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有望な脚本家発掘へ MPA主催「フィルムワークショップ」レポート

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有望な脚本家発掘へ MPA主催「フィルムワークショップ」レポート

2013年10月30日

フィルムワークショップ.jpg


 モーション・ピクチャー・アソシエーション(MPA)主催による、映画の脚本を題材とした「フィルムワークショップ」が10月20日にデジタルハリウッド大学駿河台キャンパスで行われた。(共催:デジタルハリウッド大学)

 当日は、映画脚本のシノプシス(あらすじ)コンテストを開催。128の応募作品の中から事前に選出された30作品の作者が参加し、それぞれの作品についてプレゼンした。

 厳正な審査の結果、最優秀賞は大迫龍平さん(東京都、25歳)の『時次郎』が受賞。大迫さんには来年11月の「ハリウッド5日間の旅」がプレゼントされ、ここでハリウッド映画業界のプロデューサーらに作品をプレゼンする機会が与えられる。




最優秀賞『時次郎』は女系役者の男性描く物語

 シノプシス・コンテストには、アメリカ映画協会(MPAA)国際政策渉外担当シニア・エグゼクティブ・ヴァイスプレジデントのマイケル・P・オリーリー、MPAアジア太平洋プレジデント&マネージングディレクターのマイケル・C・エリス、MPAアジア太平洋本部コミュニケーション・ディレクターのスティーブン・ジェナー、コロンビア大学芸術科大学院教授(映画学科長)のアイラ・ドイッチマン、ドキュメンタリー映画監督のマリアム・エブラヒミ、映画監督の新城毅彦、C&Iエンタテインメントプロデューサーの八尾香澄、そしてワーナー・ブラザース映画副代表の久松猛朗の各氏が審査員として出席した。

 はじめに、30名の作者と審査員8名が4つのグループに分かれ、各テーブルで審査が行われた。参加者には各5分のプレゼン時間が与えられ、順に作品のあらすじやコンセプトを披露。慣れない場に緊張の面持ちの参加者がほとんどだったが、審査員からプレゼンのコツをアドバイスされながら、各自作品の魅力を説明した。
 計1時間のプレゼンが終了すると、各グループから優秀作品が2つずつ選出され、最終選考に駒を進めた。

受賞者.jpg 最終選考は、8作品の作者が登壇し、審査員、参加者、聴講者全員の前で順に作品を説明。最優秀賞を獲得した大迫さん(=写真左)の『時次郎』は、戦時中に沖縄の捕虜収容所に行われた公演に臨む女系役者の男性を描く物語。主人公は小さな頃から大衆演劇の女形(おやま)に憧れて芸の道を目指すが、第2次世界大戦が勃発、徴兵され、戦地沖縄で米国の捕虜収容所に入れられる。希望を失った主人公だが、沖縄の楽器「三線」の名手である男性と出会い、収容所での舞台公演実現に向けて動き出す。また、主人公は男性に恋心を抱くようになる。そして公演当日を迎えるが、突然、三線の男性の姿が見当たらなくなる。実は、男性は公演に注目が集まり、監視の目が薄くなるタイミングを見計らい、脱走を図ろうとしていたのだった。その事実を知った主人公はショックを受けるが、愛する人を収容所から逃れさせるため、命がけで舞台に立つ―。

 本作について、大迫さんは「つい最近、友人がゲイであることを告白してきて、マイノリティを取り巻く状況を考える機会があった。そしてもう1つ、沖縄の捕虜収容所で実際に公演が行われていたことを知り、本作を考えついた」と説明。決して珍しい時代背景ではないが、「女の子になりたかった」男性が主人公という特異な設定を、捕虜収容所で行われていた公演という知られざる史実とうまく組み合わせ、ドラマチックに仕立てた物語は非常に興味深く、映像栄えするイメージも感じとれた。

 また、審査員の間で『時次郎』の次に評価の高かった作品として、小原拓万さん(=写真右/大阪府、29歳)の『じじいラッパー』が特別賞に選出された。ひょんなことからラップで孫と対決する老人を描く異色作で、予想外な方向に転がっていく展開の広がりは8作品の中でも際立っていた。


MPA、来年以降も開催継続へ

オリーリー氏.jpg MPAでは、来年以降もこのフィルムワークショップを継続的に開催していく意向だ。前出のマイケル・P・オリーリー氏(=右写真)が本紙のインタビューに応じ、「世界は急速に変化しており、より多くの人が映画制作に携われるようになった。そんな中で、新しい若いフィルムメーカーの発掘を強化していく必要があると思い、コンテストの開催を決めた。日本では今年からスタートしたが、アジアではすでに06年から同様の試みを行っている。これまでに香港、中国、シンガポール、韓国で実施し、インドネシアでも開催する運びだ。世界各地でも行っているが、映画界での台頭が著しいアジアでの開催に最もエネルギーを注いでいる。日頃、コンテンツの保護活動に力を入れている我々がこのような取り組みを行うのは意外かもしれないが、映画やTV番組を制作する能力を高めるという目的に違いはなく、将来的には同じところを目指していると考えている」と開催の経緯を説明し、今後も「ぜひ続けていきたい。参加して頂いたらお分かりになると思うが、参加者からは非常に良い反応を得られている。今回は重要な第一歩だ」とした。
 また、映画業界に対するメッセージとして、「現在は、かつてないほど大規模に(ネットなどを通じて)自分の物語を人々に伝えることができる時代になっている。それは大変幸運なこと。それゆえに、今回参加している若い人の熱意も感じるし、その熱意を心強く感じる。彼らこそ今後の歴史を書いていく人材だ。映画業界の人たちには、そんな彼らのクリエイティブのプロセスを尊重して、映像制作を続けてもらいたい」と語った。

 なお、このフィルムワークショップではシノプシス・コンテストだけでなく、審査員を務めた各氏によるプレゼンも行われ、参加者は熱心に講師陣の話に耳を傾けた。

エリス氏.jpg 主催者を代表して挨拶したマイケル・C・エリス氏(=右写真)は、「この催しは06年に北京で初めて開催し、若い女性のライター(シュエ・シャオルー)が最優秀賞を受賞した。彼女はハリウッドでシノプシスをスタジオのプロデューサーらにプレゼンしたが、この時は(権利の)購入には至らなかった。しかし、2年後にジェット・リー主演で映画化され、『オーシャン・ヘブン』(邦題『海洋天堂』)というタイトルで上海映画祭のオープニングを飾った。彼女はさらに、アメリカとの合作『ファインディング・ミスターライト』という作品を監督し、500万ドルの製作費ながら、国内で興収1億ドルを叩きだすヒットとなり、中国でもトップの脚本家になった。彼女は『ここまで来れたのは、あのフィルムワークショップでの受賞に勇気づけられたから』と話していた」と語り、ワークショップの実績を強調した。


「メジャー会社でオリジナル企画は大変」(新城監督)

ドイッチマン氏.jpg アイラ・ドイッチマン氏(=右写真)は、「外国の観客を対象としたインデペンデント映画の脚本作り、開発、そしてマーケティング」と題したプレゼンを行い、海外で成功するための作品作りのポイントを語った。それによれば、まずは「オリジナルであること。他のものと違うこと」。さらに、「まず国内市場でペイできる作品作りを目指すこと」や、「米国市場はあくまでおまけであり、考えないこと」、「どんな国の人でも理解できる普遍的なストーリーを書くこと」、「海外の人が旅をしているような気分になれる、自国の文化を舞台とする映画を作ること」、「SNSを駆使し、○○監督の作品、というように、自分のファンを作ること」、「劇場公開以外の選択肢も考えること」などを挙げた。ちなみに日本の映画では『Shall we ダンス?』が米国で成功した好例だとし、「孤独、後悔、パッション。どの文化でも理解できる普遍的な内容だ。しかも、アメリカ人は今まで観たことのない日本の生活を目の当たりにした」と成功の要因を分析した。

エイブラヒミ氏.jpg 続いて、アイラ・ドイッチマン、新城毅彦、マリアム・エブラヒミ、八尾香澄の各氏が「映画の脚本開発―脚本家、監督、プロデューサーの視点から」と題したプレゼン&パネルディスカッションを行い、それぞれが関わる作品について説明した。

 マリアム・エブラヒミ氏(=写真右)は、アフガニスタンの女性刑務所内を取材したドキュメンタリー映画『塀の中の“自由”~アフガニスタンの女性刑務所~』について語り、「ドキュメンタリーは、長い間調査し、現地を訪れて資料を集めることが大事。映画の製作よりも調査の方が長いのが普通だ。ドキュメンタリーに物語はないが、資料を分析し、いいストーリーになりそうなものを集めるのがポイント。例えば、20時間もインタビューをした人がいたが、その人ではドラマチックな話にはならないため、ボツにしたこともあった。取り上げる人物に圧倒的な存在感があることも大切だ」などと語った。

新城監督&八尾氏.jpg 新城毅彦監督(=写真左)は八尾香澄プロデューサー(=写真右)と共に登壇し、『潔く柔く きよくやわく』について説明。八尾氏は「いくえみ稜さんの原作を映画化するために、出版社の集英社には半年から1年近く通った。ライバルも多かったが、幸運にも私たちが提案したシノプシスを先生に気に入ってもらい、映画化権を取得することができた。次に幹事会社を探す中で、たまたま、日本テレビの畠山(直人)さんも本作の映画化に向けて新城監督にオファーしていたことがわかり、運命的に、一緒にやらせてもらうことになった」と述べ、原作との変更点について、新城監督は「新たに2人のキャラクターを作った。この2人は、メインキャラクターの2人(のバックグラウンドを)を膨らませ、ストーリーを厚くするためには必要な存在で、主人公を育てるためのキャラクター」と語った。
 また、原作ものの映画が多い日本の映画市場について、「メジャーの映画会社は成功値の高いものをチョイスする必要があり、人気のある原作ものを映画化する傾向がある。オリジナルをやることはメジャーの間では大変になっており、宮藤官九郎さんのようなネームバリューのある人がインパクトのある企画を立て、それにたまたま賛同してくれる人がいないと厳しいのが現状だ」と語った。

 コロンビア大学の教授を務める傍ら、エマージング・ピクチャーズ社のマネージング・パートナーという顔も持つドイッチマン氏は「今は10年かけて企画している作品がある。原作は米国でベストセラーになったノンフィクション。ある女性ジャーナリストが、米国の最低賃金で本当に生活ができるのかを取材して書いたもので、会う人々が実にユニーク。いい映画になると思っていた。ただ、この作品には主人公がいなかった。取材している筆者を主人公にするのはつまらないので、フィクション化する許諾を得て、実際に職を追われた元ジャーナリストが体験する貧しい生活を描く物語にした。なかなか良い脚本ができず、今は3人目の脚本家に書いてもらっている最中だ」と新作の進行状況について語った。

久松氏.jpg そして、ワーナー・ブラザース映画の久松猛朗副代表(=右写真)は、「ワーナー・ブラザース・ジャパンが国内製作を行なう場合、どのような基準で脚本を選んでいるのか」と題したプレゼンを行い、『るろうに剣心』や『藁の楯 わらのたて』といったヒット作を生み出す同社の作品選びの方針を語った。
※久松氏のプレゼン内容は「日刊文化通信速報 映画版」(10月30日付)に詳細を掲載。

 今回のフィルムワークショップは午前9時から午後5時半までの長丁場であったが、各国の映画業界の最前線に立つ講師陣が脚本の在り方について語ることにより、参加者にとって刺激的な1日になったに違いない。 了


取材/構成・文 平池 由典



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