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『男はつらいよ お帰り 寅さん』松竹・大角正常務 “スクリーンいっぱいに映る画を全部見て”

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『男はつらいよ お帰り 寅さん』松竹・大角正常務 “スクリーンいっぱいに映る画を全部見て”

2019年12月24日

松竹・大角常務.jpg



 国民的映画シリーズ『男はつらいよ』、22年ぶりの最新作『男はつらいよ お帰り 寅さん』が、いよいよ12月27日に公開を迎える。

 シリーズ第1作が1969年に公開されてから今年でちょうど50年。大きな節目の年に第50作で寅さんがスクリーンに帰ってくる。主演はもちろん渥美清。監督は山田洋次。新たに撮影された“今”を描く映像と、4Kデジタル修復された過去作の映像が紡ぎ合って完成した作品が、いま一度、笑いと涙を日本中に届ける。

 前作から四半世紀近い時を経て、令和の日本が、この映画をどう受け止めるのか。世代や性別を超えて、観客の心の奥深くに何を残すのか。また、製作・配給する松竹にとって、どれだけの想いを込めて取り組むのか。大角正・常務取締役映像本部長(=写真)が、思いの丈を語った。





 『男はつらいよ』は第1作公開から、今年2019年が50周年にあたります。3年くらい前、山田(洋次監督)さんから50周年に向けて何かできないだろうか、という話がありました。渥美清さんは亡くなりましたが、山田さんの頭の中では、寅さんはまだ旅を続けているんです。

 寅さん50周年は松竹全社を挙げた取り組みであり、若手社員を中心に社内にプロジェクトチームを立ち上げ、様々な企画を検討してきました。『男はつらいよ』は松竹100%出資で製作してきたから、自社だけで判断できます。

 プロジェクトの一環で、過去全49作のデジタル修復に着手しました。全作がフィルムで撮影され、上映素材もフィルムしかなかったんですが、すべてデジタル化し、かつ4K対応としました。この4Kデジタル修復映像の活用方法を模索したのが、新作映画の出発点となりました。


寅さんは旅を続けている

 4Kデジタル修復が完了し、全部つなぐと83時間20分もある。これを見直す過程で、4Kデジタル修復した寅さんの昔の映像を、現代の話にくっつけるという新作の方向性が固まっていきました。

 寅さんは旅に出ているけど、倍賞千恵子さん演じる妹のさくらは柴又で暮らしているという設定。彼女はかつて団子屋のお手伝いでしたから、おいちゃん、おばちゃんが亡くなった今、さくらが自分で団子屋をしているのはおかしいので、団子屋の中の風景は変えず、同じ場所で喫茶店をやっているようにしました。ご存命中の方々、前田吟さん、寺関係でいうと佐藤蛾次郎さん、あと、山田さんにとって本当の意味でのマドンナはリリーですから、浅丘ルリ子さんにも出てもらいました。

 物語は主に、寅の甥っ子で、さくらの息子・満男(吉岡秀隆)の視点で描かれます。かつての恋人・泉(後藤久美子)と再会し、物語が進みます。吉岡くんを出すにはゴクミが必要。山田さんは「ゴクミなしじゃ、この映画は成立しない」と、直筆でゴクミの住むヨーロッパに手紙を出したんです。すると「山田監督がそこまでおっしゃるならやります」と、間髪入れずに返事が返ってきました。ある意味で、ここが製作にゴーサインが出た瞬間でした。


新旧の映像、違和感なし

 泉は海外暮らしで、満男とは一緒にならず、別々の暮らしをしている。この現代パートにかつての寅のシーンがつながります。脚本づくりは大変で、山田さんが最も留意したのが、現代と昔の映像が交じることによる違和感でした。現代パートでセリフがあり、芝居があったところで、突然昔の映像に変わる。昔の映像はいじれませんから、現代パートの脚本を練り上げて、違和感なくつないで、なおかつ、ぶつ切りにせず1本のストーリーとして成立させないといけない。

 撮影に関しても、山田さんがこれまでどおりフィルムで撮ると、4K化した昔の映像とタッチが合うかどうか懸念があったので、山田さんには4Kデジタルカメラで撮ってもらいました。砧の撮影所でセットを組んで、入念にカメラテストをして撮影に臨みました。

 緻密な脚本の完成度、それから4Kデジタル修復映像と4K新撮映像の融合。全編を通してまったく違和感のない、すばらしい映画が完成しました。評判が高く、さきの東京国際映画祭でオープニング上映され、スタンディングオベーションが鳴り止みませんでした。


画面いっぱいの画を見て

 第1作が公開された1969年は東大紛争が激化していた年。翌1970年は大阪万博。戦後の高度経済成長の中にあって、モーレツ社員だとか、日本が元気にあふれていた頃です。

 それから50年の間で何が大きく変わったか、山田さんと話しました。まず、鉄道。当時は国鉄で新幹線以外は全部、下を走っていました。踏切が多く事故もあった。今は高架になって、それに伴い情緒があった駅舎も変わっていきました。もう一つ、港が変わりました。震災の影響があって、大津波を味わった東日本の海岸は、護岸が高くなっています。

 その一方で変わらないものもある。京都です。京都は神社仏閣、重要文化財が多く、町全体で建物の高さや色に規制をかけています。

 そして柴又。参道もお店も当時とほとんど変わっていません。それは寅さんをあそこで撮り続けたことが影響していて、柴又の人たちは寅さんも参道も大事にしています。昔の風景がどんどん消えていく日本と違い、ヨーロッパは町の景観を残す考え方があって、そういう意味ではウィーンで撮影した第41作『寅次郎心の旅路』(89年)。当時僕は関西で営業をしていて、ヨーロッパの町並みに寅さんが交じることに違和感を感じたんです。ところが今回4K化した映像を見直したところ驚いた。カメラマン高羽哲夫の撮ったあの画、まるで絵画です。映画というのはこういうことだと認識を新たにしました。

 そもそも映画というのは、昔から「スジ、ヌケ、ドウサ」という三大要素があります。スジは脚本。ヌケはスクリーンいっぱいに映った画。ドウサは役者の芝居です。今回はヌケ、おっきなスクリーンに映っている画を全部見てほしいんです。「寅さんは面白いね」とか「懐かしい女優さんがいっぱい出てたね」だけじゃなしに、赤い公衆電話とか当時の風景がいろいろ映っています。これが重要でね、どうしても芝居にばっかり目が行くから、なかなかそうは見てくれない。昔の画も見てほしいというのが僕と山田さんの想いです。



続きは、月刊「文化通信ジャーナル」2019年12月号に掲載。

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