音楽に興味がないシティグループが英EMIの全株式を取得
2011年02月02日
米金融最大手である「シティグループ」は1日、投資会社の「テラ・ファーマ・キャピタル」が保有してきた「英EMIミュージック」の全株式を取得したことを明らかにした。これは、資金難に陥っていた投資家のガイ・ハンズ氏から取得したものだが、この件に関しては早速、ニューヨーク・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナル等の米国の有力紙も報じる騒ぎとなっている。
と言うのも、これまで「音楽ビジネス」そのものに全く興味を持っていないはずの「シティグループ」が「英EMIミュージック」の全株式を取得したことだ、これは実に妙な話だし、驚きと言っていいかもしれない。
「英EMIミュージック」の株式に関しては、4年前の07年に、ハンズ氏は自ら率いる投資会社の「テラ・ファーマ」を通じて40億ポンドで買収した。しかし、その後の業績は一向に上がらなかった。この一件について、米ウォール・ストリート・ジャーナルの日本版は
「07年の企業買収ブーム時のこのEMI買収にはシティグループが資金を提供していた。ハンズ氏の買収のあと、EMIの業績は急速に悪化した。既に始まっていたCDなどに録音して音楽を販売する市場の落ち込みが加速し、金融危機によって協調融資(シンジケートローン)も不可能となる中で、シティグループは買収関連の約30億ドルの債権を抱えたままになっていた。EMIは融資条件を守るのに苦しみ続け、一方のシティグループは債務の再交渉には応じなかった。この件はニューヨークの裁判所に持ち込まれ、ハンズ氏はEMI買収はシティグループに騙された結果だと主張したが、陪審を納得させることは出来なかった」と記している。
とにかく、ハンズ氏は、無茶苦茶なコスト・カッターとして知られ、EMIの経営についても「ヒット曲がわかる耳を持っているという制作陣は必要ない。いかに、どうやったら利益を生むことが出来るのかという制作陣だけが必要だ」と言い出す始末だった。そんな人間の下ではスタッフのモチベーションも上がるはずがない。因みに、ハンズ氏の傍若無人ぶりは漫画にもなっていて、ハサミだらけのシザーズハンズ姿で描かれた。
いずれにしても、EMIの看板だったローリング・ストーンズや元ビートルズのポール・マッカートニーをはじめ、レディオ・ヘッドやQUEENまでもが離れていった。
EMIのロジャー・ファクソン最高経営責任者(CEO)は、今回のシティグループによる買収劇について「EMIにとって極めて明るいニュース」としている。その上で「これによってEMIは少ない債務と相当な流動性を持つ、業界でも最も強力なバランスシートを持つ企業の一つになった。これに立脚してEMIは事業を前進させられると確信している」とのコメントを出した。
シティグループはEMIの財務の体質を強化するというが、正直言って今後の動向は流動的だ。
ただ、「EMIミュージック」は、「レコード部門」と「音楽出版」を抱えている。それも、ビートルズやコールドプレイのCDを出し音楽出版を握っている。そういった意味では魅力的なレコード会社とも言える。
ま、どっちにしてもシティグループは音楽には興味がないというのが定説である。結局、財務体質を強化するとは言っていても、早期の売却を考えていることは明白である。場合によっては「レコード部門」と「音楽出版部門」を切り離して売却することも考えるかもしれない。何でも「レコード部門」は500億円の売値がついている他、「音楽出版」については約1400億円を超える売値がついているなんていうし…。
実際に水面下ではワーナーミュージックやワーナー/チャペルなどに加え、ソニーBMGまでもが買収に向けて交渉に入っているとも言われる。もっとも、EMIミュージックの「レコード部門」に関しては、昨年来、ワーナーミュージックとの合併説が濃厚となっている。が、この問題も今年中にはまとまる可能性は大だろう。
洋楽に詳しい高橋裕二氏は「ワーナーミュージックが売却や買収で雇った金融大手ゴールドマン・サックスとEMIについての話し合いに入るという説が有力」と言うのだが…。
(渡邉裕二)