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『カミングアウト』犬童一利監督

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『カミングアウト』犬童一利監督

2014年11月28日
将来このままじゃ、ちょっと面白くないな…


 ―前作『SRS~』も、彼女が前は男だったという話でしたね。

 犬童監督 そうですね、性同一性障害がテーマでした。

 ―そういうテーマが続いているのは。

 犬童監督 完全に偶然ですね。前回は音楽会社からの依頼で、元々10分くらいのショートムービーの予定だったんですが、なんだかんだで50分になりました(笑)。本当はアーティストさんの手売り用のものだったのですけれど、知り合いのDVDメーカーにダメ元でお願いしたら、DVD化して流通にのせてくれました。劇場映画ではないですけれど、そこで一つ商業デビューできたのは良い経験になりました。

 ―その前の『フリーバイバイ』(2010年)という監督作品はどういう内容のものですか。

 犬童監督 簡易SFのような感じの作品です。日本のとある地区に「フリーバイバイ法」という何でもお金で買える法があり、女性と男が2人いて、相手方の彼女に対する記憶を買い取る―という物語が展開します。完全オリジナルで、6分です。製作費は10万円ぐらいですね。ほとんどが役者さんの交通費と食事代です。カメラもわからないですし、パソコンもウィンドウズしかなかったですし、脚本なんて書いた事ないし、全てが0からの状態でした。

 ―学生時代は自主映画を作っていたのですか。

 犬童監督 まったく撮ったことはなかったです。

 ―USEN時代に何があったのでしょう?

 犬童監督 「将来このままじゃ、ちょっと面白くないな…」といろいろ考えていた時に、行き着いたのが映画だったのです。それで親に「監督になる!」と言ってUSENを辞めました。会社を辞めてすぐ、今お世話になっている方々と会う事ができて、1週間後にはすでに『ヲ乃ガワ―WONOGAWA―』の舞台の山形県の小野川温泉に行っていました(笑)。
 そして次の月には、周囲の皆さんに教わりながら『フリーバイバイ』を撮ったのですが、Macもヲ乃ガワの山口(ヒロキ)監督にヤフオクで買ってもらい編集ソフトを入れてもらったりして教わりながら、脚本も書いてと―。撮影は2日だったのですけれど、地獄でした、あれは。思うようにいかないですし、10シーンぐらい撮ったのですけれど、編集して行くうちにスリムにしていったら、結局3分の1ぐらいカットで結果6分になって。6分で今の内容というのはちょっときついですから、客観的に見てインパクトはあるけれど、よくわからない(笑)。でも、『フリーバイバイ』は新宿の短編映画祭で300人くらいに見てもらうことができました。あの緊張感は今でも忘れません。

 ―凄い決断と行動力でしたね。

 犬童監督 そういうところがないと、たぶん作れなかったですね(汗)。

 ―こんな監督になりたいとか、今後こういう映画を撮って表現していきたいというのはありますか。

 犬童監督 まずは世界に見てもらいたいです。映画を選んだ大きな理由の一つで、後世に残るということと、ボーダーレスだという事が非常に惹かれた部分です。百年後の、例えばまったく人種の違う子供たちが見てくれるかもしれません。僕らが今チャーリー・チャップリンの映画を見て笑っていることというのは、凄いと思うんですよ。そういうところにロマンを感じたというのが非常に強いので、国内だけではなく、海外で評価されることが必須だと思います。
 今、自分の監督作品は短編を合わせてまだ3本、今4本目が撮り終えたばかりですけど、今後作っていきたいテーマは、何かメッセージ性があるものに行き着きますね。
 とはいえ、エンターテインメントにすべて振り切った、メッセージ性が本当にない作品もやりたいというのはすごく強いです。ディザスターものとかやりたいです。プロットは昔からたくさん書いています、ゴキブリの話とか。ゴキブリが世界で一番偉い存在なのです(笑)。
 自分を表現したいというよりも、伝えたいメッセージという部分の一つの媒体というか。映画というのは絶対に1人ではできないと思いますので、そこも非常に惹かれた理由ですね。みんなで何か一つのものを作ることが昔から好きだったので、ずっと大学祭の実行委員会をやっていました。

 ―『カミングアウト』はストレートの人たちにどう見てもらえるかも興行では大事ですね。

 犬童監督 いろいろな場所にチラシは置いてもらったり、協力はしてもらっているのですけれど、いかにストレートの人に見てもらうかという部分は、宣伝の人も頑張ってくれています。『CINEMA SQUARE』で主人公の男の子がカラーで2ページ特集され、『夕刊フジ』の取材とか、楽天とか、引っぱってくださる媒体もあって、ありがたいと思います。主演の男の子が戦隊物のイケメン俳優なので、そのイケメンを押してくださるのはとても嬉しいですね。ストレートの女のコたちに、イケメン目当てでまず映画に興味を持ってもらい、同性愛のことも知ってもらうという風に繋がる可能性がありますので。興行は不安でしかたがないです。千人ぐらい来てもらわなければいけないですからね(汗)。

 ―11月はほかにも2作品、プロデュース作品が公開されましたね。プロデューサーにもなりたいということですか。

 犬童監督 いえ、明確に自分の中ではビジョンがあって、実績を作りたいということです。まずは見せられる一つの短編が何かないといけないというので『フリーバイバイ』を撮り、実績を積むにはプロデューサーが環境的に一番早かったのです。偶然が重なり、色々と任せてもらえる機会が多かったのが一番大きいです。営業をやっていましたので、事務所対応とか予算組みとかプロジェクト管理が少しできたので、周りの諸先輩達に任せてもらえました。USENを辞めた2ヵ月後に『老獄―OLD PRISON―』(12年)というアジャ・コングさん主演のAP(アシスタント・プロデューサー)をやらせてもらって、その年末には『JUDGEMENT』(12年)のプロデューサーをやっていました。死ぬほど大変でしたし、撮影中に色々な想いが巡り、おおいに泣いたこともありました(笑)。『ヲ乃ガワ』も山口監督に誘って頂いて、あれだけのSF作品はなかなかできないですから、プロデューサー業というのは明確に自分の実績になるという想いはありました。


kurenaiyabure_wonogawa.jpg
映画『紅破れ』(左)、映画『ヲ乃ガワ』(右)


 ―11月公開の3作品と、今年8月に撮影を行った新作『死んだ目をした少年』は全く違った毛色の作品ですね。

 犬童監督 映画人としては、“いろいろな作品をやっている感”が少し出て良かったかなと思っています。監督作でバラバラだとちょっとあれですけれど、他の2本はプロデュース作品ですので。
 また、キャリア的には今年の頭から映画『死んだ目をした少年』(15年2月21日公開)でのライン・プロデューサーとしての仕事は非常に大きかったです。各プロデューサー、加納隼監督と出会えたというのは、すごく大きいですね。

 ―今のインディーズの現状を見て、どう感じていますか。変えていくとか、若い監督たちが作っていける環境をどう作っていけるでしょうか。

 犬童監督 国の制度が変われば一番いいのですけれど。フランスのような形での、お金の回り方が少しでも変わればいいですね。こと日本で言うと、お金がちゃんと稼げないと作れない、ペイできないと出資者はいません。国に一つの文化としての助成の姿勢をもう少し変えてもらうのが、一番手っ取り早いとは思うのですよ。
 ただ製作費をペイするコンテンツというところだけに執着しないで、一つの文化を発信する、そういうような部分での税金の使い方なりというのが、一番わかりやすいのですが。結局、知名度のある作品しか並べない現状があります。そういうところも変わっていって欲しいと思う部分です。あとは、我々が作るしかないのですけれど。個人レベルの収入の問題ですね。それは結構シビアで、そこで辞めてしまう人も非常に多いですから。そこは非常に大きなネックです。

 ―ビジネスと作品を発表できる場というものが、うまく合致できるといいなと思いますね。

 犬童監督 『カミングアウト』にしても『死んだ目をした少年』にしても、若い監督、埋もれてしまう世代―たぶん今一番僕らの世代(20代後半)だと思うのですが、そこにチャンスを与えようとしてくださるというのは一つの希望ではありますね。
 ただ、海外映画祭で賞を取ったとしても、現状は変わらないと思います。インディーズの業界の仕組みががらっと変わるわけではありません。
 ある程度のバジェットになるとお金を出すのは企業などになりますが、企業というのはある信念と目的があってやっているわけです。そこと映画のコンセプトがうまく合致すれば、企業も出してくれるのかなと思うのです。ただの商品のプロモーションとかそういうタイアップではなくて、もっと深い方で合致すれば。そういう意味では企業経営者とか企業の広報、CSRなどの担当者も、もっと映画を、特にインディーズの映画を見て欲しいとすごく思います。
 メジャー映画というのはタレント力で、テーマの方が薄れてしまう。タレントを見てしまいますので、何も知られていない役者の方がいいな、その方がテーマの方を感じられるかなと思ったりもします。(了)

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【犬童一利(いぬどう・かずとし)作品歴】

<監督作品>
『フリーバイバイ』(2010年 脚本・監督)SHORT FILM FESTA NIPPON 2010入選
『SRS ♂ありきたりなふたり♀』 (2012 監督)氷見絆国際映画祭 優秀賞受賞/香川レインボー映画祭 入選/関西クィア映画祭 入選

<プロデュース作品>
『老獄―OLD PRISON―』(AP)2012年劇場公開、出演:アジャ・コング 他
『JUDGEMENT』2012年劇場公開、出演:横川康次/堀越のり/ガッツ石松 他
『紅破れ』2014年11月15日劇場公開、出演:渡辺裕之/坂元健児/柴田かよこ 他
『ヲ乃ガワ―WONOGAWA―』2014年11月1日劇場公開





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