昨年暮れの「第61回NHK紅白歌合戦」の視聴率は、関東地区で前半が35.7%、後半が41.7%だった。前回の「紅白」と比較すると、前半は1.4ポイント下回ったものの、後半については0.9%だがアップした。サプライズでサザンオールスターズの桑田佳祐が出演した程度で、出場歌手には大きな“目玉”がなかった割には、まずまずの視聴率だったと言えよう。しかし、40%もの視聴率を取る「紅白」は、やはり“お化け番組”だろう。
今や、テレビの歌謡番組は、昨年の「FNS音楽祭」のように21%を取ったケースもあるものの、取れても15%前後。…ということは、「紅白」というのは普段、歌謡番組を観たことがない人が20%以上も観ていることになる。これは驚くべきことだろう。それだけに、CDセールスが低迷するこの時代でも大きな威力を発揮する。
今回も、植村花菜「トイレの神様」のCDが新年になってセールスを伸ばし、15位から1位にランクアップした。しかも、2週に亘っての連続1位である。当初から「狙っていた」ものだったが、これほどまでに狙い通りにヒットするケースというのも「紅白」のなせる業なのかもしれない。
確かに、「紅白」からヒットに結びついた曲は多い。昨年は坂本冬美「また君に恋してる」があったし、その前にも秋元順子「愛のままで…」や、秋川雅史「千の風になって」、すぎもとまさと「吾亦紅(われもこう)」なんかがあった。
一番、印象に残っているのは02年の「第53回NHK紅白歌合戦」に出場した中島みゆきだ。当時、みゆきはNHKの看板番組だった「プロジェクトX~挑戦者たち」の主題歌「地上の星」を歌っていた。そのこともあって「紅白」に初出場、同番組内でも取り上げた「黒部ダム(黒部川第四発電所)」から中継した。この出演部分は、歌手別視聴率でも52.8%という高視聴率を獲得したが、さらに驚かされたのは、年が明けてからのCDセールスだった。
同曲は、00年5月に設立された「ヤマハミュージックコミュニケーションズ」の第1弾として発売されたものだったが、その発売から2年半も経ってからオリコンチャート1位にランクされたのだ。結局、オリコンのチャートでは174週にわたってトップ100位以内にランクイン、最終的にはミリオンにも輝くロングヒットとなった。それは、まさに「紅白」出場によって具現化したものだった。
アーティストや所属事務所にとって「紅白」は、総合デパートのようなものだろう。それだけにあらゆる商品が陳列されている。しかし、商品によっては、そんなところに「陳列されたくない!」「陳列されてたまるか!」と考えたり思う人もいる。反対に、陳列されたくても断わられるものもいっぱいあるし、例え陳列されたとしても他の商品の中に埋もれてしまうようなものもある。いずれにしても、そういったところでは他より商品を最大限際立たせることが必要なんだろう。
「かつて売れた商品」「売れなかったが、再チャレンジを考えている商品」「全く新しい商品」…。人の集まるデパートの販売戦略は、人それぞれだろう。しかし、「紅白」という総合デパートは、大衆店であって専門店ではない。そういった意味でも販売戦略としては「かつて売れた」商品を再アピールすることの方が一番効果的なのかもしれない。やはり一度売れたものは、常にヒットの要素があるものだ。確かに、多くの人の目に留まる場所では新しいものをアピールしたくなるものだが、それは、この場では得策ではないということだ。
そういえば、「ありがとう」を歌ったいきものがかり。昨年11月3日に発売された2枚組ベスト・アルバムは、年末に4位に下がっていたが、年が明けたら再び1位に返り咲いた。