なお、このインタビューは次の通り4回(2月25日~28日の連日)に渡って連載する。
・2月25日(火) 第1回「テレビ用吹替音声に絶大な支持」
・2月26日(水) 第2回「吹替の帝王、高額の理由は“声”」
・2月27日(木) 第3回「シュワ主演『コマンドー』圧倒的人気の秘密」
・2月28日(金) 第4回「次の発売候補タイトルは・・・」
第3回「シュワ主演『コマンドー』、圧倒的人気の秘密」
――『コマンドー』(=右写真)は当初5千セット限定発売予定でしたが、予約受付直後に1万セットに増産が決まりました。はじめは5千セットで十分との認識だったのですか。
神田 DVDの売上本数と照らし合わせて、ブルーレイの高額BOXであればこれぐらいかなと見込みました。実は、本当は3千セットくらいかなと思っていたのですが、諸事情もあり5千セットを狙おうと、ビクビクしながら出しました(笑)。
菅原 発売は13年4月18日発売で、情報解禁したのは前年の12月20日だったのですが、予約開始後すぐにストップしてしまい、「大変だ大変だ!」となりましたね(苦笑)。あの時は一気にネット上で祭りになりました。ただ、そのほとんどは「吹替ファン」ではなく「吹替の『コマンドー』ファン」なのです。彼らが一気に「吹替の帝王」を広めてくれました。ですから、「吹替の帝王」シリーズは第1弾に『コマンドー』を選んだのが成功の鍵だと思います。
神田 洋画の同一フォーマットの出し直しでは、おそらく1番の売れ行きだと思います。初ブルーレイ化ならともかく、すでに字幕版ブルーレイは出ているのですから。それが1ヵ月で1万本なので、過去の洋画では例がないと思います。
――『コマンドー』はなぜそんなに人気があるのですか。神田 実は我々も、「吹替の帝王」をきっかけに色々知ったのです。
菅原 もともと、ネットに向いていた商品と言えます。テレビ放映時に盛り上がる作品として『天空の城ラピュタ』が有名ですよね。「バルス」という台詞を言う瞬間に、みんな一斉に「バルス」とツイートする。その「実況」というのは、もともとツイッターではなく2chから始まったのです。そこで、毎回祭りになるのが『ラピュタ』と『コマンドー』なのです。
『コマンドー』はもはや1つのジャンル――『コマンドー』の、いったいどのシーンが盛り上がるのですか。
菅原 『コマンドー』は全編です。全編が名訳で溢れているので、その台詞を覚えて同時に実況する文化はもともと2chで何年も前からあり、ニコ生やツイッターなども加わって、何年もかけて浸透していった文化です。それは必ずしも吹替ファンではなく、意外とアニメ層やゲーマー層も参加しています。かつて劇場で観た層とは違う人たちの間でも盛り上がっているのです。
――映画の一般的な広がり方ではないですね。
神田(=右写真) 別の世界があったのです。「ネットでの実況」という文化において、『ラピュタ』と『コマンドー』は双璧をなすコンテンツのようです。それもただの遊びではなく、『コマンドー』の放送があれば会社を休んで2chに台詞を打ち込むという人もいるほどで、仲間意識も非常に強いのです。また、『コマンドー』のテレビ吹替は台詞自体にすごく遊びがあります。当時は規制もそれほどないですし、翻訳に遊び心があって、リズムがあって面白いのが愛される要因だと思います。
――今の吹替とは違うのですね。
神田 吹替翻訳される方の話では、当時はそういうふうに、テレビならではの特色を出して、画面を見なくてもわかるくらい面白いものを作ろうと意識していたそうです。逆に、今映画館で上映されている映画でそれをするのは大変らしく、できるだけ原文に忠実に吹き替えしています。テレビ用吹替と劇場用吹替は、演出が全く違うのです。
菅原 『コマンドー』は、そういった名訳に加え、それを演じる声優が玄田哲章さん(日曜洋画劇場版)という特別人気のある声優さん。しかも作品はシュワルツェネッガーのアクション。全部条件が揃っている稀な作品です。弊社にとって『コマンドー』は、もはや1つのジャンルなのです。「アクション」「SF」「コマンドー」というくらい(笑)。それぐらい、特殊な人気のある作品です。
――そんな形で人気が広がっているとは意外でした。菅原 一般的な知名度で言えば『ダイ・ハード』や『プレデター』の方が上ですが、「吹替の帝王」の売上に関しては、『コマンドー』の方が圧倒的に上です。『ダイ・ハード』3タイトルは各5千セット、『プレデター』は3千セットほど出荷しましたが、『コマンドー』は1万ですからね。『ダイ・ハード』や『プレデター』も十分ヒットですが、『コマンドー』は別格です。先ほど申し上げた、ネット上で『コマンドー』を盛り上げている層は、パッケージの価値をご存じの層なので、高額でも買ってくれたのだと思います。
また、日本で初めてシュワルツェネッガーの吹替を担当した屋良有作さん版(ザ・ロードショー版)がいいという人も多く、両バージョンで台詞が全然違うことや、声が違えば別のキャラクターに見えてしまうような、映画の新しい楽しみ方ができるのもこの商品の魅力だと思います。台本の読み方や専門用語も、ホームページで解説したり…。そんな細やかな点も受け入れられましたね。
――それだけユーザー目線で手間ひまかけて商品を作らないと、これだけヒットにはならないのでしょうね。
菅原 ビデオ業界は、もう何百万本も売れるような、出せば売れる時代ではありません。できることは何でもやる。音声も台本も探します。実は台本がないことが1番多いのですが…。どこにも残っていないのです。
神田 意外と声優さんは持っていないのです。なにせ凄い本数をこなしていますからね。ですから、制作会社さんや翻訳家さん、テレビ局など色々な方にアタックしています。幸いこれまでは見つかっていたのですが、3月に発売する『ロボコップ』だけはどうしても見つからず、唯一見つかったテレビ朝日版(日曜洋画劇場版)だけを入れています。吹替の台本は関係者しか使わないので、部数が限られているのです。
菅原 初めにアプローチした方はだいたい保存されてないですね(苦笑)。その後に何人かあたってやっと見つかります。リリースまでに時間がかかるのは、こういう事情があるのです。
『トゥルーライズ』は準備万端だけど・・・
――好調に売れているところを見ると、ユーザーはこの豪華仕様BOXに満足していることが窺えますね。
菅原 リクエストはたくさん頂くようになりました。第4弾の『ロボコップ』や第5弾の『スピード』も多かったですし、弊社作品で最も多いのは『トゥルーライズ』(=右画像)。やはりシュワルツェネッガー作品は鉄板ですね。でも、ダントツに多いのは弊社の作品ではないんです(苦笑)。実は、スティーブン・セガール主演の『沈黙の戦艦』『暴走特急』が圧倒的なのです。
神田 テレビ放送の回数も影響していると思います。80~90年代のアクションで、「また?」というくらい繰り返し放送され、視聴者に刷り込まれた作品が人気です。
――FOXさんの1番人気である『トゥルーライズ』は発売しますか。
菅原 実は、玄田哲章さんですでに追加収録は行なっています。『トゥルーライズ』に関しては準備万端です。ただ、ジェームズ・キャメロン監督が『アバター』の続編製作に忙しくてこちらまで手が回らず、なかなかブルーレイ化にGOが出ないのが実状で…。ファンの間では、「次は『トゥルーライズ』だ」という声も挙がっていますが、これはまだ時間がかかりそうです。
――セガール主演の『沈黙の戦艦』や『暴走特急』はワーナー作品ですね。
菅原 ぜひ他社さんにもテレビ吹替版収録のブルーレイを出してもらいたいです。何でも協力しますので。同業の方からは、当初は「FOX変なことやっているな」と思われていたかもしれませんが、この通り実績を見て頂けたと思います。『ビバリーヒルズ・コップ』も要望は多いですし、特にシュワルツェネッガー、スタローン、セガール作品はリクエストが多いので、作品をお持ちの会社さんは、ぜひ一緒にやりましょうという気持ちです。
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つづく)
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取材・文/構成: 平池 由典