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『2001年宇宙の旅』70ミリ版特別上映、国立映画アーカイブの挑戦と課題

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『2001年宇宙の旅』70ミリ版特別上映、国立映画アーカイブの挑戦と課題

2018年11月22日

国立映画アーカイブ冨田美香主任研究員.jpg


 国立映画アーカイブは、ワーナー ブラザース ジャパンと「ユネスコ<世界視聴覚遺産の日>記念特別イベント 製作50周年記念『2001年宇宙の旅』70mm版特別上映」を開催した。10月6日・7日、11~14日の6日間で12回上映すると310席が全回完売/3720人の大盛況。この特別上映を企画・担当した主任研究員の冨田美香氏に話を聞いた。


 
 スタンリー・キューブリック監督が1968年に発表した『2001年宇宙の旅』は、ボーマン船長ら人間対コンピューター(HAL)の戦いを描き、後世の映画人に絶大な影響を与え続けるSF映画の金字塔。製作50周年を記念して、同作に影響を受けた一人、クリストファー・ノーランが監修し、アンレストア版と呼ばれる70ミリプリントを制作。公開当時の映像・音の再現を徹底的に追求した。

早朝にできた長い行列
早朝からファンが列をなす模様.jpg 国立映画アーカイブは連日活況を呈した。冨田氏の説明によれば、前売券は10分程度で完売。各回100席分の当日券を用意したが、早朝・始発の時間帯から並ぶ人が少なくなく、その列は日々長くなっていった。各日250人の列ができた段階で定員超のアナウンスをしたが、そのタイミングは午前8~9時頃と早い。リピーターは勿論のこと、沖縄県から前乗りし、二日続けて観たという熱心な若者もいた。


 客層はコアな映画ファン、映画のプロ(技術者等含む)に加え、普段映画館に足を運ばない層や、親子連れの姿も。冨田氏は「〝次世代の観客を育てる〟という当館の目的もあり、この前売券で1人当たりの購入上限を4枚にしたのは、ご家族で来やすいようにという配慮でした。ノーランがそうであったように、親世代が息子や娘に観せたいと一緒に足を運ぶ、そんな光景も目にすることができて嬉しかったです」と語る。

観客がくれたHAL人形
ファンが作成したHAL人形.jpg また、男女比は8割男性。同館は通常シニア層の観客が多いが、今回は学生も多く、20~50代がメインだった。「若い層の感想を見ると、彼らはDVD/BD、テレビ、配信で本作を観てきていたので、〝映画館で観ると全く違う〟〝やはり映画は体験するものだ〟という声が多数ありました。70ミリで作品本来の姿を鑑賞する体験の重要さもわかってもらえたと思います」(冨田氏)。なかには、HALの手作り人形を上映時にプレゼントした観客もいたようで、同作の根強い人気を窺わせる。



チラシビジュアル

『2001年宇宙の旅』.jpg
 今回のアンレストア版70ミリフィルムの魅力とは何か。70ミリフィルムは、通常の劇場映画に使用されていた35ミリフィルムに比べて画の記録面積が倍以上あるため、高解像度の美しい映像を楽しめる。また、現在の5.1チャンネルの先駆とも言える、立体音響も特長のひとつだ。冨田氏の説明によれば、アンレストア版70ミリフィルムはこれらに加えて、1968年公開当時の『2001年宇宙の旅』の映像や色彩を再現するために、デジタルを一切介さずにフィルム工程のみで作られている。そのため、DVD、テレビ、リバイバル上映で観てきたこれまでの同作とは全く異なる、キューブリックが追求した映像、色ツヤ、音を味わうことができ、ネガの傷などもそのまま残している。同バージョンを5月にノルウェーのオスロで鑑賞した冨田氏は「衝撃を受けました。私が今まで何度も観てきたバージョンと全く違い、荒々しささえ感じました。とりわけHALが殺されていくシーンの赤は、まるで血の海のようでした」。


当企画用に同館が用意した70ミリフィルムケース
今回上映した70ミリフィルム.jpg 音に関しても同様で、元素材のアナログ音声にデジタルのフィルタリングやノイズリダクション等の修正、ボリューム調整も加えていないため、キューブリックが設計したフロントの5チャンネルが〝音圧〟を伴って観客に届き、モノラルのサラウンドの1チャンネルによって立体音響を味わえる。具体的には、冒頭の「人類の夜明け」の章では、猿たちの声がフロント、虫の鳴き声や風の音など環境音がサラウンドで聴こえる。宇宙ステーションのシーンでは、人々の会話がフロント、室内アナウンスがサラウンド。ボーマン船長らの会話がフロント、HALの声がサラウンドといった具合だ。冨田氏は、「デジタルで作られた音しか聴いたことがない若い世代にとって、新鮮な映画体験であったはずです。音質の違いは勿論のこと、音圧に驚き、感動したとの声が多数ありました。DVDでは再現できない、フィルム映写ならではの映画体験を多くの方が理解してくださったと思います」と上映を振り返る。



35ミリと兼用の70ミリ映写機
70ミリ映写室.jpg 今回の上映は容易なものではなかった。国立映画アーカイブの70ミリ映写機は、35ミリとの兼用機のため、35ミリ仕様から70ミリ仕様に替える際、レンズや光軸、フィルムを抑えるプレッシャーゲート等、上映プリントにあわせた極めて繊細な調整が必要になってくる。オスロで体験した映像、音を一つの基準にしつつ、初日の上映ギリギリまで完璧な状態にするべく技術者たちは調整を重ねたのだ。


 微妙な調整作業は上映中も連日行われた。今回の70ミリフィルムはDATASAT方式のため、音の再生も非常に困難で、2台の映写機で交互に映写する切り替わりのタイミングが少しでも違うと音に異変が生じてしまうのだ。

 「大きなトラブルはなかった」と胸を撫で下ろす冨田氏であるが、「国立映画アーカイブが今もてる技術を総動員して、観客の皆様に満足いただける上映はできました。しかし私たち自身が120%満足と言えないと、万全の状態で70ミリフィルムを上映できるとは言えません。まだまだ課題があります」と前を向いた。

 同館の70ミリフィルムの上映は、昨年行った企画『デルス・ウザーラ』(黒澤明監督/1日限りの2回)に続き、2回目。11月現在、今回の『2001年宇宙の旅』アンレストア版70ミリフィルムのアンコール上映の予定はない。「アンコール上映を行うためには、海外から再びプリントを借りなければいけません。その時、借りられるプリントはさらに傷が付いているはずで、今回の上映ほど良い状態にはならない可能性が高いと思います。今回見えてきた課題をクリアする必要もありますしね」。

満席/大盛況の会場の様子
上映時のQ&A.jpg 最後に冨田氏は「今回の企画で、課題が分かったこと、70ミリの魅力とともに国立美術館の一つである当館の活動も知っていただけたことは良かったと感じています。作品本来の姿をオリジナルのメディアで観客に届けるというのは、国立映画アーカイブの存在意義でもあるはずですから」と述べた。





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