の売上が20万個近いヒット商品となっているポニーキャニオンプランニング(PCP)。1971年の設立以来、CDやDVDのパッケージデザイン関連を軸に事業を展開してきた同社だが、時代の移り変わりと共に、デジタル、グッズ販売など徐々に事業を多角化し成長を続けている。今年8月にはニッポンプランニングセンター(NPC)から社名変更し心機一転。2021年4月の50周年に向け、同社の描くビジョンについて
PCPでは今年6月に独自フェイスシールドの開発に着手。それまでバンドタイプや眼鏡式はすでに市場流通していたが、上下に動くシールド可動型の眼鏡式シールドは存在しておらず、同社はすぐに実用新案登録・意匠登録など知的財産権の申請を済ませ商品化。これが当たった。売上はコロナの感染拡大具合により波はあるが、ピーク時の8月には1800万円近い売り上げを記録。主な購入者は医療や介護従事者からホテル、飲食店、工事会社、生保レディまで様々で、大柳氏は「もともとの需要の高さに加え、小ロットで通販で購入できることが消費者のニーズにマッチした」と分析する。
また、正式なプレスリリースを出す前に完成品をフジサンケイグループ(FCG)各社に案内したが、これもヒットの要因として大きかった。「親会社ポニーキャニオンの吉村(隆)社長がFCGグループ社長会で紹介し、フジテレビやFCGの制作会社が面白がってくれたんです。一番に反応してくれたのが、ドラマやバラエティなどの番組制作をしているフジクリエイティブコーポレーション。スタッフの間で評判となり、『逃走中』などの人気番組で演者が着用し、問い合わせが殺到しました」。
大柳氏にとってもこの売上・反響は想定外で、「卸店を通さずに自社通販で展開できたことも大きかったですね。上半期はこれでだいぶ助かりました。コロナの影響で赤字にはなりましたが、下半期頑張れば黒字を狙えるような状況です」と話す。
事業の多角化と転換点 ただ、同社が事業領域を柔軟に広め、成功を収めた例はこれが初ではない。大柳氏が社長に就任した2014年頃はパッケージ売上の低迷に伴い赤字状態が続いていた。事態の改善を図るべく、経営面において何か新しい変化を起こしていく必要性があった。
事業面で最初の大きな転機となったのは映像配信サービス「Netflix」との提携だ。それまで同社はCDやDVDのジャケット作りなどフィジカル中心の仕事を請け負ってきたが、15年以降、Netflix作品のアートワークを担当することで、従来のパッケージ依存からの脱却に成功。黒字化を達成し、新たな事業の柱として確立させた。
また親会社であるポニーキャニオンとのグループシナジーを深め、イベントグッズの制作にも着手。大柳氏は「従来のメインパートナーは印刷会社さんだったんですけど、グッズ制作会社さんとのパートナーシップも積極的に結ぶようになって、これも軌道に乗せることができた。それまでパッケージにまつわる仕事がメインだったところから、デジタルとグッズにうまくシフトできた。そこが大きな転換点でしたね」と振り返る。
Netflixがオリジナル作品の制作数を増やし、仕事量が落ち込んでも、その分イベントグッズが伸長し経営を支えた。当初はTシャツやクリアファイル、タオルなどの定番アイテムを手掛けていたが、「価格競争になってしまうので、独自のグッズを生み出したかった」。そうして2017年に開発したのが、光るICカード
「PIICA(ピーカ)」だ。PIICAは、通勤通学、ショッピング、オフィスなどの場面で、カードリーダー機にかざすと発光するというもので、ICカードと重ねてパスケースに入れたり、ICカードに貼りつけて使うなどして楽しむことができる。同年に発売された映画『君の名は。』のDVD&BDのローソン特典に採用されたことで注目を集め、ヒプノシスマイクなどのアニメーション作品や、BTS、AAAなどの音楽アーティストをデザインしたものが特に人気を博し、最高年間売上1億円を超える同社の主力商品の一つとなった。
事業の多角化を進めていく中で、大柳氏は「取引先がどんどん広がり、アニメ・声優関連など新しいクライアントさんも増えていきました。それに伴って会社として色々な実績も積み上げることができた」と話す。
実はフェイスシールド開発のきっかけも、こうして築き上げていったネットワークの賜物だった。PCPは今年の上半期、コロナの影響で一時的に仕事が減少。「4~5月まではそれまでに受注していたグッズの納品などがあり影響も少なかったのですが、6月にはコロナの影響をダイレクトに受け売上も昨対比で半減。緊急事態宣言をきっかけにコンサートもどんどん中止となっていって、これから何をやっていこうか頭を抱えましたね」。
丁度その頃、グッズ製造の繋がりの中でコネクションのあった中国の工場からマスクの販売を提案され、楽天に構えた自社通販ショップで販売を開始。さらに半信半疑で防護キットの取り扱いもはじめたところ、医療機関などから大量の注文が入り手応えを感じたという。PCPフェイスシールドもこの一環として誕生したものだった。
「当時、プロ野球の楽天イーグルスやヤクルトスワローズのグッズの受注を受けていたのですが、その流れで野球場でのフェイスシールドの活用方法を考えていた時に“シールド部分にリフトアップ機能をつければ、フェイスシールドをつけたまま飲食が可能となり、お客さんも観戦しやすくなるのではないか”というアイデアが生まれました」。
同社では今後もコロナ需要を積極的に捉えていく考えだ。冬の再流行を見据え、サーモグラフィーカメラの販売もスタート。12月からは病院、介護施設、食品工場など幅広い業種で使用されるニトリル手袋の販売も開始するという。
2021年4月に設立50周年、新規事業も
時代の変化をチャンスに変え、成長してきた同社だが、いよいよ来年4月に設立50周年を迎える。8月にはNPCからPCPへと社名変更を発表。大柳氏はその理由について「50年目に入るタイミングでコロナになり、業務内容もかなり変わってきた。会社自体を見直した時に、何か大きな変革を告げるきっかけが欲しかったんです」と話す。
「実は、社名変更については、私が社長に就任する以前から議論されてきたようです。しかし『ポニーキャニオンという名前を付けることで、取引先にとって“ライバル会社の子会社”という面が際立ってしまうのではないか』『グループ色が強くなりすぎてしまうのではないか』といった懸念点があったことから実現には至らなかった。また社名を変える時はそれなりの意味がないといけないということもありました」。
しかし今年、これまでの世の中の変化への対応をさらに推進させるために満を持して社名変更を決定。社名案に関しては前述の懸念点から、ポニーキャニオンの名称を付けない案もあったというが、これまでの実績からクライアントの信頼感を勝ち得たことで、「ポニキャンブランドを活用させた方がよりプラスに作用する」と総合的に判断。ポニーキャニオンの名を冠することで、異なる業界の企業との関係を構築していく際に、安心感やわかりやすさにも繋がっているという。
8月には通常業務も回復基調に。50周年に向け、同社がwithコロナ時代の新たな施策として取り組んでいるのが「コンサート物販モバイルオーダーシステム」だ。これはコンサート会場における物販の混雑緩和を目的としたもので、ビジネスモデル特許を申請し来年早々にローンチ予定。ユーザーは事前にスマホでグッズの購入申し込み・決済を行い、コンサート同日の受取時間を選択。これにより新型コロナの感染対策や、事前申し込み制度の導入による在庫リスクの低減などを見込む。
また、今年は新規事業としてアニメや音楽アーティストとコラボした酒類の制作販売を開始。さらに東京・有明のスモールワールズや日本橋アートアクアリウムといったテーマパークのお土産グッズの制作販売もスタートした。SNS拡散支援サービス「Boommy」においても、人気投票機能のアピールなど、引き続きサービス拡充を目指していくという。
大柳氏は今後の展望について「コロナによってライフスタイルの変化を実感しています。リアル店舗が難しくなってきているので、家の時間を充実させることがこれからの時代のキーワードかなと思っていますね」と明かし、その上で「あくまで弊社のベースの武器はデザイン。デザインを活かせるようなサービスを制作、提供していきたい」と話した。