なお、このインタビューは以下の通り4回(2月25日~28日の連日)に渡って連載する。
・2月25日(火) 第1回「テレビ用吹替音声に絶大な支持」
・2月26日(水) 第2回「吹替の帝王、高額の理由は“声”」
・2月27日(木) 第3回「シュワ主演『コマンドー』圧倒的人気の秘密」
・2月28日(金) 第4回「次の発売候補タイトルは・・・」
第1回「テレビ用吹替音声に絶大な支持」
――企画のスタートの経緯を伺えますか。
神田(=右写真) もともと、09年春に「吹替の帝王」という吹替版映画専門のホームページを立ち上げたのが始まりです。ここでは洋画の吹き替えをされていた声優さんや翻訳家さんらのインタビューを掲載しており、特に「テレビ放送版」の吹替に主眼を置いているのが特徴です。
――なぜHPを立ち上げたのでしょうか。
神田 『北国の帝王』という旧作を初DVD化する際、テレビ用の吹替音声も収録して発売したのですが、その時に映画のタイトルにあやかって「吹替の帝王」という名称でHPをオープンしました。
ですから、けして帝王ぶっているわけではありません(笑)。日本における洋画にとって、テレビの洋画劇場は切って離せない存在です。特に60年代後半から70年代に青春時代を送った人は、テレビで洋画を観て映画ファンになった人が多いのです。それ以前の、カラーテレビの普及前に映画好きになった人は、名画座などの劇場で観ているのでスタンダードが「字幕」です。でも、テレビで洋画になじんだ現在の40~50代は、映画館では字幕、テレビでは吹替、という楽しみ方をしていたわけです。結果、それから数10年経ち、子供の頃に聴いた声に心地よさを感じるようになり、当時を追体験したいという気持ちが出てきた方が増えている印象があります。そんな背景もあり、吹替版を収録しているDVDの宣伝の意味も込めて、ホームページを作って反応を見てきました。
――FOXさんはこれまでDVDにテレビ用吹替音声を収録していたのですか。
神田 DVDを発売した当初から、他のスタジオさんよりも「テレビ用吹替」を収録するようにしていました。他のスタジオさんは、VHS用に録った日本語吹替を使用していたと思います。テレビ用吹替は、テレビ放映尺に合わせて編集された映像に声をあてているので、完全ではないのです。例えば2時間の映画はテレビ放送用に15~20分はカットされてしまっています。ですから、その音声を使用すると、DVDの製品としては不完全なものなので、ビデオ用に新たに収録した吹替が使用されるのが一般的でした。
ところがFOXの場合、「テレビ吹替の方が嬉しい」という多くのファンの声を受けて、当時の担当者があえてテレビ用吹替を入れていたのです。テレビでカットされた部分だけは字幕に変わってしまうので、不完全なものなのですが、ファンのために出していました。
――『北国の帝王』は吹替版収録の要望が多かったのですか。
菅原 まだDVD化されていない昔の作品を、ユーザーからリクエストを募ってDVD化する「リクストライブラリー」というレーベルを当社で展開しているのですが、その第1弾ラインナップの中の1本が『北国の帝王』でした。この作品は確かに吹替の要望が多く、ファンにとってテレビ用の吹替を担当された小林清志さんや富田耕生さんのが印象強いそうなのです。
『北国の帝王』『華麗なる賭け』が大ヒット
――売れたのですか。
神田 相当売れました。洋画のカタログ(旧作DVD)の値段がどんどん下がる中、3,800円のハイプライスで出して1万2千本売る大ヒットでした。
――そのヒットで、吹替版ビジネスにチャンスを感じたのでしょうか。
菅原 『北国の帝王』は初DVD化だったので、「テレビ用吹替」のパワーだけではないと思います。一般の方からのリクエストから商品化が決まるという企画性も良かったと思います。ただ、同じくテレビ用吹替を収録して同時にリリースした『華麗なる賭け』DVDも1万本以上出荷する大ヒットとなったのです。
神田 リクエストライブラリー第1弾は、ほかにもいくつかリリースしたのですが、テレビ用吹替を収録したその2タイトルが飛び抜けた成績でした。「吹替だから何本売れた」と数値化はできませんが、明らかに他と差があったので、カタログユーザーの間で、テレビ用吹替版が「買う」「買わない」の大きな判断材料になっていることは間違いないと思いました。
菅原 ホームページの「吹替の帝王」も、今では数あるFOXのカタログ商品サイトの中ではダントツのアクセス数を誇っています。あまりFOX色を出さずに、声優さんや翻訳家さんが携わった作品なら他のスタジオさんの作品でも掲載したことが良かったのだと思います。
神田 ただ、いくら現場が「テレビ用吹替版は当たる」と確信しても、会社、米本社から商品化のOKが出なければいけませんし、まず素材があるのかどうか。そこからが、シリーズができるまでの長い道のりになりました。
(つづく)
取材・文/構成: 平池 由典