「第53回グラミー賞授賞式」が13日夜(日本時間14日)、米ロサンゼルスのステイプルズ・センターで行われた。
主要3部門の中で“最高賞”と言われる「年間最優秀アルバム賞」には、アーケイド・ファイア「ザ・サバーブス」が輝き、「年間最優秀レコード賞」と「年間最優秀楽曲賞」はレディ・アンテベラム「Need You Now~いま君を愛してる」が受賞した。
そういった「グラミー賞」の受賞作品の中で、最も注目されていたのが「最優秀新人賞」だった。今回、ノミネートされていたのはジャスティン・ビーバー、ドレイク、フローレンス・アンド・ザ・マシーン、マンフォード&サンズ、エスペランサ・スポルディングの5組。
で、この顔ぶれで「本命視」されていたのがジャスティン・ビーバーだった。
ところが…。何と、受賞したのは26歳のジャズ・アーティスト、エスペランサ・スポルディング。一瞬、私は耳を疑った。それは、会場に詰めかけた聴衆も同じだった。エスペランサの名前が呼ばれると一瞬、会場からは驚きとどよめきの声があがったのだ。その聴衆の反応に思わず、私の周囲からは「ちょっと、彼女がかわいそう」なんて同情まで出るほどだった。それほど「意外な」受賞だったのだ。
エスペランサに対して、下馬評では「最優秀新人賞」が確実視されていたジャスティンは、弱冠16歳のスーパースター。「もし受賞したら、男性ソロ・ボーカリストとしては最年少のグラミー賞を受賞だったのに…」と現地の音楽関係者。
もっとも、ジャスティンの「最優秀新人賞」の受賞については、審査員の間からは「若過ぎる」と言った悲観的な意見もあった。だが、最終的には米国内での圧倒的な人気を持つジャスティンに押し切られると思われていた。ロス在住の音楽記者の間でも「今回は、ジャスティンが受賞するのは当然だろう」と評していたが…。
実は、ジャスティンの「最優秀新人賞」受賞というのは、「グラミー賞」の切実な事情があった。地元の音楽関係者が言う。
「『グラミー賞』の視聴者は04年以降、減少の一途を辿っていたんです。しかも、06年にはFOXテレビで放映している『アメリカン・アイドル』にまで迫られてしまった。それが、昨年の52回はマイケル・ジャクソンの追悼コーナーや、最優秀アルバム賞にアメリカン・アイドル出身の当時19歳だったテイラー・スウィフトが最年少で受賞したことがあって、前年よりも大幅に視聴者がアップし、04年以来の高視聴率になった。そういった意味から会員の中には、今後の『グラミー賞』の流れはティーン・エイジャーの活躍と断じる声が高まっていたんです」
ジャスティンは、12歳の時に投稿した「YouTube」がキッカケでデビュー。2年前の09年11月に発売されたデビュー・アルバム「My World」は新人ながらも全米で100万枚を突破。そして、昨年3月に発売したセカンド・アルバム「My World2.0」は、ビルボード誌の全米総合チャート1位に輝いた。この記録は、スティービー・ワンダーに次ぐ最年少記録として大きな話題になった。今回の「グラミー賞」で、ジャスティンは2部門にノミネートされていた。
彼の米国内での人気は、彼自身が映画化もされたことからも分かる。この映画は、ジャスティンの過去から現在までのプライベート映像とNYマディソン・スクエア・ガーデンでのライブ・パフォーマンスなどをもとに制作した3Dドキュメンタリー映画「ジャスティン・ビーバー ネヴァー・セイ・ネヴァー」。今回の授賞式に合わせ2月11日から全米、カナダで公開された。
要するに、誰もが「最優秀新人賞」受賞は「当然」だと考えていたわけだ。
「審査員の中には、新しい時代の『グラミー賞』を訴える声もあるんですが、一方で長老の人も多く、なかなかスイッチしない部分があるのかもしれません。全体的にはカントリー志向も根強かったりしますからね」(音楽関係者)。
もっとも、授賞式の模様を中継した CBSは、視聴率的には昨年を5ポイント以上も上回る25%前後視聴率を獲得したと言う。
これはジャスティン・ビーバーを始め、エミネム、レディー・ガガ、さらには同授賞式では初めてミック・ジャガーまでもがライブ・パフォーマンスしたことが大きかったと言われる。
しかし、授賞式後のCBSは、「最優秀新人賞」を受賞したエスペランサとは、どんなアーティストなのか、朝から紹介していた。要するに、米国でも知名度が乏しかったのだ。一方、グラミー賞の事務局やネットでは、ジャスティンが受賞できなかったことへの疑問や抗議が殺到、一時はエスペランサへの中傷や嫌がらせもあったと言われる。
受賞者は、あくまで「作品」が重要視されるが、実際にはアーティスト性も求められてくる。さらに、「グラミー賞」も一つのビジネスである。放送しているCBSとしてはスポンサー対策からも若い視聴者の取り込みが急務になっている。そういった意味でも単に「若いから受賞は出来ない」というのは理由にならない。
「昨年のテイラー・スウィフトに続いて、16歳のジャスティンが最優秀新人賞を受賞していれば、新しいグラミー賞の流れが出来ると期待されていましたが、また逆戻りしてしまった感じですね」(ロスのプロダクション関係者)。
因みに、エスペランサは16、17日にブルーノート東京でライブが予定されている。日本では絶妙のタイミングでの受賞となった。
(渡邉裕二)