「吹替の帝王」大ヒットの秘訣とは? そして次の発売候補は・・・ FOX担当者に聞く(第2回)
2014年02月26日
なお、このインタビューは以下の通り4回(2月25日~28日の連日)に渡って連載する。
・2月25日(火) 第1回「テレビ用吹替音声に絶大な支持」
・2月26日(水) 第2回「吹替の帝王、高額の理由は“声”」
・2月27日(木) 第3回「シュワ主演『コマンドー』圧倒的人気の秘密」
・2月28日(金) 第4回「次の発売候補タイトルは・・・」
第2回「吹替の帝王、高額の理由は“声”」――「吹替の帝王」シリーズの第1弾に『コマンドー』を選んだのはなぜですか。神田(=右写真) 『コマンドー』は以前、テレビ用吹替を収録したDVDが大ヒットしたのです。08年までは字幕版DVDのみで4万枚でしたが、テレビ用吹替版DVDをリリースした途端、08年から3年ほどで累計8万枚まで数字を伸ばしました。でも、ブルーレイ版には相変わらず字幕版しか入っていませんでした。テレビ用吹替版の需要があることはわかっていたので、ブルーレイでも出そうと。ただ、ファンの方はテレビ用吹替が収録されたDVDをすでにお持ちですからね。買い替えてもらうためには、中途半端な仕様では出せません。
そこで、ホームページの名称と同じ「吹替の帝王」という商品を作ってみようと。「帝王」と付けるからにはその雰囲気のある、簡単には手に入らないものを、時間と手間をかけて作ってやってみようとなりました。結果、テレビ朝日「日曜洋画劇場」版の吹替、TBS「ザ・ロードショー」版の吹替をどちらも収録し、当時の台本を同梱するコレクターズ仕様になったわけです。
――高額になった理由は何でしょうか。
神田 けっこう費用がかかるのです(苦笑)
菅原 「声」です。箱や台本を全部なくして安く売ってくれというファンも中にはいますが、実はテレビ用吹替音声が高くて、コストのほとんどはそれです。テレビ用吹替音声の権利処理は放送用途目的分しかクリアされておらず、パッケージに収録するためには二次使用料が発生します。パッケージ用に権利処理した二次使用料は制作会社を介して声優さん、翻訳者さんにお支払いされます。あと、素材探しに時間がかかるのもネックですね。 ※一部コメント修正しました(2月27日)
――音声素材や当時の台本のことですね。
菅原 大事に保管されていると思いきや、本当にないのです。制作会社そのものが今はないという場合もあります。フィールドワークスさんにご協力頂き、何とか探し出してはいますが。
神田 例え現存していても、完全な状態でない場合もあります。ビデオの民生機が出る以前の吹替は、「シネテープ」というテープに音声が録音されていました。映画は、最初はゴールデンタイムやプライムタイムで放送され、それから徐々に遅い時間に放送されるようになります。深夜だと、90分枠で本編は実質70分なんて状態になります。そして、昔はシネテープをはさみで切っていたのです。人気がある作品ほど、深夜に移ってシネテープが短くなっていきました(苦笑)。ですから、(完全版の)長いものを探すのが大変で。できるだけコアファンに納得してもらえる、1番長いバージョンを入れるようにしています。
――費用も手間もかかりますね。
神田 なぜこの企画が通ったのかと言うと、(川合・土合)社長が賛成してくれたんですね。企画案を出す際、「吹替を入れれば何本売れる」という目安は立てにくいのです。その商品を、これだけコストをかけて、高価格で発売するのですから、社長および本社のボスの理解ができないと無理です。売れなかったとなれば何千万円もの損になりますから。これは周りの理解があり、トップダウンで企画が通ったのが大きかったですね。
可能な限り追加収録――どうしても素材が見つからない場合はどうするのですか。
神田 諦めます。
――テレビ放送の時にCMでカットされた部分は字幕で対応するのですか。
神田 その声の主が今も現役で活躍されている方であれば、追加録音することもあります。『コマンドー』と『プレデター』(=右画像)、あと「吹替の帝王」シリーズではないですが『JFK』も追加録音を行いました。可能な限りやっています。でも、例えば『ダイ・ハード』の野沢那智さんのように、亡くなった方の声を別の声優さんで追加することは、ファンの気持ちに反すると思うのでそのまま(字幕で)出しています。ここ数年、大御所の声優さんが立て続けに亡くなったので、もっと早くこの企画を始めるべきだったと思っています。 ※一部修正しました(15年6月10日)
――残念ですが仕方ないですね。
神田 まあ、字幕のところは割り切っています。逆に「テレビ放送する時はここまで細かく編集していたんだ」という発見もありますしね。テレビ局の方の苦労が垣間見えるのです。局によって切り方が違うので面白いですよ。
菅原 『ダイ・ハード』だと、テレビ朝日版(日曜洋画劇場)は細かく切っていて、フジテレビ版(ゴールデン洋画劇場)はざくっと切られているのが、音声でわかります。ファンの間でもそれは知られているようで、局のカラーが見えて興味深いです。
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つづく)
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取材・文/構成: 平池 由典
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