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「PFF(ぴあフィルムフェスティバル)」ディレクター:荒木啓子氏

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「PFF(ぴあフィルムフェスティバル)」ディレクター:荒木啓子氏

2015年09月07日

映画祭チラシ.jpg


 自主製作映画の登竜門ともいわれる映画祭「PFF(ぴあフィルムフェスティバル)」は「映画の新しい才能の発見と育成」とテーマに77年よりスタートした。37回目となる今年度は9月12日より24日までの11日間(月曜日休館)、東京国立近代美術館フィルムセンターで開催される。

 「コンペティション部門」では577本の応募作の中から、約4カ月間の厳正な審査を経て選出された20作品が上映される。最終日・24日には表彰式とグランプリ作品の上映が行われる。

 招待作品部門では、「特集 サミュエル・フラー~誰もが憧れた奇跡の作家~」「映画内映画~映画は映画をつくることをどのように描いてきたか~」が用意されており、特別企画には「世界が絶賛した日本の短編たち」を企画。
「映画のコツ~こうすればもっと映画が輝く~」と題した「PFF講座シリーズ」では美術とプロデューサーについて迫る。上映作品などは下の表の通り。
 


8月9日付PFF3修正プロ.jpg


 ※対談者やゲストによるトークイベントなどの詳細はhttp://pff.jp/37th/

 PFFディレクターに就任して23年目を迎える荒木啓子氏に、そのプログラム内容、映画祭の在り方などを聞いた。






映画を作る場が変わっても、なぜ作りたいかは変わらない



荒木啓子氏2.jpg――サミュエル・フラー監督の言葉「映画は戦場だ!」をキャッチコピーに決定するまでにどういった経緯がありましたか。

荒木D(=右写真) 1977年にこの映画祭をスタートさせてから、毎年のテーマは「映画の新しい才能の発見と育成」です。これはずっと変わりません。今年のキャッチコピーを考えたのは、フラー特集を組んだ後でした。時代的にもタイムリーに感じ、この言葉を借りました。

――どういった作品が入選作品に残るのでしょうか。

荒木D 何本も観ている中で浮き上がってくる映画です。「この映画には何かあるな」と思う映画が残っています。

 映画は観客を驚かせて初めて、映画だと言えます。「何かある映画」というのは、「驚かせられる映画」とも言えます。


〈審査方法〉
①応募作品全てを、1作品につき3人以上で審査。
②必ず最初から最後まで1分1秒もらさず観る。
③多数決ではなく1作品ずつ話し合い、1次通過作品を決定。
④1次通過した全ての作品を審査員全員で鑑賞し、入選作品を決定。
⑤入選作全てを5人の最終審査員が鑑賞しグランプリ及び入賞を決定。
 
 なお、今年の最終審査員は奥田瑛二、大友啓史、阿部和重、熊切和嘉、西村義明の5氏。


――大変な選考作業に思えますが。

荒木D 選考委員会は16人で構成されていますから、それぞれ推す作品は異なります。これは毎年当たり前に起こることで、面白いところでもあります。まわりくどい方法に見えるかもしれませんが、必要なプロセスです。ある選考員から「僕は認めない/私は認めない」と言い放たれた作品も20本の内にはあります。

――一次で落ちた後、二次で復活するということもあるそうですが。

荒木D 複雑な選考方法をとっています。一次審査と銘打っていますが、そこでバッサリと切っている訳ではありません。全員で観始めたとき(④の段階)、「これが通っているなら、これも入れたい」ということが審査員それぞれに起こります。そういった作品をどんどん繰り込んでいって、入選候補を増やしていく作業を行います。

――荒木さんは以前、「映画/映像を学ぶ場所が増えたことを改めて知らされた」と今年度の審査を振り返っていました。

荒木D 昔の自主映画は学校ではなく独学で映画を勉強するということが主流でした。映画の学校がこんなに増えたのはここ10年くらいの話ですが、例えば今年の入選者に限れば、9割近い人が大学、専門学校、短期コースなどに通っています。昔は9割が独学でした。真逆の数字ですね。

――そういった状況に置かれた若手作家に対して、危惧されている事はありますか。

荒木D 映画を作る/作れる場所が変わったことは事実ですが、映画を撮ることや、そこにかける想いはどんな時代でも変わらないと信じています。場所や機材は変わったかもしれませんが、「なぜ映画を作りたいか」という根底の部分は変わりません。


初体験者を想定してランナップを決定する


――毎年、ラインナップを組む際に意識することはありますか。

荒木D 私が今観て、力づけられたり頭がリセットできる作家/作品が恐らく、観客も同じように感じてくれるのではないだろうかという感覚を大切にしています。
この感覚がなくなった時が、辞め時ということです(笑)。

 企画が具体的に立ち上がるときには、何かのキッカケがあります。本映画祭は大きなテーマが決まっていますので、常にそのテーマを根底に置きながら具体的な企画を立ち上げていきます。また、先ほども申し上げた通り、映画は驚かせて初めて映画です。私はいつも初体験者を想定してラインナップを決定します。

『フラーライフ』.jpg――フラー特集を組むに至った経緯を教えて下さい。

荒木D フラー監督の娘・サマンサが13年に『フラーライフ』(=右写真)という作品を撮りました。この映画の基になったのはフラー監督の自伝で、その日本版出版も決まりました。このキッカケがあれば、フラー特集を組めると考えました。   

 この特集は、主にフラー監督作品を全く観たことのない人に向けています。あるいは、まだ映画をあまり観ていなくて、何から観ようかなと迷っている人にこそ来場頂きたいと考えています。

――『フラーライフ』『ベートーヴェン通り~』は、日本初上映ですね。

荒木D この2本と『殺人地帯U・S・A』は、今回PFF上映のためだけに日本語字幕を作成しています。つまり、このチャンスを逃すのは惜しすぎます。

――では、「映画内映画」については。

荒木D 鈴木卓爾監督『ジョギング渡り鳥』、長崎俊一監督『唇はどこ?』『ひと夏のファンタジア』という3本の新作を観た時に、3本とも偶然、映画作りを題材にした作品でした。「あ、これ、映画作り映画の特集やれるな」と。

――森崎東監督『ロケーション』を組み込まれた理由は。 

荒木D 常々、森崎東監督の『ロケーション』を上映したいと思っていました。『ロケーション』は映画作りを扱った作品として史上最高と言っていいほどですが、評価されていません。長年上映の機会を窺っていました。

――トリュフォー監督作『アメリカの夜』も上映されるのですね。

荒木D 『ロケーション』の劇中で登場人物が、『アメリカの夜』の話をします。『アメリカの夜』を意識して作られた作品です。『ロケーション』を上映する時は、必ず『アメリカの夜』とセットでやりたいと思っていました。『アメリカの夜』が好きな人には、『ロケーション』を是非観てほしいです。『ロケーション』をトリュフォーが観ても喜ぶと思います。


「ああしなきゃ、こうしなきゃ」という考え方を打破したい


――特別企画「世界が絶賛した日本の短編たち」にも同じように、きっかけとなった作品があったのでしょうか。

荒木D 「『Oh Lucy!』を上映しませんか」とプロデューサーの方から紹介頂きました。この作品を上映することをキッカケに何かが出来ないかと考えたときに、「短編」にフォーカスを当てたらどうだろうと。

――と、言いますと。

荒木D 短編はあまり理解されていなく、充分に知られていません。定義が曖昧なんです。長編監督になるためのステップと言われたりもしていますが、全く別のことを考えながら制作する人もいます。短編でしか表現できないパワーを信じている人は世界中にたくさんいます。

 例えば、平林勇監督は社会批判や隠喩をどれだけ短い尺の中で表現できるかということに対して命懸けの作家です。和田淳監督と山村浩二監督はアニメーションの人。その素晴らしい画力で、独特の世界を作りあげます。

 伊藤高志監督は実験映画の監督として世界的にも有名な人です。当初、代表作『SPACY』を上映しようと伊藤監督に持ちかけたところ、監督自身、新作『最後の天使』を気に入っていて、尺は33分、ちょっと長いけど、まあいいやと(笑)。
 
 彼らの作品を観ていると、常に何かを生み出す人は感覚が新しいなと思います。「色んな人がいて何が起きるか分からない」というところから始まった企画です。「こうしなきゃ、ああしなきゃ」という人生を送っている人には、是非この企画にお越し頂き、その考え方を捨ててほしいなという気持ちです。


画面に映るものに注意を払ったキャンペーンを行っている


――「PFF講座シリーズ」では、どのような試みが行われてきましたか。

荒木D ずっと映画には何が大事なのかを追求してきました。「PFF講座シリーズ」という名前にしたのは、最近のことですが。昨年は石井裕也監督と山下敦弘監督に登壇頂き、彼らが選んだ1本の映画を観て、御二人が監督としての決意を語る場になりました。

 例えば、これまでPFFでは、自主製作映画における「音」に関するキャンペーンを20年間にわたって行ってきました。私がPFFに参加する前からです。

 現在は撮影、美術、といった画面に映るものに注意を払ったキャンペーンを行っています。

――今年は「美術篇」と「プロデューサー篇」ですね。

荒木D 「美術篇」では種田陽平氏と周防正行監督に参加頂きます。両者は、周防監督のデビュー作『変態家族 兄貴の嫁さん』でタッグを組んでいます。観て頂ければ、すぐに分かると思うのですが、『変態家族~』は、小津安二郎監督の美術空間を意識した作品です。今改めて、活躍されている両氏が小津監督『小早川家の秋』を観て、語ろうという企画です。

 「プロデューサー篇」では相米慎二監督作品のほか100作品以上を手掛けた伊地智啓氏にお越し頂きます。聞き手は、東京芸術大学大学院出身の濱口竜介監督(『PASSION』『親密さ』『ハッピーアワー』)です。両氏が『居酒屋ゆうれい』を観てトークします。

 『居酒屋ゆうれい』は伊地智氏のプロデュース作品で、濱口監督から出た対談テーマが「撮影所なき時代に映画をつくる方法」と聞いた時に、伊地智氏が「この作品がぴったりだ」ということで決定しました。これも是非観て頂きたいのですが、とても撮影所的な作り方が為された作品です。
 
 「PFF講座」は今後、今まで以上に盛り上げていきたいと思っています。『小早川家の秋』は、英語字幕を付けて上映致しますので、外国人の観客にもご来場頂きたいです。


集合写真センターver 修正.jpgある地点に今年20人の作家が到達したことを届けたい


――最後に、来場者へのコメントをお願いします。

荒木D 「PFF」は未来を相手にしています。誰かのような映画監督になるというのは、既に古い考え方です。いわば、来たるべき未来に「誰かのような」と言われる作家を待っています。

 今年ある地点に少なくとも20人の作家が到達しています。そのことを皆さんに観て頂きたいという想いを込めて選考しました。自主映画はその名の通り、自分自身で全面的に何かを作りあげることです。私たちは今後も、そういった作家を応援していきます。

――ありがとうございました。今後のご活躍に期待しております。



荒木啓子市PFF事務局.jpg荒木啓子氏【映画祭ディレクター】


 雑誌編集、イベント企画、映画&映像の製作・宣伝等を経て、1990年PFF(ぴあフィルムフェスティバル)の一環として開催した「 UK90ブリティッシュフィルムフェスティバル」でモンティ・パイソン特集を担当。その後、国際交流基金アセアン文化センター主催「東南アジア映画祭」ヤングシネマ部門プログラミングディレクターを経て、1992年、PFF初の「総合ディレクター」に就任。



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