低い声の男優はいい役者になる。セリフに説得力を持ち、どんなキャラクターにも染まることが出来ると……勝手ながらそんな持論を持っている。草なぎ剛もその一人ではと思う。
1月スタートしたTBS「冬のサクラ」。切ないラブストーリー。主演の草なぎ剛と今井美樹の抑えた演技に魅せられる。2人の胸に秘めた想いが静かに響いてくる。ゆえに草なぎの低い声が物語のトーンによく合う。当初出演を断ったという今井も、「この役は今井美樹さんでなければ」というプロデューサーの強い思いで実現、ドラマを見れば頷ける。締め付けられるような影のある女性を好演している。草なぎと今井の共演がどんな風になるか気になっていたが、微妙なバランスがむしろ現実感を持たせ、今後の2人の行方が楽しみになっている。
フジ系「いいひと」を見た時からこの人はきっと、と思い、フジ系「TEAM」でエンジンがかかり、フジ系「僕の生きる道」で決定付けた。いずれも関西テレビ制作。その3部作〝僕シリーズ〟は今も根強い人気で、映画「僕と妻の1778の物語」につながる。
「いいひと」は、たしか連続ドラマ初主演。初回で好視聴率をマークし、彼のコメントが新聞記事に載っていた。「僕は数字のことを言える立場ではありません。でも皆さんが喜んでもらえるのは嬉しい」という旨の話をしていたと記憶する。控え目なコメントに好感を持った人は多いのでは。それまでテレビで見ていた彼の印象は、SMAPのメンバーがそれぞれ活躍する中、それほど目立たっていなかったように思う。彼は今後どうなるのだろう?と思っていただけに、ドラマを見て、どこか応援したい気持ちにもなったものだ。
良質なドラマとの出会いは大きい。とりわけ忘れられないのは「僕の生きる道」の第6話。中村(草なぎ)が住むアパートに恋人のみどり(矢田亜希子)が一人でいる時、中村の余命があと10ヵ月と知ったであろう、そのすぐ後のシーン、自宅に戻ったみどりがうしろ姿で黙々とアイロンをかける。そこへ帰宅した父親(大杉漣)が「中村君との食事いつになった?」と声をかける。みどりは振り返らず「まだ決まってな~い」と淡々と答える。黙々とアイロンをかけるみどりのうしろ姿を映す。短いシーンだが、大きな衝撃と現実を受け入れられない悲痛な心情を物語る名シーンだと、印象に残っている。このドラマは説明的なセリフを省き、映像で見せる脚本と演出が光った。その中で草なぎが好演し、ドラマは終盤20%を超えた。
「冬のサクラ」がどこかそれに通じるものがある。俳優として経験を積んだ草なぎの繊細な表情がいい。大人になった〝いいひと〟を演じているようにも見え、本当にいい役者さんになったなと思う。
それにしても、まさか「任侠ヘルパー」でヤクザを演じるとはあの頃想像もしていなかったでしょう。やっぱり、それも低い声ゆえにけっこうハマっていたと思うのですが。