報道以外のメディアのもう一つの役割、エンターテイメント性が活きてきた。
甲子園での東北高校の奮闘やサッカーのチャリティマッチなど、被災地でテレビ観戦あるいはラジオで楽しんだ方たちがたくさんいた。ライフラインの情報が求められる一方で、娯楽のニーズが次第に高まっている。
衛星放送協会の和崎信哉会長は3月30日夕、総会後に記者会見を行い、番組表彰「オリジナル番組アワード」の創設を正式に発表した。コンテンツ製作に切磋琢磨しようとの狙いだ。その審査委員長を務めることになったノンフィクション作家の吉岡忍氏は福島原発周辺の避難所などの取材から戻ったばかりで会見に出席し、こう語った。「やはり人は、歌やドラマ、映画を求めているのだ」と。それは、現地で聞いた不思議な光景として次のように話した。
数日前、避難所にある1台の大型テレビに映し出された、美空ひばりの歌や映画「男はつらいよ」を被災者たちが熱心に見て楽しんでいたという。被災地の誰かがDVDを持っていたらしい。避難所生活に疲れがピークに達しているだろうが、吉岡氏は「人々は災害から生き直すことをしている最中にあるのでは」と話し、その手助けとなるテレビの役割を説いた。メディアも表現者も大震災の惨状に圧倒されたが、コンテンツを通じた自立を求めた。有料多チャンネル放送の活性化に向け、衛星放送協会のアワードが、そのきっかけになればとも話した。
テレビCMも通常CMが流れ始め、賑やかさが戻ってきた。平常感が求められる中で、CMを通してもメディアの役割が一層身近に感じられる。
ただ、このCM関連では、CM差し替えの料金問題が業界で浮上している。広告主のCM自粛もありACジャパンのCMが大量に流れた。有事の際のCM差し替えは、通常CMが放送されなくても広告主の料金負担は生じる。だが今回は長期にわたる前例のない事態。阪神大震災時とは違う。このため、広告主の団体である日本アドバタイザーズ協会は民放連等に配慮を申し入れたようだ。会員の広告主に対しては先頃、放送局、広告代理店、広告主それぞれが被災者の立場にあって、その負担を分かち合う交渉をするよう促している。協会はまた、こうした非常時の対応について民放連、日本広告業協会(広告代理店の団体)の3者で協議したい意向を示している。一方、放送局側も数日間のCMなし報道特番放送で収入減の打撃を受け、さらに今後の広告営業が懸念され厳しい事情にある。CM出稿することは有事の際CM差し替えのリスクを有することが前提的でもあり、どこまで譲歩できるか。
広告主と代理店と局の3者で成り立つ民放メディア。原発問題の緊迫は続いているが、情報とエンターテイメントでニッポンを元気づけるのはこれからが本番。3者間の折り合いが期待される。