――ノウハウの面で、大変だったことはありますか。
桑園 ブルーレイを同時に発売しなければいけないのが大変ですね。ブルーレイは、マスターを作るのに1ヶ月半から2ヵ月かかります。そのため、(作品の)完成の締切日をしっかり守ってもらわないといけません。上映開始日は、ブルーレイの発売に合わせて決める感じですね。例えば3月発売ならブルーレイのマスター納品日は、年末、クリスマス前までには絶対に上げておかないといけません。そこは制作サイドが大変な点だと思います。あと、字幕の言語を5か国語6言語収録したことも大変でした。
――ほかにありますか。桑園 (パッケージを販売する)店舗さんの懸念を払拭することです。一般店で販売する前に、劇場でブルーレイを売ってしまうわけなので、営業サイドとしては不安があったようです。
――実際に影響はあったのですか。
桑園 むしろ良い影響があったように思います。第一章の劇場でのブルーレイ販売は5000本限定だったのですが、初日で完売してしまいました。そこで購入できなかったお客様が、一般店で多く購入してくださったようです。
――劇場の物販コーナーは大変でしょうね。桑園 第一章の5000本も、最初はどれだけ売れるかわからなかったですから…。むしろ余るんじゃないかとさえ思っていたぐらいで、本当に手探りでしたね。毎回、1つずつ前回からの課題をクリアしていっている感じです。第一章は、一般販売用のブルーレイを劇場で先行販売しただけですが、第二章の時は一般販売と劇場限定を差別化するために特典物を付けたり、毎回色々な施策を打っています。
――同時に配信も行いました。
桑園 『UC』の企画当時は弊社も配信にも力を入れ始めた頃で、劇場上映と同タイミングで実施することになりました。懸念する声もありましたが、ブルーレイが即日完売したり、プラモデルも売れるなど劇場サイドでは物販も好調で、配信による負の影響は見られません。今となっては「上映したい」と言ってくださる劇場さんも多いです。
一巻につき20万本超の売上
――DVD、ブルーレイはどのくらい売り上げていますか。
桑園 現在は各巻最終で20万本を超えるほど売り上げており、初動に関してはどんどん伸びています。最新話が上映&発売される度に過去作の追加注文も入るので、累計では大きな差はないと思います。
通常のシリーズ作品の場合、話数が進むにつれて売上が落ちる傾向にあるのですが、『UC』は安定して20万本以上を売り上げているので、珍しいパターンだと思います。DVD市場が盛況の時代は10万本を超える作品はありましたが、この企画が始まった頃は、例えガンダムシリーズでも10万本を超えるのは難しくなっていました。そんな中、各20万本を超えているので、数あるガンダム作品の中でも上位の売上を誇っています。
――第一章の上映時、メイン館である新宿ピカデリーでは、公開の数日前から土日が全て満席になっていて驚いた記憶があります。
桑園 客層を見ると、最初は「機動戦士ガンダム」世代の中年男性の方が多かったですが、最近は若いカップルや友達同士、親子連れも多いので、ファン層の広がりを感じています。
――その理由は何でしょうか。桑園 当初『UC』は子どもには難しい内容だと思っていましたが、『UC』の戦闘シーンを観て子どもたちが「かっこいい」と言ってくれるのを見ると、年齢はあまり関係ないのかなと。その作品の面白さが広がってきているのだと見ています。思えば、「機動戦士ガンダム」を好きな世代の人も最初は子供の時に観ていたわけで、そう考えると今の子にもガンダムの魅力は十分伝わるのでしょう。
最終章は35周年と一緒に盛り上げる
――ちなみに上映スケジュールはどのように決めていますか。
桑園 なかなか「半年に1回」というスケジュールは守れていません(苦笑)。あのクオリティを保つためには、きっちりと期間を決めるのが難しいです。
――第六章は今年の3月でしたね。そして最終の第七章は…。
桑園 来年の春予定です。次は尺が伸びるのです。今までは約60分でしたが、次は90分程度を予定しています。
――上映時間が長くなると、一日に上映できる回数も減りますが、やはりこれまでと同じ2週間限定上映でしょうか。
桑園 土日に上映できる回数も限られてくるので、上映期間については色々な可能性を検討したいと思っています。
――先ほど、サンライズさんは企画当初4本のOVAを想定していたとおっしゃっていましたが、最終的に7章に拡大ですね。
桑園 企画の発案時は4章で、正式に発表した時は6章予定でした。ただ、6章では終わらなさそうだったので、もう1章製作することになりました。ちょうど来年はガンダムが35周年なので、一緒に盛り上げていけるのではないかと思います。
――このビジネススキームについて、どのようにお考えですか。桑園 まずはやってみて良かったと思います。バンダイナムコグループとしては、『宇宙戦艦ヤマト2199』やこの後スタートする『攻殻機動隊ARISE』も同様のスタイルで進めており、一つの手法として確立されつつあります。『攻殻機動隊ARISE』の上映方法を発表した時も、「UC方式ですね」と言われるくらい、お客さんの中に浸透したビジネススキームになっているので、成功だったと思います。
特典物の付け方や、公開期間も他の作品の参考になっているので、パイオニアとしてやれたのは良かったです。だからこそ次(第七章)はまた新しいことをやりたいと思っています。
――『UC』以降のガンダム新作の企画はありますか。
桑園 宇宙世紀ものをアニメ化する予定は既に発表しています。ただ、いつどういった形でリリースするかは未定です。TVなのか、OVAなのか、劇場なのか、配信なのか…。まずは『UC』に全力投球です。 (了)
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インタビュー/文・構成:平池 由典