上映中にシンキングタイム、客電も点灯
ナゾキネマ『マダム・マーマレードの異常な謎』は、世界的な人気を誇る体験型エンターテイメント「リアル脱出ゲーム」の要素を映画に取り込んだ意欲作。テレビ東京と、「リアル脱出ゲーム」を仕掛けるSCRAPがタッグを組んで企画・製作した。(右写真=五箇氏)
「この企画は、私が所属する(テレビ東京の)映像事業部と、イベント事業部が共同で行っています。元々、イベント事業部がSCRAP代表の加藤(隆一)さんとお付き合いがあり、『リアル脱出ゲーム』の映画化を検討する中で、私たちが入らせてもらいました。話し始めたのは昨年の夏頃だったと思います。テレビ東京としても、ODS(イベント上映)に積極的に取り組んでいきたいと考えていましたし、上映して頂くTOHOシネマズさんも興味をお持ちだったので、企画がスタートしました」
物語は、30年前に逝去した映画界の巨匠・藤堂俊之介監督が遺した短編映画3本の中に散りばめられた謎を、主人公のマダム・マーマレードが解き明かしていくもの。観客は、マダム・マーマレードらと共に短編3本を順に鑑賞し、謎解きに挑戦していく。
「お客さんには入場前に解答用紙を配布し、映画を観てから答えを記入してもらいます。短編3本の上映中にはメモができるように照明が点き、シンキングタイムも設けます。実は、ライトを点けるかどうかは最後まで迷ったのですが、客電が点くことで『ここからメモをとる時間ですよ』というメッセージになると思いました。真っ暗にすると、完全に映画の世界に入り込んでしまいますしね。もちろん、映画作品としてはそうあるべきですが、『謎を解きに来てください』と言っている以上、客電が点くというイベント感も含めて、ナゾトキネマという新しい企画であることがお客さんに伝わればいいなと思っています」
ちゃんとした映画を作ることができる3監督
制作には、中村義洋、鶴田法男、上田大樹の実力派3監督が参加。上田監督は女子中学生の淡い初恋を描いた短編『つむじ風』、鶴田監督は鏡の世界に迷い込んだ女性をめぐるホラー短編『鏡』、中村監督は老婆と少女の心温まるやりとりを描いた短編『やまわろわ』(=右画像)を担当。上田監督はさらにマーマレードパートのメガホンもとった。
「イベント上映とはいえ、映画館で上映される作品です。もちろん『映画を観る』という気持ちで来場される方がほとんどでしょうし、その人たちが『なんだよ、イベント感だけで映画の内容はつまらないじゃないか』とガッカリしないよう気をつけました。元々、SCRAPの加藤さんが『巨匠が3本の映画を残していて、そこに謎が隠されている』というコンセプトをお持ちだったので、巨匠が遺したというからには短編3本ともクオリティをきちっとしていなければいけないと考えていました。そこで、ちゃんとした映画を作ることができる3監督に集まってもらったわけです。上田監督とは以前から交流があり、映像を加工するセンスに優れた人なので、一度長編でご一緒したいなと思っていました。中村監督は、私が中村作品を好きだったのでお願いしました。鶴田監督は以前『ケータイ捜査官』というドラマで監督をしてもらったことがあり、今回もぜひとオファーしました。短編3本はそれぞれ『恋愛もの』(つむじ風)、『ホラーもの』(鏡)、『人情もの』(やまわろわ)ジャンルに分かれていますが、もちろん鶴田さんにはホラーをお願いしました。中村さんと上田さんにはほかの2つのどちらを撮ってもらうか考えましたが、中村さんは『人情もの』の方が良いイメージがあったので、そちらをお願いしました」
3本の短編に謎に散りばめられた謎を解く主人公、マダム・マーマレードに扮したのは、今人気急上昇中の若手女優・川口春奈。そして、相棒でマーマレードを陰で支えるマダム・バルサミコを個性派女優の高畑淳子が演じている。奇妙なコンビが織りなすコミカルな掛け合いも、本作のユニークなポイントの1つだ。
「マーマレードはまだ幼く、天才少女で、解けない問題はない。抜きんでて頭が良いが、あまり人のことをわかっておらず、複雑な人間関係が出てきた時に困ってしまう弱点がある、というキャラクター設定があります。そこで、若くて、幼さが残っていながらも、毅然とした態度ができる女優さん。なおかつ、同世代の子が可愛いなとか、観てみたいと思ってくれる若手女優さんということで、川口さんをキャスティングさせてもらいました。一方、バルサミコは、マーマレードの後見人。若いマーマレードを温かく見守りながら、二人のやりとりを笑えるものにできる人。そう考えた時に、高畑さんが良いと思いました。実際、撮影では面白いアドリブをちょくちょく挟んでくれたので、正解だったなと思いました。ちなみに、これは映画の中では描かれていない裏設定なのですが、『マダム・マーマレード』という名前は屋号のようなもので、何代も引き継がれていくものなのです。バルサミコは元マーマレードで、今は引退したという設定。現マーマレードは、バルサミコの孫という位置づけです」
映画館の新たな使い方を提供
この映画は、同じく「リアル脱出ゲーム」を映像化した深夜TVドラマ「密室美少女」とも連動した展開を行っている。果たして、謎解きにはどれくらいの人数が参加しているのだろうか。
「『密室美少女』は、放送後にWEBの公式サイトに謎解きの答えを投稿してくれる参加者が合計50万人いました。1話平均だと5万人くらいです。そのうち、正解者は毎回7千~8千人いましたね。深夜番組でしたが、想定以上の参加者数だったので、テレビ東京としては新たな仕組みを作ることができたんじゃないかと考えています。参加者の傾向としては30代ぐらいまでの方が多く、男性よりも女性が多いようです。映画館にもこの人たちが足を運んでくれると嬉しいですね。ちなみに、映画版の謎は3~5%くらいの人が解けると想定しています。正解者の方は、『解答編』のエンドロールに名前が載ります」
配給は映画会社に委託せず、テレビ東京が自社で手掛けていることも注目点。この企画にはどのような思いが込められているのだろうか。
「映画館を使った新しいイベント、アトラクションを目指したのが発端です。昨年は『ゴッドタン』という番組から派生した『マジ歌選手権』のライブビューイングも開催しましたが、映画館の新たな使い方を我々テレビの人間から提供できないかなと思い、ODSに対して前向きに取り組んでいます。ナゾトキネマもその一環です
本作の場合、チケットの販売も工夫しています。通常、シネコンで映画を観る際は、数日前から劇場窓口および劇場ホームページで座席指定ができるようになりますが、本作は、公開のかなり前からプレイガイドでチケット販売し、時間と座席も指定する形をとりました(当日劇場窓口も可)。アーティストのライブやスポーツの劇場生中継と同様のスタイルを取り入れることで、イベント上映の特長である、お客さんの一体感が出ればいいなと思っています。配給業務に関しては、特殊なイベント興行なのでうちでハンドリングすることになりました。ただ、劇場のブッキングはTOHOシネマズさんにお願いしており、25サイトでの上映が決まっています」
目標興収や続編の構想についてはこう語る。
「目標は、『出題編』と『解答編』を合わせて、興収1億円ぐらい行くといいですね。もちろん、お客さんが入れば続編を作りたいです。実はテレビドラマ化もありだなと思っているんです。川口さんと高畑さんのコンビネーションが良いので、2人が毎回謎を解いていくシリーズにできたらいいなと考えています」 了
インタビュー/構成・文:平池 由典