名度は1番です。富士山は、平安時代に噴火しました。その前までは、ふもとに村落や湖がありましたが、溶岩で全て埋まってしまい、生き埋めになってしまった人もたくさんいると言われています。その溶岩の上に土などがたい積し、樹木が生え、あのようなうねった森になっているのです。磁石が効かないという伝説も、そのあたりから来ているのではないでしょうか。それに、よく知られている通り"自殺の森"であり、信仰の対象でもある。そういったところをベースに物語を作れるのではないかと。3月ぐらいにシナハンのために清水崇監督や脚本家の保坂大輔さんと一緒に樹海を見に行き、「ここにしよう」と決めました。

――撮影した場所は、青木ヶ原の樹海ですか。

紀伊 青木ヶ原の樹海は山梨県側なのですが、一切の取材、撮影、PRを断られました(編集部注:その後山梨県とのコラボ動画が決定)。本当に自殺が多いそうで、県は自殺防止キャンペーンを一生懸命されています。その皆さんからすれば、この映画は「とんでもない」となります。ですから、快諾して頂いた静岡県の裾野市側の樹海で撮影しました。

――本作は、化け物がバンバン出てきて怖がらせる演出ではなく、樹海に眠る呪いが確実に忍び寄ってくる、芯から冷えるような怖さがありました。『犬鳴村』もですが、このシリーズの特徴ですよね。

紀伊 清水監督の真骨頂じゃないでしょうか。お化け屋敷なら「ドン!」という怖さでいいと思いますが、そればかりでは「映画なの?」と思ってしまいます。その意味では志を高く持ってやりましょうと話してきました。横溝正史の作品などを見て怖いと感じた自分の原体験もそうなんです。

――人の怖さですよね。

紀伊 現象としてお化けや幽霊が出てくることはあるでしょうが、そのルーツが人であることが、やはり1番怖いのじゃないかなと思います。種が宇宙人では怖くないじゃないですか。怖いのは、特に近親。例え自分が善良に生きていても、親や祖父母に何らかの理由があり、自分も物の怪に祟られるというのは、悲しいし切ないし恐ろしい。でも、あり得るわけです。今回も企画に向けて色々な都市伝説を調べましたが、人間の恐ろしい話は色々ありました。ただ、ホラー映画ですから、そちらばかりに寄ってしまってもダメで、「ドン!」という怖さとのバランスが難しいですね。何回やっても正解はわかりません(笑)。

――主演は山田杏奈、山口まゆの2人です。『犬鳴村』は三吉彩花でした。若手のフレッシュな女優を起用していますね。

紀伊 大作映画の主演を1人で務めるような大スターがホラー映画で主演すると、怖くないじゃないですか。スターが劇中で死ぬことはないですから、その人が出てる場面は安心してしまうのです。誰がどんな目に遭うかわからないという要素は、オリジナルのホラー映画の強みなので、そこを大事にしてキャスティングしています。山田さんは『小さな恋のうた』などで一緒にお仕事させてもらい、天才少女だと思っています。山口さんはオーディションで初めて演技を見せてもらい、「この人だ」と思いました。


知名度の高い都市伝説

――紀伊さんは原作のないオリジナル映画を作る重要性を感じていますよね。

紀伊 僕らは結局数字が全てなので、原作ものも、オリジナルも、手段の1つであり、どちらもバランスよくやればいいと思っています。ただ、ホラーはアニメと同様にビジネスのすそ野は広いと思うので、オリジナルでやりたいなと思っています。恐怖の村シリーズの場合、実在する場所や都市伝説をベースにお話を作っていますが、オリジナル映画の知名度の低さを補完する意味もあります。本作に出てくる樹海村、そしてコトリバコは都市伝説があり、よく知られています。杉沢村、ジェイソン村といった都市伝説も色々ありますが、ホラーファン以外からはあまり知られていません。「なぜ樹海村を選んだのか?」と言われれば、最も知名度が高いからです。それも世界中です。100万部読まれている原作小説は、それだけ多くの人が結末を知っているということですが、100万人に知られている都市伝説は、それだけ多くの人に知られていながら、本当か嘘かわからない。料理し甲斐があるというものです。しかも原作料も必要ありませんから。

 それと、オリジナルをやっておかないと、監督もプロデューサーもスタッフも腕が劣化すると思います。漫画が原作なら、絵コンテがすでに描いてあるようなものです。例えば美術のスタッフなら、もう漫画には世界観が描いてあるじゃないですか。でもオリジナル映画は、デザイナーのイマジネーションからスタートしますから。映画が総合芸術とするなら、「入口はオリジナルでしょ」と思います。

――先ほど、世界中から樹海が知られていると話されましたが、それほど知名度が高いのですか。

紀伊 めちゃくちゃ知られています。映画の海外タイトル『ザ・スーサイド・フォレスト』と、清水崇監督であるという情報を解禁しただけで、猛烈に買い付けのオファーがありました。今はコロナの影響で映画の輸出入量は激減していると思いますが、この作品は別です。

――2月5日に日本で公開されます。目標の興収は。

紀伊 コロナ禍の逆風ですが、20億円を目標にしています。

――ちなみに、第3弾はありますか。

紀伊 次は「太秦映画村」です。それは冗談ですが(笑)、3つ目まではやることは決めています。まだ場所は決まっていませんが、今度は村八分を題材にやりたいなと思っています。(終)


※このインタビューは、文化通信速報(映画版)1月29日付で掲載したものです。

取材・文 平池由典

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