第28回東京国際映画祭 クロージングセレモニー グランプリはブラジル映画『ニーゼ』
2015年11月04日
第28回東京国際映画祭のクロージングセレモニーが10月31日、TOHOシネマズ六本木ヒルズで開催され、各賞の受賞結果が発表された。冒頭、新設のARIGATO(ありがとう)賞の表彰があり、樹木希林、日野晃博、広瀬すず、細田守、リリー・フランキーの5氏が揃って登壇。樹木は「人様からありがとうと言ってもらえるだなんて…いえいえ、こちらこそありがとう」とユニークにコメントした。
「コンペティション部門」のグランプリは女性精神科医ニーゼの苦闘を描いたブラジル映画
『ニーゼ』(ホベルト・ベリネール監督)が受賞。審査委員長の
ブライアン・シンガー監督は「ファンタジー、実話に基づくもの、いずれにせよ観た者がいかに本当だと思えるかが重要。『ニーゼ』はその要素を全て含んでいた。寂しさもありユーモアもあり、そして最終的に勝利もある」と絶賛した。また、主演を務めた
グロリア・ピレスは最優秀女優賞を獲得し、同作はW受賞の快挙を成し遂げた。
べリネール監督は「私の人生の13年間を本作に捧げてきた。脚本を何度も書き直した」と完成に至るまでの苦労を話し、「主人公ニーゼは実在の人物。重要な人物であり革命家。だが彼女を知る人が少ないので、世界に紹介したいという気持ちがあった。時々自分が本当に特別なことをしていると感じる瞬間がある。まさに本作を手掛けている時に感じた。病院の精神科の患者たちとおよそ半年を共にし、彼らたちと共に撮影した。その体験は私たちの人生を変え、本作に映っている」と作品に込めた想いを語った。
もう一本、W受賞を果たした作品が、トルコ=ハンガリー映画
『カランダールの雪』(ムスタファ・カラ)。WOWOW視聴者6人が審査員を務めるWOWOW賞と最優秀監督賞に輝いた。鉱脈発見の夢が破れ、村で開かれる闘牛に希望を託し、家畜の特訓に没頭する男の物語。人間と自然に対する雄大な賛歌であり、厳しさの中の希望を描くリアルな寓話。
カラ監督は「大変困難で長い製作期間を要した作品。辛抱強く支えてくれた製作チームにこの賞を捧げたい」と感謝の言葉を贈った。
ブライアン・シンガー審査委員長は「個人的には、グランプリに『ニーゼ』が満場一致で決まったことが嬉しい。私は自閉症の子どもたちを送迎するバスドライバーをした経験があり、そういった意味でも心を打たれた」と今一度、『ニーゼ』について触れた後、総評として、「審議には長い時間がかかった。6賞しかないことが残念だった。私の友人のイーサン・ホークは『ボーン・トゥ・ビー・ブルー』で名演技を披露していたし、『地雷と少年兵』では、犬の演技にも賞をあげたいくらいだった。和やかに最終決断を下すまでには、多くの意見があがった」と続けた。
なお、「日本映画スプラッシュ部門」のグランプリは
『ケンとカズ』が受賞。
小路紘史監督は「やっと一歩を踏み出せたという気持ち」とし、トロフィーを大きく掲げ、喜びを表現した。「アジアの未来部門」の作品賞はタイ映画
『孤島の葬列』。
トーウィラ監督は「本作で私が伝えたかったことの全てを伝えられたと思う」と興奮を隠せない様子で話した。
椎名保ディレクター・ジェネラルが「ちょうど30年前の第1回開催では黒澤明監督の『乱』を上映した。このことを記念して今年から日本クラシック部門を新設した。日本の宝である日本映画をずっと伝えたいという想いで作った。これを来年以降も盛り上げていく。また、ジョン・ウー監督による若手監督向けの講座も行った。約400人の若手監督が集まったが、彼らの成長の場としても力を入れていく。2020年には東京オリンピック、パラリンピックが控えているが、より東京が注目されるだろう。東京国際映画祭では映画を通して文化交流をするという役目を果していきたい」と最後にコメント。
その後、クロージング作品
『起終点駅 ターミナル』の舞台挨拶が行われ、篠原哲雄監督、出演の佐藤浩市、本田翼、尾野真千子が登壇。
篠原監督は「仕掛けの派手な作品がウケる時代ですが、本作はきめ細やかさを大切にした。ぜひ皆さんがご自身の人生を振り返るきっかけになればと願っています」とアピールし、盛況のまま映画祭は幕を閉じた。了
写真:(C)2015 TIFF