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マーザ・アニメーションプラネット株式会社
前田雅尚社長 「欧米・日本双方の市場狙う」

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マーザ・アニメーションプラネット株式会社
前田雅尚社長 「欧米・日本双方の市場狙う」

2014年10月20日

前田社長(左)と篠原氏(右).jpg


 日本のCGアニメーションスタジオ「マーザ・アニメーションプラネット」が、米ソニー・ピクチャーズと共同で『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』を映画化すると発表した。同社はセガサミーグループの一員として主にゲームのCG映像制作を担ってきたが、この夏には米ロサンゼルスに映画の企画制作の拠点となる子会社スタジオを設立し、映画製作事業に本格的に参入する構えを見せている。

 現在は『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』に加え、初のオリジナル映画である『Robodog』(原題、以下『ロボドッグ』)の製作も進めており、16年春の世界公開を目指す。『トイ・ストーリー』のピクサー、『アナと雪の女王』のディズニーをはじめ、先行するCGアニメーションスタジオ勢の壁は厚いが、日本のスタジオが世界で存在感を示すことはできるのだろうか。これまでの経緯や今後の方針について、前田雅尚代表取締役社長(=写真左)、篠原宏康マーケティング&セールス ディビジョン・マネージャー(=写真右)に聞いた。



外国人スタッフも多数在籍

――当初はセガのゲーム映像制作部門だったということですが、会社設立の経緯を伺えますか。

前田 06年に前身となるCG映像制作部門が立ちあがりました。その頃はセガがハード事業をやめて、ソフトの開発に力を入れていこうと方針転換した時期です。また、ちょうど映画的なストーリーのあるゲームに注目が集まってきた頃でもあり、様々なスタジオからスタッフを集めてCG制作部門を新設しました。当初からスタッフの技術は高く評価されていました。ところが、ゲームに使われるのは、オープニング映像などほんの一部です。タイトル数にも限りがあるので、せっかく能力の高いスタッフが集まっているのに、十分に稼働していない状況がありました。それなら、映画製作も視野に入れていこうと。元々映画を作りたいと考えていたスタッフもいたので、09年に独立し、現在に至ります。

初音ミク「マジカルミライ 2014」ライブ
 © Crypton Future Media, INC. www.piapro.net / © SEGA Graphics by SEGA / MARZA ANIMATION PLANET INC. Organized by TOKYO MX / Crypton Future Media, INC.

初音ミクイベント.jpg
――現時点で、ゲーム制作と映画制作の売上の主軸はどちらですか。

前田 映画事業に関しては、映像制作を受託した13年公開の『キャプテンハーロック』(東映アニメーション製作)が初めてなので、現状、それ以外の売上はありません。ゲームのオープニング映像やイベント映像制作が多いと思います。

篠原 イベント用の映像も手掛けており、「初音ミク」のライブでCG映像制作を担当するなど、外注を受けたCG映像の制作を幅広くやっています。

――社員は150名ほどいらっしゃるということですが、独立当初は何人ぐらいだったのですか。

前田 当初は40名ぐらいだったと聞いています。減ることなく年々拡大しており、がらんとしていた会社(天王洲アイル)のフロアも、今は手狭になってきているほど(笑)。映画をやるとなると、やはりそのくらいのスタッフは必要です。

――外国人の社員もいるのですか。

前田 世界各国から、現在15~20名はいます。通訳スタッフも5~6人常駐しているので、コミュニケーションは問題ありません。

篠原 アメリカだけでなく、ヨーロッパからも来ていますし、中国、インドネシア、インドのスタッフも在籍しています。


LAスタジオと分業

ソニック・ザ・ヘッジホッグ (C)SEGA
「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」.jpg
――先日、米メジャーのソニー・ピクチャーズと共同で、セガの人気キャラクター『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』の映画化を発表されました。

前田 ソニーと共同製作し、基本的に50:50の投資です。ソニックはマリオと並んで欧米で非常に認知度が高く、うまく映画化を周知させればチャンスは大きいと見ています。全世界拡大公開を予定しています。

――また、この夏には米ロサンゼルスに子会社スタジオ「MARZA ANIMATION PLANET USA INC.」を設立されました。このスタジオの役割は。

前田 大まかに言えば、前工程をLAスタジオ、後工程を日本のスタジオが担うという形です。

篠原 LAスタジオは、現地のライターやプロデューサーと企画を練り、ストーリーを作り、プリプロダクションの手前までを担います。そして、CG映像制作を日本のスタジオが行ないます。

――なぜストーリーをアメリカで考えるのですか。

前田 当社はCGアニメーションを生業としているので、市場の大きい欧米をメインのターゲットに定めています。あちらでヒットさせるためには、あちらでストーリーを作る方が適している。日本とアメリカでは物語の作りが異なります。アメリカのアニメは、主人公の心の成長があり、最後はハッピーエンドになり、わかりやすい構成です。一方、日本のアニメは善悪をはっきりとさせない世界観であったり、大人の鑑賞にも耐えうるように複雑なストーリーが多いため、アメリカで理解されにくい傾向にあります。

――前工程と後工程は、割り切って完全分業制なのでしょうか。

前田 確かに前工程はアメリカでやるのですが、かなり日本と意見交換をしています。それに、後工程に入ると、前工程の担当者が日本に移住してきて引き続き作業に携わるので、そこはあまり問題ありません。

――1作品のために、移住するのですか。

前田 彼らは情熱がありますし、日本で生活することへの興味もあるようなので、快く来てくれます。新鮮なアドベンチャーだと考えているのではないでしょうか。もちろん色々文化の違いはありますが、けっこううまくやっていると思います。

篠原 ただ、当社は全て欧米マーケットを意識した作りの作品にしようという考えはありません。日本のマーケットでも成立するビジネスがあれば参画していきたいですし、ストーリーを作るチームは日本にもいます。

前田 これまで、日本ではCGアニメーションの市場があまり広がらなかったですが、幸いなことに最近は良い変化が見られています。ご存じのとおり『アナと雪の女王』が歴史的な大ヒットとなり、夏に公開された『STAND BY ME ドラえもん』も素晴らしいヒットになっています。我々も決して欧米1本に絞っているわけではなく、日本にも市場ができれば挑戦していく考えです。


日本とアメリカの融合体

前田社長(右)と篠原氏.jpg――前田社長は、昨年この会社の社長に就任されたのですね。

前田 13年7月入社です。その前はセガにいました。

――直前はセガ・オブ・アメリカに在籍されていたということですが。

前田 責任者をしていましたが、日々大変でした(笑)。ゲームの世界は、20年前は日本が世界を席巻していましたが、時代が変わり、現在アメリカ市場はアメリカの会社が牛耳っています。日本のゲーム会社は海外では苦戦気味だと思います。映画にしても、邦画を海外でブレイクさせるのは難しいでしょう。でも、アニメならその垣根は低いと思っています。マリオやソニックなら知名度も高く、欧米でヒットする可能性を秘めていると思います。

――マーザ・アニメーションプラネットに入られて感じた、会社の特色はありますか。

前田 あくまで「日本のスタジオ」という認識だったのですが、フタを開けると完全に日本とアメリカの融合体なのです。日本で作ってアメリカでマーケティングをやる、あるいはその逆もよくありますが、制作工程を2つに割って前工程をアメリカで、後工程で日本をやるという例はほとんどないと思います。しかも想像以上にスムーズにやりとりしている。これはチャレンジングだけどすごく面白いなと思いましたね。普通、日本とアメリカで一緒に何かをやるとモメて大変なことになるのですが(笑)。

――篠原さんは、『アメイジング・スパイダーマン2』の公開後にソニー・ピクチャーズから転職されたということですが、どういった経緯で入社されたのでしょうか。

篠原 当社が映画を作り始めて、オリジナル作品『ロボドッグ』の完成が見えてきて、次のステップとして配給会社とのマーケティングのリレーションが視野に入ってくるタイミングになってきたので、募集をしていたのです。そこに私が応募しました。会社として次のステージに移行する中で、映画の経験がある人間がいた方が良いという判断だったと思いますが、たまたま私の希望と合致しました。


オリジナル映画『ロボドッグ』

『Robodog』
「ロボドッグ」.jpg
――オリジナル作品の『ロボドッグ』はどんな映画ですか。

前田 2匹の犬の成長を描くバディストーリーです。完全オリジナルの作品です。

――事前に数分間のデモ映像を観ましたが、非常に海外を意識した作りである一方、日本らしさも少し感じました。何か意識しているところはありますか。

前田 「意識したい」とは思っています。画を見てそのように感じられたのは、コンセプトアートを全て日本人が考えたからかもしれません。ピクサーなどの大手と差別化するためにも、見た感じのテイストが完全にアメリカではなく、日本的な部分が含まれているのは良いと思います。それは、画のテイストだけでなく、ストーリーや世界観にも入ったらいいなと思っています。先ほど申し上げた通り、基本的にはアメリカのストーリーテリングだけど、ちょっと日本的な、スピリチュアルなものは入れたいと思っています。制作には多くの日本人が携わっているわけで、例え意識しなくても自然と入っている気もしますが。

篠原 最初から「これがマーザのカラーです」とは言えませんが、そういうものの積み重ねで、オリジナリティが出てくると思います。何作かやっていくうちに、「これってマーザらしいよね」と感じてもらえるようになればいいと思っています。

――オリジナル作品ならではのチャレンジをしていることはありますか。

前田 オリジナルをやる意義として、IP(キャラクター)を育てて、それを色々ビジネス的なメリットに変えていくことがあると思います。クリエイティブ面で言えば、メッセージ性があるものをやりたいなと思っています。ゲラゲラ笑って劇場の外に出てすぐ忘れてしまう映画ではなくて、「この映画を観て元気が出てきた」と思ってもらえるような映画作りを目指したいです。

――どこの配給で、いつ頃公開予定ですか。

篠原 配給会社は未定ですが、アメリカではメジャー、ミニメジャー含めて複数社と交渉中です。どこのスタジオも興味を持って話を聞いてくれています。公開は16年春頃を目指しています。

――『ロボドッグ』『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』以降の作品は決まっていますか。

篠原 まだ発表できるものはありませんが、色々な企画を検討して進めています。公開のタイミングやマーケットの動きを睨みながら作っていかないといけないので、慎重にいくつかのプロジェクトを動かしています。

――最後に、会社の今後の方針を教えてください。

前田 もともとは『ロボドッグ』のようなオリジナル作品の制作を念頭に立ちあがった会社ですが、それだけでなく、「ソニック」に代表されるようなライセンスタイトルも織り交ぜながら作品作りをしていきたいと考えています。ソニックを大ヒットさせて、あと10年間は左うちわで暮らす…というのが理想ですが(笑)。あとは、日本のメッセージ性と、海外のビート、ストーリー性を混ぜ合わせた作品を作っていく。そして、欧米、日本の双方の市場を狙っていこうと考えています。(了)


取材・文/構成: 平池 由典



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